彼女の分の紅茶と自分のコーヒーを注文して 席に戻れば彼女は照れ臭そうに微笑んで私を見上げる、コトンと冷たい紅茶を彼女の前に置けば「ありがとうございます」と言って シロップを注いだ。
「...〇、私はお前の気持ちに応えてはいけない立場だ」
「分かってます 困らせたりしないですから、たまに お話をして こうやってお茶ができれば...それで」
「お前はそれで卒業まで我慢できるか?」
さっき触れたクセに と言われるだろうな、自分でも笑ってしまうような女々しい言葉に小さくため息を吐けば彼女は「待てますよ」なんて 口角を上げた。
「大人は子供よりもズル賢くて、汚い生き物だと 知っていてそんなことを言っているのか?」
「難しい事はわからないです けど、久遠監督は私のことを少なからず好きだと思ってくれてるから そんな事を言うんでしょ?」
彼女はグラスの汗を指でそっと拭って 私の目を真っ直ぐ見つめる、鬼道は こんな目を捨てたのか。なんて不幸者なのだろうか そんな事をボーッと考えてしまうほど、その瞳は熱がこもっていて 愛情に満ちていた。
「...分かった」
「付き合うんじゃなくて 私達は恋をしてるだけですから、」
「〇 私の無責任な言葉を許してくれ」
恋をしてるだけ
なんて、胸が切なくなる言葉なのだろうか。
「お前に触れたくなった時 我慢するのが大変そうだ」
「そんな事を言われたら ドキドキしちゃうじゃないですか」
くすくす ストローに口がつくかつかないかの距離で笑うと彼女は、そっと紅茶をかき混ぜた。
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付き合ったわけじゃないのに こんなにも胸は震えてる、もうすっかりと見慣れた景色となった星章学園のサッカー棟。
選手達の好みの濃さに調整したドリンクを運びながら グラウンドで練習をしている彼等とそれを見ている久遠監督に視線を送ってみた、気付くわけがないのに 繋がっている気がして私の足取りは軽やかに。
「オイ」
「灰崎君、珍しいね 練習来るの?」
「ちげーよ 忘れモン取りに来た」
「そうなの たまにはおいでよ」
「...気分が乗ればな」
コツンコツン 靴の音が廊下に響く、私の横を通り過ぎていった灰崎君の制服からは洗い立ての洗濯物の匂いが。清潔なその匂いに何故か安堵して、私は グラウンドに向かった。
グラウンドを走り回る彼等に「パス練習が終わったら 各自水分補給してね」と言い、私は久遠監督の横に拳3つ分離れて座った。
「今日も皆 頑張ってますね」
「ああ」
会話はそれだけでいい
目線を絡ませれば きっと有人にバレるだろう、彼はそういうちょっとした仕草に敏感だから。
「...はあ、〇さん 今日もドリンクありがとうございます」
水神矢君は荒い息を整えながら私の作ったドリンクを手に取る、各選手に合わせて調整したものだから 感謝されると素直に嬉しい。
「早乙女君 それ、鬼道君に渡してきてもらえる?」
「はい、分かりました」
見た目とは裏腹に少し男っぽい彼は 眉を垂らして人懐っこい笑顔をうかべて、グラウンドの真ん中で何か考え事をしてる有人の元に向かった。
ドリンクを受け取り私の方を向き" ありがとう "と口を動かす、雷門にいる頃もみんなに付き合っているのがバレるのが恥ずかしくて二人してこんな風にしていたな。
もう好きじゃないと言ったら嘘になってしまう有人へ少しだけ口角をあげどういたしまして と返せば彼は満足げに笑い早乙女君への指導を始めた。
「鬼道は お前には優しい顔をするんだな」
「え...監督?」
「...いや なんでもない」
きっと誰にも聞こえない 二人だけの会話、私はこの言葉の意味を知ってる。
無表情のまま 練習に戻ったみんなを見つめている久遠監督は有人への嫉妬を隠そうとしてるのだろうか、また 心臓が暴れ出して私は自分のスカートをぎゅっと掴んだ。
「監督 自分で言っといて、ずるいです これじゃまるで恋人同士みたい」
「自分でも青臭いことを言ってしまったと思っている」
「...監督」
「目は合わせないでおこう 今、お前を見たら きっと手に入れたくなるだろうから」
「はい、」
20180705