彼氏にすっぽかされた、枝垂れ桜の下で私は 彼に5回目の着信を。切られたのかプープーと虚しい音が耳元で鳴る せっかく3時間も前からここで薄ピンクのレジャーシートをひろげて待っている私の気持ちはガン無視ですか...。
歯を食いしばると 口の端に唾液がたまる、それを お茶と一緒に飲みこんで私は空を見上げた。
枝垂れ桜が風に揺れて その隙間から雲ひとつない空が見えて、まるで 私はこの世界に存在してないのかもって気持ちになってきた。
「はぁ これどうしよう」
お弁当箱に綺麗に並べた色とりどりのおかず達、おにぎりには彼の好きな手作りのおかかと梅肉であえたささみが入っているというのに 彼の胃袋には届かない。100点満点のお弁当を見つめてると 涙がぽろりと落ちてしまった、おにぎりにぽたりと落ちた涙は色はないが とても暗い色に感じる。
「オイ」
「...え?」
枝垂れ桜と灰色の髪が同じ方向に揺れている、誰...?この子?日に焼けた肌と 灰色の綺麗な髪 不思議な色の瞳は 私の膝の上にあるお弁当を見つめてる。
「ソレ」
「え?えっ、と これ?」
「横、座っていいよな」
どかりと 二人分の広さしかないレジャーシートに細い体を落として 入ってくる彼、まだ私の持つお弁当を見つめている。お、お腹空いてるの...かな?
「えっと、食べる...?」
「そのつもりだけど」
「そのつもりなんだ... はい、お箸」
私の指から、奪い取る様にお箸を受け取ると 特製のおかか入りのおにぎりを左手に持ち 右で持っている箸で だし巻き卵を掴んだ。
綺麗な黄色が彼の唇に触れて、真っ赤な舌の上にのった。優しい味に仕上げたそのだし巻きは 彼氏の為のものだったけど、無表情だった灰色の髪の彼が 少しだけ微笑んで私を見たから...もうどうでも良くなった。いい意味で。
「美味しい?」
「ああ」
「これは、生姜焼きだよ 食べてみて」
チューブじゃなくて切り刻んだ生姜で作った生姜焼きは、ツヤツヤと光っていて 彼の不思議な色の目が輝いた。箸で掴んだそれを口にほりこみ、三回噛んでからおにぎりに口を付けた。
「しょっぺえ」
「...あっ、ごめん それ」
「泣いてただろ」
「見られてた...?」
私の涙が5粒落ちたおにぎりを、もう一口。正直汚いからやめて欲しかったけど なんだか私の気持ちを彼が食べてくれる気がして 止めることが出来なかった。
次は何を食べようかと迷い箸をする彼が可愛くて、くすっと笑うと 「なんだよ」 と 綺麗な目をこちらに向けた。
「お名前は?」
「灰崎凌兵」
「灰崎君か、私は 〇◎」
「ふーん」
私の 名前には興味が無いって顔でだし巻き玉子の横にある唐揚げに狙いを定め灰崎君はおにぎりの上にのせて大きく一口でぱくりと口に入れた。少し頬を膨らませて もぐもぐと食べる彼は とても幼く見えるけど...一体何歳なんだろう。そして、急に私の目の前に現れてお弁当を食べ出すってよく考えたらやばいよね。
その時 携帯がけたたましく鳴った。
「あ、彼氏だ...」
「出たら?」
「うーん そうだ、ね」
耳にスマホをあてると、彼の寝惚けた声が聞こえてきた。「寝てたわー」と言う 謝りもしない彼に対して また腹が立ってきて私は少し声を荒らげた。
「ねえ、私が今日何時からお弁当作ってたと思ってるの?」
「二日酔いで頭いてーからあんまり怒るなって、お前の弁当なんかババくせぇし...それより家こいよ ごめんねセックスしてやるから」
「はあ?もう最低!」
また 涙がこぼれる私は灰崎君に見られたくなくて俯くと、弁当箱と箸を丁寧に私の膝の上に置き 携帯を取られた。
「あー もしもし?今日から◎は俺にしか弁当作らねぇから」
「は?お前誰だよ」
「女泣かせんじゃねーよ、クズ」
それだけ言って通話終了ボタンを押す灰崎君、ぽかんとする私に 灰崎君はとてもウザそうな顔で「見てんなよ」とまた短く一言。
「...時間ねえから、弁当貰ってくわ」
「え??」
「また 明日この時間にココな、サッカーの練習があるから 今日は帰る」
それじゃ、もう泣くなよ。
立ち上がった灰崎君の頭に枝垂れ桜の枝が触れて、その衝撃で散る桜の花びら。ヒラリヒラリと舞う中で 灰崎君は 意地悪に笑って私のお弁当を持ち一度も振り向かずに サッカーの練習?に行ってしまった。
「なんだったのか、な...?」
またかかってきた彼氏からの着信は拒否して、明日作る灰崎君用のお弁当のおかずを検索する事にした。
20180406