校舎へ1歩 足を踏み入れて、私は鬼道君の手を払い除けた。こんなの みんなに見られたくないわ。そう言えば、そうだな こんな時だし。落ち着いたら言おう。って...そういう意味じゃなくて...。つい、この間までの 意地の悪い鬼道有人は死んだのかしら。
恋愛をすると 女は弱くなるって、あの女が昔言ってたわね。あぁ、本当に どうしたものか。気分が良さそうな鬼道君の横顔を見て 溜息が。薄暗い廊下を進むと いつもの皆の声が聞こえて 現実に引き戻された。
ガラッと音をたてて開いた扉、その先には いつもと変わらずに笑ってる サッカー部が居て。なんだか 本当に 平凡な人生になっていく気がして 吐き気がした。
◇
次の日の朝、息が苦しくて私は目を覚ました。頭がかち割れそうなくらい痛い 倦怠感が強く、1発で風邪だとわかった。昨日あんなに寒い場所にいたから無理もないのだけど、風邪を引くなんて久しぶりだ。
「〇さん、おはよう」
「木野さん...おは...」
げほげほとかなり激しい咳に、木野さんが慌てて私の背を優しく撫でた。誰も私にこんな事してくれた事なんてなかったけど、この人達に会ってからというもの 私は初めての経験を無理矢理させられているようで調子が狂う。
きっと、この風邪だって半分は ストレスだ。こんな所に来なければ、良かったわね。クラクラと世界が歪んで私は枕に顔を埋めた。
「すごい熱...」
「もうっ、〇さん!貴女昨日夜まで外にいたからよ!」
「まあまあ、夏未さん...!
今日は寝ててね 皆には言っとくから」
雷門さんもいつの間にか起きてたのか、私の上に 自分の毛布をかけてくれた。「なんで、そうやって 優しくしてくれるの」って聞いてみた。「仲間なんだから...当たり前じゃなくって?」なんて 少し顔を赤らめて言う雷門さん。本当に変な人達。
「それじゃあ 〇さん
お昼になったらお粥持ってきてあげるから それまでちゃんと寝ててね」
そう言って 向日葵のような彼女達はテントから出ていった。残された私は ぽつんと上にぶら下がる 裸電球を見て 熱のせいか何なのかは分からないけど 涙が出た。
◇
遠くで練習しているみんなの声が聞こえる、ぱちっと目を開けると そこにはさっきよりも少しだけ暗くなったテントの中。おでこには 私の体温を吸い取ってくれたらしい ぬるい冷えピタが貼られてた。幾分マシになったが、まだ少し気持ちが悪い。そう言えば、朦朧とした意識の中 木野さんにお粥を食べさせてもらった事思い出したわ...。
嘔吐感も無くなり、ほんの少しの熱っぽさと 疲労感だけが残ってる。お粥なんて ダイエットの時に食べるものだと思ってたけど。
暫くすると、外から 音無さんの声がした。
「◎さん!起きてますか?」
「ええ...さっき起きたわ」
テントに入ってきた音無さんは、オレンジ色のコートを着ていた。その手には スポーツドリンクと冷えピタが。私のおでこに貼られた冷えピタをはがして 新しい冷えピタを。冷たくて 肩がぶるっと震えた。
「...ありがとう」
「ふふ!お兄ちゃん とても心配してましたよ◎さんのこと!」
「そう」
「むう なんだか素っ気ないですね!」
軽くぷっくりと元々丸い顔を更に丸めて、音無さんは怒った顔をして すぐに「それが ◎さんらしいんですけど!」と笑った。私らしいなんて 知らないくせに。
「もう少し寝たいんだけど...」
「あ!すみません...」
体調不良の時に心細いというのは経験があるが、こんなにも 寂しいのに私は音無さんを遮るようにしてまた 毛布の中に潜った。
20180306