06

星章学園の圧勝、まあ それは仕方ない。レベルが違い過ぎる...今日も灰崎君は暴れ倒したって感じのサッカーで味方諸共捩じ伏せていった。



「勝ちましたね」

「ああ」



素っ気なく聞こえるその言葉の裏側を知っているからか、私は久遠監督に少しだけ近寄って昨日のことを思い出した。


拳3つ分離れた距離を保ちながら「危ないから」と言ってまた家の近くまで送ってくれた、電車の中 階段を降りる時 角を曲がる瞬間 何度も触れそうになった手。

久遠監督は重なる影を見つめた後 私に目線を向けた、絡まった目線を解こうとしない私達は暫く静かに見つめあう。

「睫毛長いな」「え?」

笑ってしまいそうな程ロマンティックな雰囲気の中、久遠監督は拳3つ分を捨て去り人差し指で私の睫毛に触れた。

「監督、」「すまない」

触れた指の熱が睫毛越しに伝わってきたかと思った、目頭がほんのり温かくて 目尻はひんやりとして 思わず息を飲む。離れていく指を名残惜しく見つめていたら久遠監督は「嫌じゃなかったか?すまない、」ともう1度言った。

「嫌なんかじゃないです、そうじゃなくて 少し驚いただけで」「嫌じゃなかった か」「あっ、その...いや その」

これじゃまるで恋する乙女全開じゃないか、情けない程動揺した私の姿に久遠監督は優しく笑って「あまり大人をからかうな」なんて...。



「ザコが」



私が昨日の事を思い出している間、いつの間にか私の横からは久遠監督の姿は無く 目の前には試合を終えた後の灰崎君が。



「珍しいなお前が熱くなるとは」

「ちょっとアイツらのサッカーを見てムカついただけだ」

「ほう...」

「ザコのくせに目だけは一丁前にギラギラさせてやがった」

「ああ、お前がアイツらを見てイライラした理由はアイツらが本気で勝とうとしていたからだ」



灰崎君は初めてを教わった子供のように目を見開いて驚いた表情を浮かべる。そんな顔が相可愛らしくて 少し笑ってしまうと「なんだよ 鬼道の女」と睨んできた。



「しつこいよ 灰崎君」

「お前らの学校あんなザコの弱い連中が入ってきて アイツらを強化しに行けよ、俺らには必要ねぇ」

「それは私達が決めることじゃない」

「気分悪ぃぜ 帰る」



彼は長い髪をボサボサにして、随分と怒った顔を私に見せ 控え室に行ってしまった。



「すみません 怒らせてしまいましたね」

「いや、灰崎はああいう奴だ」

「優しいですね」


「...お前にだけだ」



久遠監督は爆弾を落として 他の部員達の元に行ってしまった。



「久遠監督...」



彼が眩しくて目を細める、と向こう側から「◎ー!!!!」と大きな声で叫びながら大谷ちゃんが走って来た。









「今日の結果は残念だったけど、皆すごく頑張ってたの...!」

「はいはい もう泣かないでよ分かったから」



大谷ちゃんは伊那国から来た新しい雷門イレブンについて熱く語って綺麗な涙を流している、彼女が一生懸命話をしている間 私は不味い紅茶にシロップを2ついれて 相槌をうった。



「伊那国島からわざわざ東京に来た彼等の熱い思いを聞いたら、円堂君 きっと彼等を好きになると思うの!あーあ...会わせたかったなぁ」

「彼等がサッカーを諦めない限り絶対に会えるよ、だって 円堂君はサッカー好きな子を引き付ける能力があるじゃない」



円堂君かぁ 私も会いたいなぁ。
秋ちゃんにも夏未ちゃんにも、みんなに会いたい。

まだ部員がマネージャーを抜いて3人だった頃、私は遠目で秋ちゃんがガミガミと彼等を練習させていたのを見てた。円堂君が大好きなサッカーを諦めたくないからと 学校中を駆けずり回って部員を集めていたあの日、私もお手伝いがしたくなった。

その頃は帝国のユニフォームを着ていた有人の事、豪炎寺君が入部したあの日、染岡君が一生懸命努力して身に付けた必殺技...。

風丸君は私がくだらないことを言ってもいつもニコニコと笑ってくれた、栗松君や壁山君が隠れて食べてたポテチを没収した時彼等は甘えた声で私に返してと頼み込んできたなぁ、土門君にからかわれたり、宍戸君と枕の話もしたっけ。影野君はいつも控え目だったけど優しかった、目金君と少林君がつまらない事で喧嘩して仲裁に入ったっけ。松野君はよくイタズラしてきた、半田君とは委員会が一緒で良くお喋りしたな、一之瀬君は英語を教えてくれた。

深い部分まで全部皆との思い出で埋まっている私の心が破裂しそうなほど痛んだ。



「えっ!?ちょっと...!!!◎!?」

「っ、ごめっ......私みんなに会いたくて...」

「な、泣かないでよ...星章には音無さんに鬼道君だって居るのに」


「私さ 有人とは別れたの」



ホームシックみたいなものか、私達が知っていた雷門のユニフォームがガラッと変わってしまったあの光景に すべてが散り散りになってしまったのかと思ったからか、今日の私は 浮き沈みがとにかく激しくなっていた。



「え!?あんなにラブラブだったのに...」

「フラれたの いきなり、ポイ捨てみたいに」

「そんな、」



大谷ちゃんも私も目に涙を溜めて暫く見つめ合うと、頼んでいたケーキのてっぺんにちょこんと乗せられた苺にフォークを突き刺した。




20180617