いつだって彼は穏やかで、でもその内には強い仲間意識や情熱があって、魅力は一言で語れない、と思う


「黒子くん」
「白雪さん」


お待たせと言って適当な席に座る。
部活のない、テスト期間には必ずこうやって彼と待ち合わせをして勉強をすることにしていた


「……すみません、ここ、」
「ん?あ、ここはね」


読書家でバスケに関しては負けず嫌いな彼も勉強は意外にも「負けず嫌いの範囲外」に当たるらしく、こうやって適度な点数を取れるくらいに勉強をしている

わからない、と言ってきた問題の解説をしながら己のノートと教科書のメモ書きを見せて、なるべく覚えやすいように工夫する


「時に白雪さん」
「はぁい…あ、他の教科の方がいい?」
「いえ。そうではなく」


そう言ってから黒子くんは好物であるバニラシェイクを飲み込んだ。
勉強のお供にするにはそれは少し熱に弱くて、もう既にカップの外側には水滴がついていた


「名前で呼んでくれるんじゃないんですか?」
「えッ」


黒子くんの大きな、心の中を覗き込むような瞳が私を斜め下から見上げてくる。
そう、血分を行ってから彼に、『名前で呼んでください。いつまでも黒子くん、はさみしいですから』と言われたのだった

しかし何分、恥ずかしさや、あだ名を考えテツくんと呼ぶと桃色の彼女や群青の彼が真っ先に思いつくし、テツヤくんと呼ぶのも……うんまぁ、とにかく気恥ずかしさが前面に出てくるのだ


「うッ…それは、その。呼びにくいというか」
「テツ君やテツはなしですよ、もう既にあの人たちが呼んでますから」
「ええー…」


割りかし呼びやすい方の呼び名を却下されてしまった


「て、テッちゃん?」
「どこかのお好み焼き屋みたいな名前ですね」
「テツくん」
「はナシですと言ったでしょう」
「……頑固よね、黒子くんって」
「それはどうも。いろんな面を知ってもらいたいですからね。白雪さんには」


暖簾に腕押しとはこのことかと思うくらい、私の攻撃は効かないようで攻防にもならない

ああそういえば赤司くんは昔彼のことを名前で呼んでいたっけ──


「じゃあ、テツヤ」
「ッ!」


赤司くんの甘い声で再生される呼び名を言ってみたら、黒子くんは面白いくらいに動揺した


「せっ、せめて君付けでお願いします、」
「あはは、私もなんだか呼び捨てって慣れないや」


テツヤくんともう一度呟いて彼の止まっていた指先を動かすよう促した。
渋ったような、悔しげな表情は今までに見たことないなと思ったら、なんだか心の奥底がじんわりあたたかくなった。



穏やかな、君との新しい日々──


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