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「灰崎君 部活はもう終わったよ」

「別に ただ風を浴びてただけだ」



強い風に目を瞑る〇の姿を見付けて立ち止まった、アイツはいつも 1人で泣きそうな顔してグラウンドを見てやがる。

俺の髪が揺れて視界を遮る中、オレンジ色に染まった〇が 俺に笑いかける。そんな顔に この場には居たくないと脳みそが嫌がっている「じゃあな 先輩」と言葉を投げ捨てた。



「灰崎君、そろそろ 部活に来なさいよ」

「気が乗ればな」



どうせ、鬼道にでも頼まれてんだろ。

〇には目もくれず 俺は校門を抜けて病院へと向かった。









遠くに見える灰崎の後ろ姿と 手を伸ばせば触れられる距離にいる◎の後ろ姿、俺の顔を見るのすら嫌だろうな と乾いた笑いを零して俺は◎に近付いた。



「...有人、お疲れ様」

「さっきのは灰崎か?」

「いつも 部活が始まる前に帰るか、部活が終わってから来るんだから」



困った子だね、夕焼けに染まるグラウンドに向かってポツリと呟く◎はあの日からずっと同じ表情だ。今スグにでも 彼女に触れたい気持ちを抑えて、俺は深く息を吸った。



「◎、すまないが 少しアイツを気にかけてやってくれ」

「...分かった」

「頼んだ 気が利くお前なら、灰崎も心を開くだろう」



それじゃあな 、軽く手を上げて今まで通りに◎の肩にポンと手をのせようとしたしたが、これじゃ もっと深く無神経に彼女を傷付けるだけだと...空気を握り 手を下ろした。

こうやって 俺達は他人になるのか。

血色の悪い顔で俺を恨めしそうに見つめる◎、いつも綺麗に手入れをしていた毛先はカサつき 柔らかさを感じなかった。いつも俺の為に綺麗にしてくれていた爪も唇も、もう何も塗られていなかった。



「ばいばい 有人」



別れの挨拶は 聞きたくない。

自分の考えを曲げるのは嫌いだが、こんなにも辛いものとはな困ったように眉を落とした俺の顔を見て ◎は「着替えるから」とサッカー棟へと向かっていった。









もう数名しか残っていないこのサッカー棟は不気味な程ひんやりとしている、向こう側から雷門の強化委員としてやってきた〇の姿が。具合が悪そうに下を向いて目元を押さえる彼女は自分の足を踏みバランスを崩した...何をしているんだ。

星章で預かっている大切な生徒だ 怪我をされたら困る。



「おい、大丈夫か」



間一髪、〇の身体を支えて 顔から転びそうになっていた彼女を救えたようだ。俺を見るなり 目を見開きポタリと大粒の涙を落とした。



「監督、すみません 大丈夫です」

「...泣いてるじゃないか」



彼女の涙が零れ落ちる音が響きそうな程静かな廊下、頬を伝う涙をなぞるように拭き取り 立たせれば。ずっと背の低い彼女が私を見上げた。

その顔がなんだか可愛らしく、少しだけ口角を上げれば 私にしがみついて 今度は大きく...子供のように泣き出した。



「好きなだけ泣くといい」



何があったか分からないが いつも感情を見せない彼女が、人間だったのだと安心した。
私のシャツに顔を押し付けて、シャツに黒々とした染みを作る。

〇は嗚咽を廊下に響かせて 暫く静かになったと思えば、ハッと我に返って 私に「すみませんでした...」と謝り 逃げるように走って行った。

私のシャツに彼女の清潔な香りが移ったようだ、ムスクと石けんの香りが あまりにも真逆で相性が悪いというのに 何故か心地好かった。











今日も灰崎は練習に参加しなかった、深く溜め息を吐けば 角から〇さんが泣きながら走ってきた。



「〇さん...?」

「水神矢くん」

「どうして泣いてるんですか」



いつもポーカーフェイスな彼女が瞳を潤ませて泣いているその姿に胸が痛くなった、肩をできるだけ優しく掴めば彼女は俺の瞳に視線を送る。



「ごめんね、なんでもないの...本当に」

「でも、」

「優しいね 水神矢君」

「誰でも...心配しますよ」

「そんな 綺麗な目でずっと見られたら緊張しちゃうよ」



無理矢理笑う〇さんに「す、すみません」と謝り肩を離した、開けっ放しの窓から吹いてくる 優しい風がくすぐったくて 目を細めると...彼女にも可愛らしいところがあるのだと 安心して胸が一瞬キュッと縮んだ。



20180508