36

「いいえ、私たちは戦うつもりはありません」



緑髪の男の子の言葉に、驚きの声があがった。...何を言ってるのかしら、全員眉一つ動かさずに円堂君の方を向いている。



「彼等には私たちには戦う意思がないと伝え、お帰り頂きます」



染岡君の怒った声が切なく響いた、虚しくも 漫遊寺中の選手達は練習の時間だと言い 道場を出ていった。



「...やれやれ、って感じね」


「なんなんだ あいつ等は」














「皮むきでこんなに身が残ったの初めてー!!」



雷門さんの無邪気な声とは裏腹に、音無さんの顔は曇っていた。スープに映る自分の顔を じっと 見つめてた。



「そんなに 自分の顔が好きなのかしら?」

「...◎さん」

「さっきから、らしくないわよ」



雷門さんから受け取った歪な形にむかれたじゃがいもを、まな板の上に数個乗せた。音無さんの方を向きながら じゃがいもを一口台に切っていく。



「木暮君のことが気になるの?」

「え!?なんで分かるんですか...?」

「...なんでって、見れば分かるわ」



バツが悪そうに下を向く音無さん。



「一つ言っとくけど、親に裏切られたり酷い事された人間はね...年老いて死ぬまで 恨み続けるものよ」


「...分かってますけど、そんなの つらいじゃないですか、哀しいじゃないですか...!」



さっきまで静かに俯いていたのに、私の言葉に少し怒ったようで...真っ直ぐ綺麗な灰色の瞳を向けてきた。鬼道君とは全然違うのに、血というのは不思議で なんだか 似ているこの兄妹の瞳に 私は弱いみたいだ。



「...木暮君は ほっておいて欲しいかもしれないじゃない」

「分からないですけど...、誰かが傍にいてあげる、べきだって...そう思います...私」


「そう」



全部切り終わったじゃがいもを鍋に全ていれて、私は キャラバンへと向かった。



「灰汁はちゃんととってね 音無さん」


「はっ、はい!!」










キャラバンの近くで、吹雪君がまた女の子を引っ掛けてなにか尋ねたみたいだ。頬を赤らめた 少女達はキャッキャと嬉しそうに 階段を降りていった。



「流石 吹雪君」

「君みたいに綺麗な子ならね、嬉しいんだけど」

「いつか 刺されるわよ」



鬼道君達が練習用のサッカーボールを取りに行っているのをいい事に、私の肩を掴んで無理矢理 吹雪君の方へと体の向きを変えられた。

ツーっと 吹雪君は人差し指で私の首から顎までを舐めるように撫であげた。一瞬だけビクリと動いてしまったが それは快楽ではなくただくすぐったいからだ。



「ねえ、◎ちゃん 続きはしてくれないのかい?」

「...他を当たってちょうだい」

「僕は君がいいんだけどなぁ」

「欲しいもの、手に入ったのよ」



吹雪君の目は笑ってなかったが、いつも通り 口元はにこりと綺麗な唇の輪郭を際立たせるように微笑んでる。



「鬼道君かい?」

「...さあ?」

「ふーん まあ、いいけど...君は 誰か一人だけのものなんて...きっと無理だよ」



すっ と離れていった指。

冷たい風が私と吹雪君を冷やしていく。



20180315

前へ次へ
戻る