白雪に言われたことが頭の中をぐるぐると反芻している、と青峰はめずらしく難し気な顔をして腕を組んでいた
もちろん授業は聞いてなどいないし、彼自身も真面目に受けるつもりは白雪のことが有っても無くても、甚だなかった。
桃井さつきは幼なじみ
誰がなんと言おうとこれは桃井も青峰にも変わらない関係性だ。
高校にまでついてくるとは思わなかったが、黒子が必死に青峰にわからせようとしていたバスケをやる上でも、生きる上でも『大事なモノ』を気付かせてくれたことを考えると、当時の自分は相当危ういバランスだったのだろうと今なら振り返られる
そんな自分に素直に接してくれた白雪
忘れてしまったと聞いてから、彼女に対して妙な喪失感が生まれ胸を苦しめた。
あの瞳と真っ直ぐ向き合うことは出来ないのかと、ぼんやりとした絶望を感じた
そしてつい先ほど、真っ直ぐに見つめて紺青は言った
『いつもさつきちゃんが基準だよね』
この言葉に含まれてるのは嫉妬、と捉えていいのだろうか
「──っつっても、さつき自身がアイツのこと、好きだしな…」
ぽつりと呟く。
手元でいじくっていたシャーペンを見ながら、この手が掴むモノは仲間を繋ぐバスケットボールと紺青の瞳を持つ華奢な手だけで充分だと瞳を閉じる
授業が終わる間近、瞳を閉じた瞬間に流れ込む、未来
黒猫を模した靄が大量のノートを抱えて階段を降りようとしている白雪の足を引っ張る。
そうすれば、もつれて前倒しに落ちてゆく白雪の体とバラバラ崩れるノートのタワー
「ッ!」
「おい、こら青峰!」
まだ終業のチャイムが鳴る直前だったが青峰は走り出す。と同時に鳴るチャイム
白雪の教室に行った方が早いか?
しかし青峰と白雪の教室は離れている。
休み時間が始まって廊下に人が溢れうまく身動きが出来ない、白雪の後ろ姿を見つけても意味はない
確実に呪による行動から彼女を守らなければ
ならば、と身を翻し白雪が降りるであろう階段と反対側の階段を使い職員室を通り過ぎて、彼女が来るはずの階段の下にたどり着く
「──赤司くん」
「………」
やっぱり、という思いが強く彼を貫く。
彼女の心には絶対的な不可侵領域がある
赤司という名の──
数瞬止まっていればニャアンと声がする
「チッ」
本当は姿を見せた瞬間に祓うつもりだったが、迷いのせいでそれが遅れた。
え、と戸惑う声と、青峰くんと彼女は小さく呼んだ
「白雪ッ!」
白雪は声に向かって手を伸ばす。
視界を舞い落ちるノートが邪魔だし、角が頭に当たって痺れるほどに痛いが、必ず、必ず。
彼女を受け止めるのだという強い想いと共に手が繋がった
「いってェ!」
「ッ…」
白雪の頭を抱きしめ、手足も打撲しないよう青峰が完全にマットの役目を果たした為、床に尻餅をついてすぐ声を上げる。
白雪は衝撃と驚きに声が出なかった
「あーマジでいてェ…おい、白雪。ケガねーか?」
「、?え、あ、青峰くん…?」
「お前が呪にちょっかい出されんのが視えたから全速力で来たんだよ、バカ」
「なっ!そんな、ちょ、ケガない!?」
自分が抱き込まれてると気付いた白雪はペタペタと青峰の腕や肩を触り確認する。
制服着てるんだからそんなんでわかるわけねーだろ、と少し呆れながらも可愛い、と思ってしまう自身にもまた呆れ彼女にもたれかかる
「あ、あの大丈夫?ごめんね、ありがとう…」
「はあ…とりあえずノート拾って持ってくぞ。俺にケガはねーから」
「うん…」
ぽんぽん、と白雪の頭を軽く叩いて散らばったノートを拾い始める。
チラリ
白雪を見れば口元に手を当てて困った顔で丁寧に一冊一冊を拾い上げていた。
しゃがみ込んだその体勢から彼女らしい色の下着が見えている。
アングル的にも、男にとっては美味しすぎるご褒美
「あーもう、あとは俺が拾って持ってくからお前は教室戻っとけ」
「えっ。そ、そんな悪いよ」
「いい」
そう言って彼女の柔らかくもほっそりした二の腕を引っ張り立ち上がらせた
「今日一緒に帰るぞ。迎え行くから待っとけ」
「え?でも今日部活あるでしょ?」
「それより大事なことがある」
さっきの無防備な格好もそうだし、力がなくなったとはいえ気を抜きすぎだと叱ることと、それと──
『赤司くん』
ズキリと青峰の胸を痛めさせるその、わだかまり
「あ。そういやお前、さっきパンツ丸見えだったから」
ノートを持って去る前に振り向いて、ベッと舌を出す
「なッ…!?」
白雪の悲鳴が聞こえた気がしたが、それには振り向かなかった
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