ビングルビングル

 目が回る。
 立ちくらみを起こしたのだろうか、ぐらっと倒れ込んだ私の周りで誰かが大きな声を出す……やめて頭に響くから、と言いたいのに声は出ない。そんな薄れる視界で青が揺れた。

+*+*+*

 目を開けたらそこは保健室だった。
 起き上がればガンガンと頭の中で誰かが暴れているような感覚に襲われる、ぐっと頭を抑えて「せんせー」と情けない声を出せば向こうの部屋から「起きたか」と聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「えっ、鬼道くん……?」
「さっきお前が教室の真ん中で倒れたものだから運んできた、保険の先生は生憎外出中らしい、お前に付き添ってくれと担任の先生に言われた」

 鬼道君はスラスラとそう言うと私の方に近寄る。

「……ごめん、鬼道くん」
「別に謝らなくてもいい、どうだ体調は」
「少し頭が痛くて……がんがんいってるかんじ、頭の中に何かいるみたい」
「頭痛か、変に薬を飲んだら危ないから横になって目を瞑っておけ」
「うん」

 風邪の時みたいだけど少し違う、私は鬼道君に言われた通り横になり目を瞑った。ぐわんぐわんと目が回っている感じが永遠に続いて部屋が動いてるのか私が回ってるのか……なんて変なことを考えてしまう。不安になってぱちりと目を開ければ鬼道くんがベッドの足元の方に置いてある椅子に座ってこっちを見ていた。

「き、鬼道君……?!」
「なんだ」
「もしかして私の事見てる? 気の所為ならごめん」
「見ているが、それがどうした」
「いや、そこから見られるとブサイクだから出来れば見ないで……恥ずかしいし」
「……別にどこから見ても変わらないだろう、可愛らしい顔をしていると思うが」

 鬼道君は涼しい顔して大胆な爆弾発言を落とす。赤面してしまう私に首を傾げて「熱があるようだ待っていろ」と言い向こうの部屋に行ってしまった。何言ってるの鬼道君、恥ずかしさに火照る頬と耳をひんやりとした指で冷やしていたら彼が体温計を持って戻ってきた。椅子を私の寝ているベッドの横に置いてそこに座ると体温計のスイッチをピッとつけ私に手渡す。

「熱を測った方がいい」

 彼の前でシャツを緩めて脇にこれを挟むなんて少し恥ずかしいが、鬼道君はきっとそんな事どうだっていいんだろう。ボタンをひとつ緩めてピピピッ! と急かす体温計を脇に挟み数秒待った。無言の私と鬼道君、気まずくてへらっと笑えば彼は少し驚いた様に眉を動かした後口角を少し上げて微笑み返してくれた。意外だ……。
 そう感じて「鬼道君ってそんな優しい顔できるんだね」と言ったらピピッ! と体温計が鳴く。心外だったのか、眉間に皺を寄せいつもと同じ顔をする鬼道君は「どういう意味だ」と怪訝そうな声を漏らした。

「いや、悪い意味じゃなくて」
「良い意味でもないだろう、貸せ……36℃か、平熱だな」
「本当だ、どうしてだろう」
「朝食はとったのか?」
「朝ごはん……? あーそういえば食べてない気がする毎朝バタバタしてるから」
「それが原因じゃないのか? 規則正しい生活に3食のバランスのいい食事適度な運動は必要だ」
「なんか先生みたいだね鬼道君」
「真面目に聞け」

 体温計を箱に戻し鬼道君は私の頬を触る、急に触れられたせいで私はびくりと体を跳ねさせてしまった。

「な、なに」
「顔色が悪い」
「ちゃんと明日から朝ごはん食べます……」
「それと、夜更かしをするなニキビ出来てるぞ」
「えっ!?」
「ほら、ここだ」

 私の指を掴んで忌々しいニキビの場所を教える鬼道君。
 ぽつりと出来ているニキビの存在を確認して嫌そうな顔をすれば鬼道君は楽しそうに笑った。

「なんで笑ってるの……?」
「いや、お前が情けない顔をするもんだからすまないな」
「だって……かっこいい男の子にそんな事言われたら恥ずかしいんだもん……」
「かっこいい……? 俺が?」
「うん」
「……そうか」

 少し照れくさそうに頬をぽりぽりとかいて鬼道君は私の指から手を離す、ピアニストみたいに細くて綺麗な指を見つめていたら腕の筋肉と目が合った。細い体からは想像出来ないくらいしっかりと鍛えられた腕に目を奪われる私。

「……ねぇ、鬼道君って確かサッカー部だったよね」
「ああ」
「なんでそんなに腕ムキムキなの……? ゴールキーパーは円堂だよね?」
「ああこれか、腕のトレーニングをやり過ぎたんだ」
「へえ……なんか、意外でどきどきした」
「何を言ってるんだ」
「変な意味じゃなくて!」
「変な意味だろう」

 片眉を上げて怒った顔をした後、鬼道君はおかしそうに笑った。
 朝まで、いやたった数分前までただのクラスメイトだったのに急に近付いた距離にドキドキが止まらない。

「鬼道君」
「今度はなんだ」
「今度サッカー部の練習見に行ってもいい?」
「サッカー部のか?」
「うん、いや……鬼道君の事もっと知りたいなって思って、迷惑だったら断って」
「迷惑なんかじゃないさ、見に来てくれ」

 ふわり。
 桜の香りがしそうな鬼道君の微笑みに心臓がぎゅっと縮む、私は緩みきった口元を手で隠して布団に潜った。


20191105◇Bingle Bingle
→修正20210816