夜中に何度か目を覚ましたが、朝まで 寝ていた。途中で目を覚ました時 木野さんが私の毛布を掛け直していた。気付いてないフリをして寝たが。
1日会わないだけで鬼道君とのことも 嘘だったんじゃないかと、思いだした。もう一度目を開けたら きっといつものあの家で 名前も知らないような男と体だけの関係に溺れてるに違いない。今はその生活だけが ただただ恋しくて救いな...気がした。
◇
「また 現実がやってきたのね」
「何か言いました?」
「...いえ、別に」
鮭の塩焼きに味噌汁の匂いに包まれた食堂は紛れも無く現実的で、そこには 嬉しそうな顔をする鬼道君の姿もあった。壁山君のおかわりの味噌汁を渡して 自分の食事に戻った。昨日 木野さんが多めに作ってくれたお粥を 漬物と一緒にいただいた。 昨日よりも柔らかくなったお米を、意識して噛み締め 私は食事を終わらせた。
食事の後 鬼道君に捕まって 私は食堂の横の教室に連れてこられた。
「もう、体調は大丈夫なのか?」
「ええ」
「すまないな お前が風邪をひいたのは俺のせいでもあるだろう」
「外にいたのは私の勝手だから、大丈夫よ鬼道」
つまらなくなってしまった鬼道君など、もはや必要では無かったので 別れ話をしてやろうと鬼道君の目を見た時に。ああ まただ。
ゴーグルから透けて見えるあの赤い目。
「◎、練習に行ってくるが 厚着をするんだぞ」
顔に似合わないそんなセリフをサラッと言ってしまう鬼道君、今日もまた おでこにほんのり温かい唇が触れた。こんな キス。親が子供にやるようなヤツよ。
「鬼道君、私は 恋愛なんてする気ないのよ」
「じゃあなんで 今そんな顔をしている」
教室に貼られている小さな鏡をちらっと見ると、なんとも情けない顔をしていた。どこまで私の事を 変えていくつもりなのか。鬼道君のことが、自分のことが 怖くなって私は足早に教室を出た。
◆
「...強情な奴だな、まったく」
あんなに可愛い反応をされるとわざと優しく扱ってしまう。それがアイツにとっての地雷だと分かっていながら。
結局負けたのは俺だ、あいつとのゲームをさっさと終わらせたかったのは 吹雪に取られたくなかったからか。
「鬼道君」
見られていたのか、吹雪がひょこっと現れた。俺に向けられた笑顔は作り物だとすぐに分かるような、そんな偽物の笑顔だった。
「吹雪か」
「◎ちゃんと、付き合ったんだ」
あーあ、僕狙ってたんだけどな。
マフラーで口元を隠しながら、目を歪ませて笑う...いや 本心では笑っていないのだろうが、笑ってみせる吹雪。
「それは...すまないことをしたな吹雪」
「いいよ別に 僕の方に来るよ、きっと」
◎ちゃんは僕と似たもの同士だから。それじゃあ、また 練習で。と言い残すと 吹雪は教室のドアを閉めた。廊下の足跡が聞こえなくなった頃に、俺も 練習へ向かう為 ドアを開けた。
「お前には渡さん 絶対にな」
やっと、◎の頭の中に俺を埋め込むことが出来たんだ。邪魔などさせるものか 吹雪。
20180306