網の上に少し乱暴に寝かせられた肉は熱を通し薄いピンク色から どんどんと茶色く変色していく、彼の白い指が薄長いトングを掴んで ひっくり返した。
親指と人差し指にレモンを挟んで絞った、白い小皿にぽたぽたと新鮮な香りを落とすように 皮が変形するまで押し潰す。彼が焼いてくれてる柔らかい塩タンをレモン汁に付けたら、じゅっと音が鳴るかな。楽しそうなおしゃべりや、元気のいい店員さんの声、隣の席の咀嚼音、目の前にいる彼が塩タンを嚥下する音にかき消されないように耳を済ました。
ジュッ...
まるで フレンチキスのように、一瞬だけしか鳴らないこの音が 身悶えしてしまうほど好き。口に運ぶと爽やかなレモンの風味 粗挽きコショウのガリッとした食感 そしてタン特有の噛み進める程にねっとりとしてくるその味わいを 名残惜しいが胃に落とした。
「美味しいね、一郎太が焼いてくれたからかな?」
「はは お前の為に焼いたからな」
ビアジョッキで出されたウーロン茶の氷が溶けてきてカランカランと音が鳴った、まるで 音楽を聴いてるみたいだ。
六切れほどしかない大きくカットされた塩タンを半分こして食べて、次は タレのお肉にトングを伸ばした。私を奥の席に座らせて 手前の少し狭い席で彼は私の顔を満足そうに見て また 少し乱暴にカルビを乗せた。網の上に寝かされたというのに、激しい音を立てて カルビは起き上がろうとする。じゅわっと流れ出してきた赤い肉汁が 食欲をそそるが、なんともない顔して 彼を見た。
ひっくり返されたお肉の中には薄い部分が少し焦げてて、その苦さを想像して 唾が沢山出る。一郎太が私の取り皿に綺麗に焼けた方のカルビを2枚乗せてくれた。
「どうぞ」
「ありがとう!焦げてる方でもよかったのに...」
「バカ、お前には美味しい方食べてほしいんだよ」
自分で言った言葉が恥ずかしかったのか、照れくさそうに ネギとゴマが申し訳程度に乗せられたタレにカルビを絡め ぱくぱくと2枚口に運んだ一郎太。一番いい状態に焼けたカルビ、たっぷりと肉汁をタレに混ぜる様にして小さな白いタレ皿の中をぐるりと一周。
タレでコテコテ光るカルビを口に運んだら じゅわっと柔らかいお肉と官能的な味に んーっと鼻を鳴らした。
「次は ホルモンいくか?」
「いいね!シマから焼いてよ」
「おいおい、俺だってそれくらい知ってるぜ?」
馬鹿にしてくれるなよって顔で眉毛をあげた一郎太は女顔のくせに 男っぽい表情を見せる、ホルモンを網に 今度は優しく乗せるとより一層激しくじゅうじゅうと音が鳴った。
「◎、今日は なんか静かだな」
「ん?そう、かな?」
「ああ 何かあったか?」
キス以上の事を今日シテくれるのかなって、ずっと考えてたから顔に出てしまったのかな...すっかりと焼けたホルモンを引っくり返して あぶらの部分を軽く炙るようにして焼く。
「ほら、食べれるぞ 早く」
取り皿に乗せる前にタレにくぐらせたホルモン、少しだけ取り皿につけ過ぎたタレを落として口に入れた。クリーミーに広がるあぶらの甘さが自然と私の頬を緩ませる。
どんな顔して食べてるのかなって一郎太を見たら、少しだけかさついている下唇にあぶらとタレがテカリと光っていて ヌラヌラしている唇に喉を鳴らした。
綺麗な中指と人差し指で唇についたあぶらを拭った一郎太、少し開けた口の中に 赤い舌がちろっと見える。はあっと息を漏らして 半開きになった口を見て「おいおい、情けない顔してるな」なんて...熱っぽい目で見てくる一郎太、背中に少し汗をかいて 服が張り付いた。
▽
会計を済まして店の外に出ると アーケード越しに薄らと見える黒は すっかりと夜になった証拠。店の中では匂っていた私の香水も、店を出ると焼肉臭く香水の匂いがしない。
一郎太の肩におでこをぽんと当てて「ご馳走様でした」と言うと、嬉しそうに笑う声が聞こえた。
「寒いな」
「うん...寒いね」
「...なぁ、◎ その...この後 どうする?」
頬をポリポリとかきながら、一郎太は私の手を握った。
「一郎太と二人きりになれるとこが、いいな...」
私の言葉に じんわりと汗をかいた手、私の身体か熱くなったのか 彼の体が熱くなったのか どちらか分からないけど...彼の顔は ほんのり赤くなっていた。
20180323