茜は今日も喋らなかった。
ツンと鼻をつく薬品臭さすらコイツはもう感じれねえのか、心が破壊され尽くした人間は 嗅覚も聴覚も視覚も...すべて無駄になる。茜が見つめた先にある 綺麗な空の色も小鳥達も 昔の俺とお前みたいなガキ二人がでっけー飴食べてるところも俺の声も 俺の顔も、俺の気持ちもお前は感じ取れないんだろ。
また来る と言い残し、さっき取ったクマのぬいぐるみを撫で 部屋を出た。振り返ったが 隙間から見える茜は相変わらず外を見ていた。
待合室に行くとテレビから 豪炎寺の声が...その内容は俺を挑発する内容で 眉間に皺が寄る俺はその場から逃げるようにして病院を出た。
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今日も無事に授業を終えて外に出た 木戸川サッカー部のスポンサーであるZゼミは木戸川生なら安くで入れるものだからそれを聞いたお母さんがその日に私をZゼミに連れていったのが始まりだ...。まあ、豪炎寺君の大ファンである私はこの 豪炎寺君のクリアファイルが手に入るので嬉しんだけど...!
「オイ」
「...はい、?」
「お前 木戸川清修だよな」
「そうですけど、って 灰崎凌兵...?!」
「来いよ」と無理矢理私の身体を引き寄せて腰に腕を回された、試合で何度も観たことある 灰崎凌兵はいきなり女を抱き寄せる チャラい男だったってこと...??
なんて、馬鹿な事を考えてると グイッとすごく乱暴に引っ張られてもつれた足で転ばないように必死について行った。
「あの...」
「その制服、ムカつくんだよ」
「え?そんなこと言われても、」
「黙れよ」
いつの間にか繁華街のド真ん中、ゲームセンターとコンビニの間を抜け...生ゴミくさい路地を通り 開けた場所に出た。空き地?ゲームセンターからの音が少し聞こえる程度で 後は空が薄暗くて周りはあまり見えない。
「...あの、私...帰らなきゃ」
「ウルセェ」
整った綺麗な顔が近付いてきたと思えば、私の唇を冷たい唇が塞いだ。生気を感じない彼の唇は 少しだけ柔らかくて、私のファーストキスは 豪炎寺君の為にとっておいたのに いとも簡単に別の男の子に取られた。
しかも 向こうは私の名前を知らないのに...全然ロマンティックじゃないのに、彼の綺麗な瞳のせいでドキドキしてしまって キスを受け入れた。
「ムカつく ムカつくんだよ」
「...あの、え ごめ」
「お前じゃねェ!」
「っ!ごめんなさ、い」
大きい声に驚いてビクッと震えてしまった、恐る恐る目線をあげれば 今にも泣きだしそうな顔して灰崎君が「お前じゃねぇって言ってんだろ」と呟いた。全然彼の事を知らないのに...私までなんで悲しくなるのか。
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濃い緑の制服を乱暴に捲し上げれば 白い肌に臍が見えた、1歩2歩3歩と後退りする女を追いかければ 女の背中がコンクリートの壁に。壁に押し付けるようにして 女にもう一度キスをしようとすれば...頭を撫でられた。
「な、にすんだよ」
「泣けばいいのに」
「...泣かねーよ」
母親にしかこんな風に撫でられた事ねぇってくらい、何年ぶりだよ コレ。俺の頭を撫でながら 「ファーストキス奪われたんだから、責任取ってよ」と眉を落として笑う女に 自分が今何をしようとしてたかを思い出して クラっと脳みそ溶けちまいそうになる。
「...すまねぇ」
「あはは 謝れるんだ」
「うるせぇ」
女の体から2歩離れて背を向ければ、すっかり暗くなっちまった空が見えて 深呼吸した。
「〇◎」
「...そうかよ」
「酷いな、私のファーストキス奪っといてさ 名前くらい覚えてくれてもいいじゃん」
「俺も初めてだった」
本当だ
大人になれば、自然と茜と恋をして キスをして 子供を作るんだろうとか考えてた自分の ささやかな人生を奪ったアレスを許さねえって思い復讐を始めたのに 俺まで潰されて何してんだか。
「...私が 代わりになろうか?」
「はあ?」
「泣いてるじゃん」
頬を濡らした涙は嘘だと思っていたが、真実だったらしい。背中をひと撫でしたあったけぇ手は現実で、世界に取り残された俺に懐かしい優しさを思い出させやがって。
「ムカつく女」
制服の袖で乱暴に涙を拭って〇の方を向けば、心配そうに笑ってこっちを見てた。
「お前のせいだからな」
「灰崎君のせいでしょ」
数秒間唇を押し付ければ俺の手をぎゅっと握りやがった、唇が離れて 〇の顔を見れば 茜の顔を思い出して。こんな時まで 俺は茜の事考えてんのかよ。
「灰崎君 今日は帰ろう」
「ああ」
〇は俺の肩から手首までを滑るようにして撫で、小指に自分の小指を絡ませた。
20180505