04

久遠監督の事が頭から離れなくなってしまった。きっと、私は 1年くらい有人の事を引きずって恋愛なんてしてられないと思っていたけど...。

いとも簡単に 自分よりもうんと年上の、しかも 監督を...好きになってしまった。気持ちを伝えられない分マシかな、想いを思い出にはしたくないから。


有人を好きになった瞬間や 付き合った日をよく覚えてる、初めてキスした日の匂いまで...別れてからも思い出すのは辛いから 恋なんてしたくなかったのになぁ。



「おはようございます 〇さん」

「わ、水神矢君 おはよう」

「今日は 髪の毛あげてるんですね」

「そう 最近ボサボサだったから、ちゃんとしようと思って」



いつもは灰崎君みたいに無造作におろしている髪を、ポニーテールにした たまに首筋を撫でる 髪ゴム代わりの短いスカーフを風に揺らして「どうかな?」と聞いてみた。彼の為にした訳では無いけど、そんな事を聞いてみたい気分だった。



「似合ってます なんだか、明るく見えますし」

「嬉しい ありがとう、明日は試合だから 今日の練習気合入れて頑張ろうね...!みんなの為にはちみつレモンでも作ろうかな」


「...なんだか本当に元気ですね?」



水神矢君はぱちぱちと瞬きをして、そして 笑った。



「迷惑かけてごめんね、水神矢君が話を聞いてくれたから 元気出たの」

「...!俺は、何もしてませんよ 〇さん」



ちらりと横目で彼を見れば、少しだけ頬を赤らめて恥ずかしそうに笑っていた。白い肌だから 赤くなるとすぐ分かるんだなぁ、なんて事を考えていたら校舎についてしまった。



「また、放課後ね」

「はい 今日も、よろしくお願いします」



相変わらず礼儀正しく彼はぺこりと頭を下げて、行ってしまった。



「◎さーん!!!おはようございます!」

「春奈ちゃん!」



有人と別れた時も彼女は変わらずに接してくれるのでありがたい、春奈ちゃんは二年生になって少しだけ大人っぽくなったようだ 背も伸びて 可愛らしさの中に清潔な大人の香りが混ざったように感じる。



「ついに、雷門と試合ですね うー私どんな子達が入ってきたのか楽しみです!」

「分かるー 下手な試合したらぶっ飛ばさなきゃね」

「◎さん野蛮ですよ!」



ケラケラとくらだらないことで笑えるのもいつぶりだろうか、階段をのぼり教室に向かう間 春奈ちゃんと会話をしながら久遠監督の姿を探した。

残念ながら居なかったけども 私は久遠監督のことを考えている間は、辛さから解放されるので 存在しているということだけで満足なのかもしれない。



「それじゃまた、放課後ね」

「はい!」



バイバイと小さな手に振り返して 教室へ。











そろそろ部活の時間が始まる。

試合まで時間が無いからか、焦りながらも 確実にレベルアップしようと強化委員である鬼道の言葉を漏らすまいと必死に練習についてくる選手達を眺めながら たまに、横に座っている〇に視線を長す。

ここに来て初めて 明るいオーラを見た、スカーフを風に揺らしながらポニーテールをたまにいじる彼女は真剣に 選手達のプレイを見つめている。

時々ノートに選手達のクセや弱点などを書き、じっと〇を見ている私と目が合うと恥ずかしそうに逸らす。

その姿はどう見ても アレだった。



「〇 そろそろドリンクの準備を」

「監督、それなら 後ろに置いてあります」

「...そうか」



照れくさそうに笑いながらもペンを走らせ、選手達の情報を記入していく。綺麗な字を書くな 立っていた私は 彼女の横に座り、ノートを覗き込んだ。



「か、監督」

「ほう...こんなに細かく書いていたのか」



ビッシリと細かく選手毎に 日々のトレーニングの成果、練習内容などを付箋やシールを貼り分かりやすくしている 女の子だから出来ることだろうか。

恥ずかしそうにノートを隠して 私の目をじっと見つめる〇。



「あんまり見ないでください 恥ずかしいです」

「それは選手達に見せるのか?」

「いえ、コレを鬼道君に渡して 彼がまとめて彼等に伝えてくれるんです...雷門でもそうしてました」



鬼道有人を見るその目は 揺れていて、ああ きっと彼女が笑わなかった理由はソレなんだろう と気が付いてしまった。だが、気が付いたからと言って 世界を変えようと思えるほど俺は若くない。



「そうか ありがとう」



ただ、監督として 感謝を述べる事だけが今の自分に出来る唯一の正しい事だ。





20180601