かなり優しい彼

  今月も鈍痛がキツイ。
 子宮に広がる痛みが、私の頬っぺたにまで影響を与えてるようだ。どれだけ頑張ってそこそこ高い保湿クリームを塗っても、生理前は全部無駄になってしまう。あー……全部無駄だ。我慢してカロリーを削ったところで、体重計にのれば何故か増えている。乳房が張っていて、トイレから寝室までのたったの五歩でさえしんどい。今月こんなに痛いってことは生理痛かなり酷そうだな。
 そんな憂鬱な気分のまま部屋に戻ると、有人がソファーで寛ぎながら小難しい本を読んでいた。お揃いで買った有名なルームウェアブランドのモコモコパジャマを着ている有人が馬鹿みたいに可愛く見えて、憂鬱な気分が少し和らぐ。ドアノブに手をかけたまま見惚れていると、部屋に戻った私に気付いたらしい、有人はゆっくりと視線を私に向けこちらへ来いと手招きをしてきた。
「そろそろか?」
「え?」
「辛そうだな、生理前だろう」
「……私は有人の事好きだからイイけどさ、多分これが違う男なら引いてたよ」
「当たり前だ」
 顔色だけで気付かれ、月経周期を把握される程に彼と親密な関係になっているのか。出会いを考えると、こんな関係になってるなんて信じられないな。モコモコの靴下を履いてから私は有人の横に座り、肩にすりすりと子猫のように頬を擦り付けてみせた。明日、明後日には来そうな生理にうんざりしながら有人のぬくもりに甘える。
「は〜生理一年くらい休みたい」
「ほう」
「なに、その顔……」
 本を鈴蘭の形を模した間接照明の下に置くと、彼は私をジッと見つめた後、ゆっくりと覆いかぶさってきた。彼の圧に負けて柔らかなソファーに沈む。あまりにも突然の事で驚いていると、方目を細め悪戯っ子のような表情を見せる有人。
「お前がそんなに言うなら、止めてやってもいいぞ」
「……おやじくさいな〜」
「嫌いじゃないだろう」
 そう笑うと、有人は私の唇にそっと唇を重ねた。押し倒す時は乱暴だったくせに、心底『愛してる』が滲むキスをしてくるのもだから泣きそうになるくらい気分が高揚する。ちろっと入ってきた舌を絡めると、彼が作ってくれた夕食の味がちょっぴりした。だけど、全然嫌なんかじゃない。最高に生きてる感じがして、彼とのキスにとろとろとお腹が溶けていくのが分かった。吸ったり、甘噛みしたり、私の舌を追いかけ回して、口内を犯してくる有人の舌に思わず恥ずかしい声が漏れる。
 こんな事されたら、胸もお腹も痛いけど、劣情に火を点けられてしまい彼が欲しくて堪らなくなった。もぞもぞと太腿を擦り付け身を捩り、すっかりと火照ってしまった体を押し付けると「ここまでだ」なんて、残酷な言葉を私に落とす有人。
「ここまでしといて」
「お前の生理が終わるまでお預けだ」
 有人は絶対に生理前と生理中には手を出さない、……舌は出すが。ぽんぽんとあやすように頭を撫でられる。そんな事されても、悶々とするお腹の中はどうしようもないくらい熱を持ってる。
「一週間半後覚悟しておくといい」
「……いっぱいしてくれるの?」
「ああ、一年間生理に悩まないようにしてやる」
「それ、生理痛が悪阻に変わるだけじゃん」
 私の呆れ声の後、にやっと悪役顔負けの笑みを浮かべた。中学生の頃から大好きだった笑みに見つめられ、未だにときめいてしまう私は病気だなぁ。あーあ、生理早く終わらないかな。私の蕩けた顔を愛しげに見つめ、有人はゆっくりと額にキスを落とした。
「お前にとって生理は辛いだけのものだと思うが、お前との間に子供が欲い俺にとっては大事なものだ。いつも痛みに耐えてくれてありがとう」
 鈍痛のするお腹を優しく撫でた後、有人は立ち上がり私に手を差し出す。私は「生理来なくなったら有人に全部やってもらうからね」と手を取ると、彼は「そのつもりだ」と私の手を引きふかふかのベッドへとエスコートしてくれた。


20211203 修正