放課後、逃げ出しても良かったけれどそれをしなかったのは、彼と向き合うため。
自分なりに青峰くんを選んだときから赤司くんへの信頼に似た依存症を断ち切ったつもりでいたが、そんなことは思い上がりだったらしい


『平気かい?』


それだけが入力されたメールを見て、赤司くんもまた私が呪によって危うい場面に陥るところを見たんだろうと察する。
けれど、このメールに返信するのは、きちんと群青と向き合ってから


「──…帰るぞ、白雪」
「うん」


迎えに来てくれた青峰くんに手を引かれ、教室を出る。再び集まる視線に、今度は俯かない。

変わらなきゃいけない

もう私に憑く妖狐もいなければ、特殊な声もない。
妖怪と人間の狭間。
だけれど何に怯えることはない。
だってこのぬくもりがいつだっていてくれるから

繋がれた手を一旦解いて、指を絡めて再び繋ぎ直せば青峰くんは驚いたように振り向いた。
その視線から逃げないで。照れくさいけど、私が好きなのはあなただから。
伝われ、と思ってはにかんでみる

何も言われなかったけど、また前を向いてしまった彼の耳は赤く染まっていて。
幸せだと、ゆっくりと瞼を一瞬だけ閉じた



たどり着いた公園のベンチで、微妙に距離を開けて座る。
青峰くんは無言で何処かへ行ったと思ったら、自販機で飲み物を買ってきてくれた


「ん」
「あ…ありがとう」
「何が好きかわかんねーから、水にした」
「私、炭酸が飲めないから。嬉しい、ありがとう」


そっぽを向く顔を覗き込んで笑えばまた彼は耳を赤くする。

可愛い

狼の姿を見てからというもの、彼の一挙一動がなんだか可愛く見えてしまう。
もふもふしてて、でも鋭い視線と群青は変わらなくて。
かっこよかったのに、彼が気を遣っておとなしく触らせてくれたから可愛い、という印象が強い


「そういやお前についてた呪はあのとき祓ったからな」
「へ?」
「階段で転ばされたヤツ。お前にそのまま憑いていきそうだったから、足元にいたのを捕まえて祓った」


私に戻れと言って後ろを向いたあとにそんなことをしていたとは。
私自身、落ちたあとに抱き止めてくれた青峰くんに気を取られてあの黒猫のことは忘れていた


「わ、忘れてました…」
「ンなこったろーと思ったよ。もうちょい危機感持て。呪にも、男にも」
「男の人…?う、うん。わかった」
「わかってねーだろ」
「いッ!?いひゃ、いひゃいいひゃい!」
「このくらい痛くねーだろ。おお、意外と伸びんな。大福みてぇ」


みょーんと青峰くんにほっぺたを引っ張られる。
もう、いつもこうやって青峰くんは私をからかうんだ


「白雪」
「…?」
「お前、やっぱ…赤司が、よかったか?」
「!」


ほっぺたを引っ張っていた手が肩に置かれて、彼は俯いた。
弱気な彼を、初めて見た


「あのね、きいて青峰くん」


私、さつきちゃんにヤキモチ妬いちゃったの
血分をしたって、いつも青峰くんの心の中にいるのはさつきちゃんなのかなって思ったら怖くて不安で、でもすごく嫌な気持ちになったんだよ


「こんな気持ち初めてで、どうしたらいいかわかんなくて。言わなきゃよかったっていう気持ちと、でもどうしても納得してきれない気持ちが出てきて…ごめんね、青峰くん」


たぶん青峰くんが私に抱いた気持ちと、私が青峰くんに抱いた気持ちはおんなじもの。
すれ違いで、思い違い。
私たちは、信頼し合ってるようで何かが牽制されてて線引きをしていたんだと思う


「あのね。好きだよ、大輝くん」
「……ばーか。先に言うなよ。白雪」


肩に置かれてた手が私の輪郭を包み込んで、上を向かされたと思ったら唇が触れ合った




returm next




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