「...辛かったね、相談してくれたらよかったのに」
「大谷ちゃんも大変だったでしょ 伊那国の子達の面倒見ないといけなかったんだし」
テーブルナプキンを何枚使ってしまったのだろう、固いそれで鼻がガサガサになってしまった。
有人の事をこうやって愚痴れる人なんて本当に1人も居ないから、つい喋り過ぎてしまったようだ。
「◎と鬼道君とってもお似合いだったのに、」
「みんなそう言ってたし 私もそう思ってた」
「でも絶対なにか理由があるに決まってるよ、そんな人じゃないもん鬼道君は」
「...だから、余計に悩むんだよね」
はぁ、ほんと 病む。
少ししか残っていない不味いアイスティーを飲みきって私は大谷ちゃんの手を握った、彼女は少しだけ潤んだ瞳をこちらに向けて「どうしたの?」と笑う。
「誰にも言わないって約束できる...?」
「え、今の鬼道君とのこと?勿論言わない!」
「違うの有人の事は恨みまくってるからどんどん言ってくれてもかまわない、北海道までライン飛ばして染岡君にチクってくれても全然いいんだけど...もう1つあるの」
「...もう1つ?」
すぅーっと息を吸って 深く吐いてみた、ぱちぱちと何度も何度も瞬きをしてごくり 大谷ちゃんが唾を飲み込んだ音に合わせて私は口を開く。
「星章学園の監督好きになっちゃった」
「...え!?!?!」
「絶対言わないで、誰にも言えなくてモヤモヤしてたの 聞いてくれてありがとう」
「つ、きあってるわけでは無いよね?」
大谷ちゃんがずいっと身を乗り出して私に顔を近づけ「そんな訳ないでしょ、片想い」と返せば安心した様に笑った。
「...複雑だけど、私は◎の友達だから!応援するよ」
「ありがとう 世界一いい女だよ大谷ちゃん」
「もー あんまり褒めないで!...でも、気を付けてね ◎」
それじゃ、お家のお手伝いあるからそろそろ行かなきゃと帰り支度を始める大谷ちゃんを見送った。もう一杯だけ不味いアイスティーを飲んでから帰ろう、なんだか秘密を打ち明けたあとの高揚感って堪らない。
お財布を持って席を立ったら、左側に見覚えのあるハットが...。
「...久遠監督、」
「バレてしまったか」
▼
本当に偶然だった。
彼女が来る前から後ろ側の席に居たが、急に泣き出したので挨拶をするタイミングを失ってしまった。聞き耳を立てるつもりもないが、すぐ側の席なので全ての話が私の脳内にインプットされてしまった。
勿論"星章学園の監督好きになっちゃった"という爆弾発言には、コーヒーを吹き出してしまいそうなほど驚いたが その気持ちは嬉しかった。
「もしかして、 聞いてましたか?」
「ああ この距離だから聞こえてしまった」
「忘れてください、」
「忘れられるわけがない」
彼女の瞳を見れば 幼さの中に芽生え出てきた大人の色がきらりと光る、じんわりと熱を込めた眼差しを向けてしまっていただろうか 目を逸らせずどんどんと頬を赤く染める彼女に「こっちに移動してこないか」と 自分から手を出してしまった。
「...いいんですか、?」
断ってくれと心のどこかで 自分の良心が叫んだが、良心に蓋をしたのは彼女だった。いや 私か。
泣き腫らした目を恥ずかしそうに水で冷やして彼女は 大きく深呼吸を。
「恥ずかしいです」
「...私も年甲斐なくさっきの言葉に胸が痛くなったさ」
テーブルの下でそっと指先を彼女に伸ばす、それに気が付いたのか 赤い顔を俯かせて私の指先に自分の指先を重ねてきた。
キスやセックスよりも、刺激的なその熱を消さなければいけないというのに どうしても熱を高めたくて そのまま指を絡めてしまった。
「監督の手おっきいですね」
「お前は小さいな」
角の席は誰にも見られないから、いい気なものだ。若い彼女を私はどうしていくつもりなのだろうか じんわりとかいた汗で湿り出した指と指の隙間を擦るようにして手を繋ぎ直した。
「私は 教育者として失格だ」
「そんな事言わないで下さい 私が誰にも気持ちを言わなければ、こうはなってなかったんですから」
口は災いの元だと言うでしょう。
少し寂しそうにそんな事を言う彼女に「私とお前のあいだにあるのは災いだけだろうか」と、大人気ない言葉を吐けば 〇は「もっと 早く産まれてきたかった」と可愛らしい言葉を漏らした。
20180622