「佐久間監督 お世話になりました」
「〇か」
コツン ローファーを鳴らす音がやけに響く、振り向けば彼女は泣き出しそうな瞳を揺らして俺を見ていた。
「高等部に行ってもサッカー部のマネージャーをやるのか?」
「...どしようかな」
「どうした」
彼女の少し長めのスカートから伸びる足が1歩俺に近付いてきた。
「サッカー部の子と佐久間監督と離れるのさみしいなって」
「別に一生会えないわけじゃないだろう」
「ほとんど毎日会えてた人と会えなくなるのは寂しいですよ」
「俺だって寂しいさ 自分の生徒達が居なくなるのは」
「生徒、ですもんね」
気が付いていないとでも思っているのか、俺へと向けられた視線への答えを彼女に悟られないようにするのが礼儀というものだろう。
「〇 高等部でも、またマネージャーをやってみたらどうだ」
〇は答えない、爪先で地面をコンコンと蹴って寂しそうに笑う。
「私、サッカー部には佐久間監督が居たから入ったんですよ 勿論みんなの元でマネージャーをしていたこの1年間は本当に楽しかったですけどね」
「〇」
「だから サッカー部マネージャーはもうしません、悲しくなっちゃうだけだから」
俺たちを繋ぐものがなくなるな、なんて 青臭いことを口にしそうになるのをぐっと堪えて 困ったように笑いかけて見せた。
「そうか」
「監督、たまに サッカー部見に来てもいいですか」
「構わない いつでも来い」
「ありがとう ございます」
「1年間お疲れ様、〇 またな」
春の香りはこんなにも冷たかったか。
俺達は触れ合えない距離を保って、暫く見つめあった。
20190316