「じいちゃんのもう一つのノートを手に入れるぞ!」
「なんやよう分からへんけど!ノートや!」
浦部さんが楽しそうに一之瀬君にくっつきながら可愛らしく手を上げた。
「ていうか...なんであなたが...」
「ええやん!うちとダーリンは一心同体や 切っても切れへんなかやねんからん」
ハートを飛ばしながら彼女は明るく一之瀬君に擦り寄る、ああいう風に私も素直になれば 鬼道君は窓じゃなくて私を見てくれてただろうか。
私の視線に気が付いた鬼道君はゴーグル越しに赤い目を向けて「どうかしたか?」と 優しく笑った。
「あんな事言ったんなら 私に冷たく当たればいいのに、そんな態度とって本当に乱暴ものね」
「そうか?別に、お前が素直になれば それで済む話だと思ったのだが...浦部みたいにな」
心を見透かされてるんだろうか、眉間に皺を寄せれば「冗談だ お前には無理だな」なんて煽ってくる。
とんでもない男を好きになったものだ、腹が立ってきたので腕組みして通路側に首を向けた。
向こうの窓には人情ドラマのように彩られてるノスタルジックな福岡の景色が、一つ一つの建物や空は水彩絵の具で塗ったように柔らかさが滲んでる。
「なんか 初めて来たのに懐かしい感じの街だね」
「そろそろ着くぞー 陽花戸中に」
▽
陽花戸中学に着いてからすぐに雷門さんと円堂君は校舎の中へと消えていき 結構な時間が経った、一通りお喋りや探検で疲れたのか 栗松君と壁山君はぐったりと新発売の炭酸ジュースを片手にベンチに座り込んでる。
塔子の方を見れば楽しそうに 鬼道君とお喋りをして、奥の方では相変わらず浦部さんが一之瀬君を今にも押し倒しそうな勢いで一方的だがイチャイチャと楽しんでいるようだ。
「...なによ」
「◎さん、なんだか 機嫌悪いなぁって...」
「悪くないわよ」
「えー 絶対嘘ですよ!」
「悪くないわ」
「嘘ですー!私分かるんですからね!」
ささっ 何があったか教えてください!
音無さんはいつもみたいなお節介な瞳で私を見る、答える気は無いのでそっぽを向けば音無さんはむくれっつらで私の腕に自分の腕を絡めた。
「◎さんはお姉さんみたいなもんなんですから、話してほしいんです」
ニコッと鬼道君とは似てない可愛らしい笑顔で私を見た。彼女の後に広がっている相変わらずノスタルジーな世界観は恐ろしい程彼女に似合っていて、私は眩しくて目を閉じた。
「そんな顔してもダメ 言わない」
「えー 嫌です!」
「ダメ」
「もうっ!いいです、お兄ちゃんに聞くから!」
「それは やめて」
低く私が言えば音無さんの肩がぴくっと跳ねた、グットタイミングか バッドタイミングなのか...校舎から円堂君と雷門さんの姿が。
「後で話してあげるから、鬼道君には絶対言っちゃダメよ」
「はい...!」
念押しするようにそう言えば、音無さんは私から一歩後ずさった。きっとお喋りな彼女は2、3時間後には忘れてお兄ちゃんに聞きに行くだろう だがその2、3時間でどうにかしてみせるわ。
どうしてくれようかと考えていたらこの学校のサッカー部の子達がキャラバンに集まってきた。
「俺は陽花戸中キャプテンの戸田、君達の活躍はよく知ってる 俺たちみんな君たちのファンさ!」
「そんなぁ...ファンだなんて」
「宜しく頼むよ!」
「ありがとう...!」
少し照れ臭そうに笑いながら円堂君は戸田くんと握手をする、円堂君はとても楽しそうに陽花戸中の選手達に挨拶を。戸田くんは うんと後ろ側に「おい!立向居 なにしてんだ!?円堂君だぞ!」と声を投げた。
細い身体の腰をがしっと掴んで 立向居と呼ばれた男の子はガクガクと身体を震わせ赤い顔を円堂君に向けている、恥ずかしそうにしている彼は足と腕を同時に出し ロボットの様に円堂君の方に...。
「ふぅん」
「...随分楽しそうに笑うじゃないか」
「私はね貴方を反省させるためにいい事思いついたの」
「ほう どうするつもりだ?」
「まあ、見てなさいよ」
20180616