また、吹雪が◎にちょっかいをかけている。窓越しに見えた二人は 前みたいな親密さは感じられないが...吹雪を侮らない方が良さそうだ、◎の顔は怪訝そうだが...あいつも気まぐれな女だからな。
「鬼道、〇の事ばっかり見てるな」
「一之瀬...」
「そうそう、アッツアツだね~!」
「...やめろ、土門」
からかわれるのは慣れていない、気恥しさを感じて 荷物を持ちすぐにキャラバンから降りた。後ろから一之瀬と土門の楽しそうな声が聞こえるが、無視をした。
「鬼道君」
「◎、練習へ行ってくる」
「待ちなさいよ」
キャラバンからは死角になる場所で、俺の頬に可愛らしい唇を押し付けた◎。ちゅ と可愛らしい音が鳴って 「気を付けて」 なんて、、反則だろう それは。
「なんの真似だ、怪しいな」
「なによ 悪いかしら」
「...いや、嬉しいが 不気味だ」
失敬な...!と鼻を鳴らして怒ってマネージャー達の元へと戻っていく◎。にやけた 口元を手首で隠して 下道へ繋がる 門へと向かった。
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すっかりと暗くなってから、みんなは戻ってきた。今日は 豚汁とご飯と焼き魚、ガツガツと練習でよっぽとお腹が空いたのだろう 様々な咀嚼音が聞こえる。いつしか こうやって大勢で食事を囲むという事が日常になっている。未だに不思議なこの感覚 豚汁を一口飲むと 音無さんの優しい味付けがして 目を細めた。食事を済ませて 片付けに入る、片付けの最中に 選手達は近くの銭湯へと行ってしまった。
賑やかだったそこは、今や 食器を洗うカチャカチャという音だけが鳴ってて 少しだけ冷えたようだ。
「〇さん、急いで片付けて 私達も銭湯行きましょっ」
「ええ、そうね」
「今日はなんだか汗かいちゃいましたもんねー!」
「それに...塔子さんが心配よ...また、男の子達と一緒に...」
雷門さんの顔がみるみる赤くなる、可愛らしい女の子...鬼道君は何で雷門さんや木野さんじゃなく 私のようなどうしようもない女を選んだのか...。
趣味はいいんだけど。
「さっ、これで最後よ!」
残り10枚程度になったお皿、泡を水で流して 軽く拭き重ねていった。「銭湯行きましょー!」さっきとは打って変わって 元気になった音無さんが私の腕をがしっと掴んで 引っ張った。
漫遊寺から市街地へ向かうその道は、暗くて私達4人は...というか私以外の3人はべったりと張り付いて歩く。
「...ねえ、近いわよ」
「だってっ、くらいの怖いじゃないですかぁ...」
はわわわと私の腕にしがみついている音無さん、雷門さんと木野さんも2人して腕を組んでそろりそろりと階段を降りている。
「◎さんは、暗いとこ怖くないんですか?」
「...そうねぇ、昔は怖かったわよ」
何日間も真っ黒な部屋に閉じ込められていた事を思い出す、幼かった私にとってはそれは恐怖だったが いつの日だったか頭の中で強い私を想像して 耐えた。そしたら 暗闇は逆に心地よいものとなったのを覚えている。そんな私の姿を見て母親は 満足そうに笑っていた。
そんな事を思い出す私は、やはり 毒されたようだ...いや毒が抜けたのか?私にはよく分からないけど、音無さんの少し震える腕に手を添えた。
「暗闇だって、いつか終わるわよ」
市街地の光が見えてきた。
20180315