野坂君の

「野坂さん...ちょっと、さっきの どういう事なんですか...!?」

「やあ もう部屋に帰ってると思っていたけど、まだ居たの?」

「話 逸らさないでください」



彼女は眉間に皺を寄せて俺の腕を掴んだ、聞かれてしまっていたか 部員達に話さないようにしっかりと言い聞かせないといけないな。

もう1度椅子に座って 俺は彼女を見た。



「横に座れば?」

「...はい」

「どこから聞いてた?」

「全て聞いてました」

「全部本当の事だよ」


「なんで、」



冷たくもない 温かくもない 何となく吹いてみせる風の温度に虚無を感じながら、俺は空を見上げた。綺麗な色 彼女はそう言うんだろななんて、思いながらわなわな震える彼女の左手を見つめたを



「野坂さん」

「どうしたんだい?」

「私と野坂さんは恋人だと思ってましたけど、違うんですね」

「そうだね 違うかもしれない」

「それでも あの雷門のマネージャーよりは、私の方が貴方を好きなのに...なんで そんな大切な事...私には言ってくれなかったんですか...、」

「必要無いと思ったから」



俺が死んでも誰も悲しまない ずっとそう思って生きてきたし、彼女だって西蔭だって神門杏奈さんだってそう 俺がこの世から消えたところでまた新しい誰かを探して生きて行く。

今涙を流したって いつか俺を思い涙を流すことは無くなるんだろう、3ヶ月の命だと告げられたところで 俺に未練はないから悲しくもなかった。

筈だったのに、



「なんで、そんなに 涙を流すんだい?」

「野坂さんのばか...」

「どうして」

「死んじゃダメ 死んだら、」

「大丈夫 どうせ俺は必要のない子供だったんだよ、愛されなかったんだ だから また次の新しい命になる それだけだから」

「...私にとっても、西蔭君にとっても 野坂さんは大切な人なんですよ、そんな言い方しないでくださいよ」


「なんで、君の涙って なんでこんなに熱いんだ」



ぽとり ぽとり 雨みたいに音をたてて落ちていく涙が不思議でそっと触れてみる、火傷するんじゃないかってくらい熱くて眉をしかめると 彼女は真っ赤になった目で俺を睨みつけるように「野坂さんの事が好きだからですよ!」と叫んだ。



「馬鹿だね」

「野坂さんこそ」

「死ぬ時は死ぬんだよ それが早いか遅いかだけの事」

「それでも悲しいです 野坂さんが、心から幸せだって笑う事も出来ずに 冷たくなっていくなんて 嫌だ」

「...大丈夫」



大きな粒 涙って、1本流れるだけが涙じゃないんだ。まるで 水風船の中身が零れ落ちているような、大粒の涙を彼女は流し続ける。

これは全部俺への 涙なのか。



「ねえ、君は こんな俺を好きで幸せだった?」

「...今死ぬみたいな言い方やめてください」

「まだ もう少しだけ時間はあるよ」

「それでも」

「俺だって 誰かを幸せにできたのかなって、知りたいんだ 教えてくれ」



もう 薄らとしか覚えていない母親の後ろ姿、俺は彼女を幸せにはできなかった悪い子供。



「...あなたに出会えたから 私は愛を知れたし、少しだけでも野坂さんと触れ合えた時間は幸せでしたよ」

「そうか」



まだ 涙が止まらない彼女の額に唇を押し当てた、じんわりと汗で濡れる額。俺の命が尽きる頃 彼女は俺を抱き締めて、名前を呼んでくれるだろうか。

目を閉じれば 清潔なベッドの上で、彼女と西蔭が優しい涙を流している所が見えた。




20180713