アンサーを待てはしない

「あー、負けちゃったね...」

「うむ だが、みんなよく頑張っていた」



もうすっかりと 夏の匂いがする風が吹く様になったなぁ、試合の熱が冷めやまない中 じんわりとかいてしまった汗。ハンカチで拭きながら私達二人は後輩達の元に。



「キャプ...いや、杉森先輩と〇先輩!」

「何しょげた顔してるのよー下鶴君!」



下鶴君の首根っこを掴んで私は頭に拳をぐりぐりとあてて彼に喝を入れた、ちらりと杉森君を見たら新しいゴールキーパーである小間君の元に。



「杉森先輩...すみませんでした、負けてしまいました...」



キュッと目を瞑り落ち込んだ様子で頭を下げる彼の肩にぽんと杉森君は手をのせて優しく笑った。



「楽しんで試合ができたのなら、何も落ち込むことは無い 悔しいという気持ちは明日の練習にぶつけるのだ」

「...!!はい、ありがとうございます!」



優しい目をするなぁ 杉森君の事を好きになったあの試合を思い出した、後輩達の前でダラダラと説教を垂れるような男じゃなければ 一緒になって落ち込むような男でもない 彼なりの男気を見せて 短く「また、頑張れよ」と言って小間君の肩をまた優しくぽんと叩いて杉森君は出口に向かった。

その後ろを慌てて追いかければ、後ろから可愛らしい後輩達の「ありがとうございます!」という元気な声が...!



「杉森君ずっと変わらないね」

「うむ、そうだろうか...?」

「あんなふうに怒らずに 楽しかった?って聞ける先輩は中々いないよ、去年の雷門との試合を思い出しちゃった」



あの後すぐに付き合った私達のことも思い出す、キラキラと淡いピンクの匂いがしそうなあの告白とか 初めて杉森君が楽しそうに笑った時とか...



「...また、円堂と戦いたいものだ」

「1年の我慢だね 私もまた試合してる姿見たいなぁ」

「俺も負けていられないな、明日から特訓だ」



会場近くの喫茶店で コーヒーを飲みながら杉森君は大人びた表情のくせに瞳だけをメラメラ燃やして窓から外を見ていた。











会計を済ませて◎の持つ重たそうなカバンを肩にかけて、彼女と共に店を出た。



「杉森君、いいのに...!」

「こんなに重たいもの何が入っているんだ」

「女の子は色々荷物が多いんだよー」

「そういうものか」



◎は もう1年も経つんだからそろそろ女の子の事理解できるでしょ、なんて悪戯が失敗した子供のような顔で俺を見る。

ふっくらと膨らんでいる頬はとても柔らかそうで、先程まで◎が食べていたふわふわと飛んでいきそうなほど軽い食感のケーキを思い出す。女子は可愛いもので出来ているなんてCMがあったな。確かに、◎は可愛らしい。



「俺だって 少しは成長していると思うのだが、まだまだ足りないだろうか」

「真面目なんだから...」

「すまない」



目をぱちくりさせた後、眉を落として楽しそうに笑った◎。会場から流れ出てきた人混みに押されながら 駅の方へ向かう、やけに静かになったな...そう思い後ろを振り返れば ◎が遠くで 困った顔をして人混みに揉まれていた。



「すぎ、もりく」

「...◎大丈夫か?」



抱きかかるように引き寄せれば彼女は 仄白い頬を赤く染めて、俺の体にすっぽりと収まった。



「腕に掴まっておけ」

「うん、」



彼女から発せられる熱は小さな掌を伝ってブレザーとシャツを汗で湿らせる、何故こんなにも熱いのだろうか。










電車に乗ってる間も、降りてからも 彼女は俺の腕にしがみつくように掴まっていた。たまに 頬を擦り寄せては俺の顔を見る◎、どう反応すればいいのか分からずにずっと前を見ていた。

もう彼女の住むマンションへ着いてしまった。



「...着いちゃった」

「ああ」

「...杉森君...少しだけ、屈んでくれない? 」


「こうか?」



彼女の目線に合わせるように少しだけ屈めば、体験した事の無い柔らかい熱が 唇に触れた。二歩後ずさる彼女は この間実をつけたミニトマトのように赤々としていて 随分と愛らしい別れの挨拶だと 体制を元に戻した。



「...う、れしくなかったかな」

「そんなことはない」

「私、初めてあんな風に抱き締められたから...その キスしたくなって、」



この吐きそうなほどの愛しさをどう表現すれば彼女は喜ぶんだろうか、口下手で 感情を表に出すのが苦手な俺には 彼女が眩しすぎる。



「杉森君は違ったかな、ごめん...」

「いや、違う...すまない お前がいつも可愛くて 上手く気持ちを伝える事が出来ない...こんな俺がお前と一緒にいてもいいのだろうか」



自分の眉間に皺が寄っていくのが分かる、彼女は俺とは反対に顔が緩んでいく なんだその情けない顔は。



「杉森君、うれしい...」

「俺だって ずっと触れてみたかった」



彼女のサラッとなびく髪に触れてみた、随分と柔らかくて 指に絡まる。次に赤みが引かない頬をつまむように親指と人差し指で挟めば 火傷しそうなほど熱かった、そして 滑らすようにして唇を右から左に撫でると「すぎもりく、」と可愛らしい声が。



「あの、杉森君...」

「...すまない、つい」



ぱっと手を離せば 熱が冷めていく、彼女は俺の幸せだと伝えたい 心臓の一部なのだと伝えたい。

だが...喉から出た言葉は 触れてしまったことへの深い謝罪だけだった。難しいものだ。



「嬉しいよ、謝らないで...杉森君も私に そういう気持ちが少しでもあったなら それだけで嬉しい」

「...男女の事を勉強する」

「え?」

「まずは どうすれば、お前に気持ちを伝えれるかを勉強するとしよう」

「...ん?」



その角を曲がればDVDのレンタルショップがあったな、そこへ寄って 男女の恋愛とは何かを学べるものを借りよう。


◎に別れを告げて、俺は足早にレンタルショップへと向かった。




20180529