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校舎へ1歩 足を踏み入れて、私は鬼道君の手を払い除けた。こんなの みんなに見られたくないわ。そう言えば、そうだな こんな時だし。落ち着いたら言おう。って...そういう意味じゃなくて...。つい、この間までの 意地の悪い鬼道有人は死んだのかしら。

恋愛をすると 女は弱くなるって、あの女が昔言ってたわね。あぁ、本当に どうしたものか。気分が良さそうな鬼道君の横顔を見て 溜息が。薄暗い廊下を進むと いつもの皆の声が聞こえて 現実に引き戻された。

ガラッと音をたてて開いた扉、その先には いつもと変わらずに笑ってる サッカー部が居て。なんだか 本当に 平凡な人生になっていく気がして 吐き気がした。










次の日の朝、息が苦しくて私は目を覚ました。頭がかち割れそうなくらい痛い 倦怠感が強く、1発で風邪だとわかった。昨日あんなに寒い場所にいたから無理もないのだけど、風邪を引くなんて久しぶりだ。



「〇さん、おはよう」

「木野さん...おは...」



げほげほとかなり激しい咳に、木野さんが慌てて私の背を優しく撫でた。誰も私にこんな事してくれた事なんてなかったけど、この人達に会ってからというもの 私は初めての経験を無理矢理させられているようで調子が狂う。

きっと、この風邪だって半分は ストレスだ。こんな所に来なければ、良かったわね。クラクラと世界が歪んで私は枕に顔を埋めた。



「すごい熱...」

「もうっ、〇さん!貴女昨日夜まで外にいたからよ!」

「まあまあ、夏未さん...!

今日は寝ててね 皆には言っとくから」



雷門さんもいつの間にか起きてたのか、私の上に 自分の毛布をかけてくれた。「なんで、そうやって 優しくしてくれるの」って聞いてみた。「仲間なんだから...当たり前じゃなくって?」なんて 少し顔を赤らめて言う雷門さん。本当に変な人達。



「それじゃあ 〇さん

お昼になったらお粥持ってきてあげるから それまでちゃんと寝ててね」



そう言って 向日葵のような彼女達はテントから出ていった。残された私は ぽつんと上にぶら下がる 裸電球を見て 熱のせいか何なのかは分からないけど 涙が出た。











遠くで練習しているみんなの声が聞こえる、ぱちっと目を開けると そこにはさっきよりも少しだけ暗くなったテントの中。おでこには 私の体温を吸い取ってくれたらしい ぬるい冷えピタが貼られてた。幾分マシになったが、まだ少し気持ちが悪い。そう言えば、朦朧とした意識の中 木野さんにお粥を食べさせてもらった事思い出したわ...。

嘔吐感も無くなり、ほんの少しの熱っぽさと 疲労感だけが残ってる。お粥なんて ダイエットの時に食べるものだと思ってたけど。


暫くすると、外から 音無さんの声がした。



「◎さん!起きてますか?」


「ええ...さっき起きたわ」



テントに入ってきた音無さんは、オレンジ色のコートを着ていた。その手には スポーツドリンクと冷えピタが。私のおでこに貼られた冷えピタをはがして 新しい冷えピタを。冷たくて 肩がぶるっと震えた。



「...ありがとう」

「ふふ!お兄ちゃん とても心配してましたよ◎さんのこと!」

「そう」


「むう なんだか素っ気ないですね!」



軽くぷっくりと元々丸い顔を更に丸めて、音無さんは怒った顔をして すぐに「それが ◎さんらしいんですけど!」と笑った。私らしいなんて 知らないくせに。



「もう少し寝たいんだけど...」

「あ!すみません...」



体調不良の時に心細いというのは経験があるが、こんなにも 寂しいのに私は音無さんを遮るようにしてまた 毛布の中に潜った。



20180306

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