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メイド喫茶に行ったことは許せないけど、メイド服を着れるのは嬉しい 秋葉名戸中のまあそこそこ可愛いメイドマネージャー達に手渡された服に袖を通した。


キモオタに散々写真を撮られた後、視線を感じてそちらを向けば 守君が私のことをじっと見ていた。



「守君?」

「昨日さ俺 そういう服〇に似合いそうだなぁって思ってたんだけど、やっぱり似合うな!お姫様みたいでかわいいな!」



守君はメイドとプリンセスの違いすらわかってないみたいだけど、そんな事を言われると思ってなかったから嬉しくて頬がとろけてしまう!

当たり前だけど 他のマネージャー達には一言もかけずに、守君は皆と試合前のミーティングをする為にベンチの方に歩いていった。



「ふふ、私の勝ち」


「なにが...?」

「アナタ達にはひとことも言わなかったね、可愛いって」


「そう言われたところでどうなるっていうのかしら...貴女ってそればかりでつまらない人ね」



雷門夏未の声に腹が立って 目を見開いて振り向けば、もう彼女は豪炎寺くんの横に立っていた。

ムカつく、素直に負けを認めればいいのに。


ホイッスルが鳴るまでの間 私はムカついてヒクつく心臓を抱えて、守君の事をにこにこと笑って見つめた。張り付けた笑顔だけどきっと彼にはわからないから。










試合が始まってから 相手チームの意味不明なプレイとさっきの雷門さんの言葉のせいでムカムカしすぎてたまったもんじゃないから トイレに逃げた。

ずっと時間を潰すことに。トイレにまで小さく聞こえてくる歓声、守君頑張ってるかなー?



