サッカー部の施設付近で壁の塗り替え中に私はペンキを被ってしまった...真っ白なペンキが私の髪や首 制服を垂れて足を染めていった。やってしまった...。こんな姿を誰かに見られるのは嫌だったので 飛び込んだロッカールーム前にある大きな観葉植物の裏に隠れて 時を待った。
そして...綺麗な灰色の髪を湿らせて出てきた灰崎君、これでもうロッカールームには誰もいないはず...!どたばたと ロッカールームに入りガチャっと鍵を閉めた。
今日ジャージを持ってきてて良かった、タオルもあるし 髪の毛にへばりついて乾いてしまったこのペンキをとりたい。ロッカールームの隅に荷物を置いて 私は制服のボタンを外した。
「...灰崎?まだ居るのか?」
ピチャっと 水音が聞こえた、私はブラウスを脱ぎキャミソールと ペチコートだけの姿で水音と聞いたことの無い声に身体を強ばらせた。
しばらくの沈黙、声を出した彼は紫の薄い扉を開け コチラを見た。真っ赤な瞳が 少し遠くにいる私の姿をとらえる。
見開かれた赤い目と、白い肌に湯気を纏わせた彼は 最近サッカー部に派遣されてきた雷門中の鬼道有人だと 気付く。
ヤバい
どうしようか、薄いピンク色のキャミソールをバスタオルで隠して「もう誰もいないと思って...!」と言うと 紫の扉は閉められた。
どうしよう、どうしよう?
灰崎君が最後だと思ったのに、いつの間に 入ってたの?鬼道有人...!!一度も喋ったこと無い彼の白い肌を見てしまった私は どうしようもなく動揺している。
「あっ、あの...!」
「すまない すぐに洗うから待ってくれ」
語尾はシャワーの音にかき消されたけど、少しだけ焦りの混じった声だった。鬼道君も 私みたいな誰かも分かんないような女に身体を見られたら恥ずかしいだろう...。申し訳なくて 手に持っていたバスタオルを身体に巻いて 静かにシャワーの音を聞きながら床を見つめ 待つ事にした。サッカー部の施設に誰の断りもなく入ってしまったので、外に出て誰かに見つかると 怒られてしまうし...私は今ここで静かに静かに待つことしか出来ない。
キュッと蛇口を捻る音がした。
「すまないが、後ろを向いててくれないか」
「あっ はい...後ろ向きました...!」
「すまないな」
ペたりぺたり 綺麗な青色が映える床を歩く音が聞こえる、こちらに近付いてきてる鬼道君に 何故だかドキドキと胸が高鳴る。どうしよう...!いや、どうしようって 何がある訳でもないんだけど...。
「すぐ着替える」
背後から声がした、ロッカーを開ける音 服を着る時の小さな音までもこんな静かな場所だと鮮明に聞こえる。どうしようもなく恥ずかしくて 唇を噛んだ。
「あの、ごめんなさい...もう誰もいないと思って」
「いや 大丈夫だ、そっちは大丈夫か?汚れてるみたいだが」
「ペンキを被ってしまって」
ペンキを...?と少し私を馬鹿にしたような笑い声が聞こえた、この人笑うんだ...!?
「笑い事じゃないですよ...」
「いや、すまない...ここの生徒は皆 静かな奴等が多いから そんなドジをする奴もいるのだと安心したんだ」
「ひ、ひどい!」
「もう着替えたぞ」
自分がバスタオルを巻いている情けない姿だということは忘れてしまい振り返った。片眉を上げて、鬼道君は私から目を逸らす。
「...誰か入られたら困るだろうから、此処で待ってる」
「え、そんな 悪いです」
「見られたら困るんじゃないか?」
「......困りますね」
「早く入ってこい」
▼
灰崎かと思いちらりと覗いたロッカールーム 見た事の無い女生徒がだらしなく口を開けて俺を見ていたものだから驚いた。
女生徒がシャワーを浴びている音、こんな経験あるだろうか。いや ない。星章学園にもあんな ドジな奴がいるとは思わず、鼻で笑ってしまって悪い事をした。
小さな音が鳴りシャワーの音は消えた。
「出ても大丈夫ですか?」
「ああ 後ろを向いている」
正直 後ろに裸の女生徒がいて、二人きりでこんな所にいるのは 恥ずかしかった。気にしてない態度をとって見せてはいるものの かなり心臓が早く動いている。
「お待たせしました、着替えました!」
「ああ...それじゃあ行こう」
ほかほかと火照る頬をにこりと膨らませて俺を見る、その表情にドキっとしてしまった。まだ濡れている髪が彼女の細い首に張り付いている 初めて性を感じたこの瞬間を俺は きっと忘れないだろう。
▽
星章学園の前に停められた鬼道家の車の前で俺達は立ち止まった。
「今更だが、名前を聞いてもいいか?」
「遅くなってごめんなさい...!〇◎です、宜しく」
「俺は鬼道有人だ」
「サッカー部に派遣されてきた雷門中の選手ですよね...ちらっと見たことあるから...!今度、試合観にいってもいいですか?」
断られると思ったのか、恐る恐る俺の顔をのぞき込む〇。そんな姿が 前ペットショップで見た小さなチワワのようだった。
「ああ 勿論、待ってるぞ〇」
そう言えば 爽やかな香りを漂わせ 〇は嬉しそうに笑い俺に手を振り「またね、鬼道さん!」と言い去っていった...。 車で家まで送ると喉まで出かかっていた言葉は、俺の青臭さが邪魔をして言えなかった。
「有人様ご機嫌ですね」
「袴田、今日は...いい日だった」
今日は久し振りに 円堂や豪炎寺達に近況報告でもしてみるか。
20180414