28

夜中に何度か目を覚ましたが、朝まで 寝ていた。途中で目を覚ました時 木野さんが私の毛布を掛け直していた。気付いてないフリをして寝たが。

1日会わないだけで鬼道君とのことも 嘘だったんじゃないかと、思いだした。もう一度目を開けたら きっといつものあの家で 名前も知らないような男と体だけの関係に溺れてるに違いない。今はその生活だけが ただただ恋しくて救いな...気がした。










「また 現実がやってきたのね」

「何か言いました?」

「...いえ、別に」



鮭の塩焼きに味噌汁の匂いに包まれた食堂は紛れも無く現実的で、そこには 嬉しそうな顔をする鬼道君の姿もあった。壁山君のおかわりの味噌汁を渡して 自分の食事に戻った。昨日 木野さんが多めに作ってくれたお粥を 漬物と一緒にいただいた。 昨日よりも柔らかくなったお米を、意識して噛み締め 私は食事を終わらせた。

食事の後 鬼道君に捕まって 私は食堂の横の教室に連れてこられた。



「もう、体調は大丈夫なのか?」

「ええ」

「すまないな お前が風邪をひいたのは俺のせいでもあるだろう」


「外にいたのは私の勝手だから、大丈夫よ鬼道」



つまらなくなってしまった鬼道君など、もはや必要では無かったので 別れ話をしてやろうと鬼道君の目を見た時に。ああ まただ。

ゴーグルから透けて見えるあの赤い目。



「◎、練習に行ってくるが 厚着をするんだぞ」



顔に似合わないそんなセリフをサラッと言ってしまう鬼道君、今日もまた おでこにほんのり温かい唇が触れた。こんな キス。親が子供にやるようなヤツよ。



「鬼道君、私は 恋愛なんてする気ないのよ」

「じゃあなんで 今そんな顔をしている」



教室に貼られている小さな鏡をちらっと見ると、なんとも情けない顔をしていた。どこまで私の事を 変えていくつもりなのか。鬼道君のことが、自分のことが 怖くなって私は足早に教室を出た。









「...強情な奴だな、まったく」



あんなに可愛い反応をされるとわざと優しく扱ってしまう。それがアイツにとっての地雷だと分かっていながら。

結局負けたのは俺だ、あいつとのゲームをさっさと終わらせたかったのは 吹雪に取られたくなかったからか。



「鬼道君」



見られていたのか、吹雪がひょこっと現れた。俺に向けられた笑顔は作り物だとすぐに分かるような、そんな偽物の笑顔だった。



「吹雪か」

「◎ちゃんと、付き合ったんだ」



あーあ、僕狙ってたんだけどな。

マフラーで口元を隠しながら、目を歪ませて笑う...いや 本心では笑っていないのだろうが、笑ってみせる吹雪。



「それは...すまないことをしたな吹雪」

「いいよ別に 僕の方に来るよ、きっと」



◎ちゃんは僕と似たもの同士だから。それじゃあ、また 練習で。と言い残すと 吹雪は教室のドアを閉めた。廊下の足跡が聞こえなくなった頃に、俺も 練習へ向かう為 ドアを開けた。



「お前には渡さん 絶対にな」



やっと、◎の頭の中に俺を埋め込むことが出来たんだ。邪魔などさせるものか 吹雪。




20180306

前へ次へ
戻る