「メイド服着れるんならポニーテールじゃなくてツインテールにしたら良かったなぁ」



試合はきっと勝つに決まってるから私は少し眠たくてぼーっとする頭を必死に起こして、何度も自撮りしては 編集を繰り返して保存していく。



「〇さん...?」



小さくドアの開く音と、木野さんのおとなしい声が聞こえた。携帯をポケットに直して「なに?」とひとこと言えば 彼女は困ったように笑いながら私の方に...。



「体調大丈夫?中々戻ってこないから」

「大丈夫だよー 別に1人で」

「何かあるなら私に話してね」

「なんで木野さんに言わなきゃいけないの?」


「...心配なの、」



絶対嘘だ、彼女の方に1歩進んで顔を覗き込めば「顔色悪いわよ、〇さん」と心配そうな声を零した。



「そんなに心配してくれるなら 守君に近寄らないで」

「えっ?」

「私ね 守君が他の女の子に誘惑されたりしたらどうしよーって考えたら夜も眠れないの、不安なの だから心配してくれるならもう仲良くしないで」

「いやっ、〇さん...部活をやってる以上は...」

「じゃあ辞めれば?」



彼女が困るようなナイフを沢山刺していけば案の定 困り顔からちょっぴり怒った顔になった、口角を上げないように注意しながら私は更に彼女にこう言ってみせる。



「守君に選ばれたのは私なんだから」

「いい加減にして」

「あれっ?怒っちゃった?」

「円堂君達の練習や試合をしてる姿貴女ちゃんと観たことある?」

「...なに?」

「貴女は円堂君のこと何もわかってない」



別れてよ!とかヒステリーに叫んでくれると思ったのに、木野さんは冷静に私に向かってそう言い放つと トイレのドアを静かに開けて戻っていった。



「なんなの」









まただ。また 〇の機嫌が悪くなった、後半戦が終わり着替えを済ませば更衣室前に 膨れっ面の〇の姿が。



「...おつかれ、守君」

「お おう、さっきベンチに居なかったけどどこ行ってたんだ?」

「ちょっと体調が悪くて吐きそうだったからトイレにいたの そしたらね...」



膨れっ面に赤い目、昨日のヒステリーな〇を思い出した。また泣き出してしまいそうな〇の腕を引っ張って 俺は誰も来ない非常階段の方に連れていった。

気持ちいい風が吹いてる中、〇は薄らと口を開いて こんなことを言い出した。



「木野さん、私達が付き合ってる事良く思ってないみたい...」

「えっ 木野が?」

「こんな事言いたくないけど...守君の前じゃ木野さん、優しいフリしてるから...私っ」



守君を取られちゃうんじゃって怖いの

「木野はそんなやつじゃない!」と言うべきなのに、俺は固まってしまって 一言も何も言えなかった。









あんまり眠れなかった日はなんでこんなに気持ち悪いんだろ、吐き気を押し込めるように 母ちゃんが焼いた目玉焼きを胃に流し込んだ。

〇はあの後もノンストップでピンクの唇を忙しそうに動かして、木野や夏未の話をしてた。


はああっと溜息を吐けば ちょっと塩辛い目玉焼きのせいで、お米が欲しくなって口の中一杯にかきこんだ。夏未はキツいところがあるから多分〇が勘違いしても おかしくないけど、木野はそんな事言うわけがない これは〇の勘違いだって言えば あんなにも目を大きく見開いて また怒られた。



「はぁ」

「どうした?守、今日は溜息が多いな」

「父ちゃん...なんで女の子って仲良くできないんだろうと思って」

「女の子と喧嘩したのか?」



珍しいなと楽しそうに笑う父ちゃんに「俺じゃなくて!」と言えば「女の子の事なら お母さんに聞いてみたらどうかな」と返された。



「母ちゃん...」



きっと、母ちゃんに聞けば彼女である〇の事を根掘り葉掘り聞いてくるに違いない そんなのは恥しくて嫌だ...!

残りのご飯全部口にほりこんで、俺は水で流し込んでしまった。



「考えても仕方ないから、俺 今日何とかしてみるよ!」



コーヒーを手に持ちぱちぱちと何度も瞬きをする父ちゃんにガッツポーズを見せて、俺は学校へ行く為の準備をしに部屋に戻った。










あれからもう二日経つのになんで守君は私の言う事守ってくれないんだろう。



「皆、気合入ってるなぁ!」

「次は地区大会決勝戦だもの、気合いも入るわよ!」

「勝てば全国、負けても全国、何がなんでも全国だ!...うー 俺もじっとしてはいられない!」



木野さんはにこにこと子どもっぽくはしゃぐ守君を優しく見つめる。



「...私が言ったこと忘れた?」

「〇さん 本当に円堂君のことを思うなら、今の大事な時期を潰そうとしないで 」

「大事な時期?サッカーなんて高校生になってもできることでしょ、そんな事よりも彼女の方が大事に決まってるもの」

「...許さないから」

「は?」


「頑張ってる皆の邪魔をするなら、私本当に許せないから 〇さん」



黒々とした大きい瞳を 私に向けた木野さん、ムカつく顔 絶対守君の事貴女に渡さないから。私はスカートのポケットに忍ばせたものをぎゅっと握って 部室に向かった。


部室に入って私は深く深呼吸した、守君が私よりもサッカーが好きなんて そんな訳ないでしょ。ポケットからカッターを取り出して私は 左手首にそっと刃を当てた。


左手首に一本細く線を引く、薄らと皮膚が切れただけで血は滲まない うーんもっと深くしないとダメなのかな。次は ぎゅっと目を瞑って強めに切り付けてみた、鋭い痛みがチクチクと広がって 目を開けてみたらぽたりと床に落ちる程深く引けたようだ。

赤い血が汚い部室にぽとりと落ちていく、なんだかスーッとさっきのイライラが消えたように感じる。



「いったぁ...」



どんなシチュエーションでこれを守君に見せようかなぁなんて考えながら、ドアを開けると グラウンドで練習してるはずの皆が 冬海先生と一緒に裏門の方へと向かっていた。



「もう、あんなにいっぱい人がいたら見せれないじゃん」



20180621