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彼は 立向居勇気、円堂君に憧れてミッドフィルダーからゴールキーパーへ転身したらしい。それにしても立向居がゴッドハンドを出した時の円堂の顔...あれ程までに衝撃と刺激を同時に受けることは無いだろう。

合同練習を終えて春奈達の声に練習を切り上げた、搾りたてのオレンジジュースを零してしまったような くっきりとしたオレンジ色の空は俺達を包み 練習で疲れきった体を 少し癒そうとしているように感じる。



「なあ 明日練習試合をしないか!」

「そうですよー!円堂さんのプレイ 見せて下さい!」



手応えありそうな連中だ、それに今の精神バランス的に見ても 本気で楽しめるサッカー 勝ち負けにこだわらないようなサッカーをすることも大事だろう。

練習試合への期待を膨らませながら 汗を拭くと、少し離れた場所で立向居を悪い笑みを浮かべながら見つめる◎の姿が。



「◎ 何をそんなに見てるんだ」

「立向居君って 可愛いわよね」

「...何を言ってる」



言葉で嫉妬させようという作戦か 俺の目を見ようともせず、◎は立向居を相変わらず舐めまわすように見ている。



「鬼道君の望んだ私になってあげる、左から右まで順番に食べる 選り好みもしない」

「......やめろ」



腕を掴んで俺の方に向かせた。

いつものように香ってくるバニラの匂いに不動の言葉を思い出す、お前がされた事くらい分かっているし黙っている事が愛情なのかもしれないが この女は本当に意地っ張りだ。



「嫉妬してるわけじゃないわよね」

「別れたからといってお前への気持ちが変わるとでも?」

「都合良すぎるって分からない?」

「嫌なものは嫌だと言っている」



綺麗に引かれたアイライナーがあまりにも刺激的に歪む、睨み付けるように細めた目。



「じゃあなんで別れるって言ったのかしらね」

「意地を張らなければこうなってなかっただろう」

「誰と付き合ってるのか良く考えなさいよ」



俺の手を振りほどき彼女は木野達の元へと歩いていく、あまりにも不釣り合いな景色に彼女は溶け込もうとか必死に生きているようで 届かないのに手を伸ばして 彼女のシルエットを追った。

やれやれ、強情なやつは 春奈だけで手一杯だというのに。










鬼道君は思ったよりも簡単だったようだ、上手い具合に引っかかった。ぱくぱくと元気よくカレーライスを食べている彼等の中心あたりにいる 立向居君をしつこく見つめ続ければ、時折刺さる鬼道君の鋭い視線。

私の事あんな風に扱うからよ。



「おかわりしてもいいですか?」



木暮君が一生懸命いれていたタバスコは立向居君には意味が無かったようだ、おかわりを求める彼の目はマネージャーが立っているキャラバンに設置されているキッチンへと向けられる。


そんな立向居君に手招きした私は、内心イライラしてる鬼道君に心底気分が良くなりながらも いつも通りの顔をして彼のお皿を受け取った。



「どれくらい食べたいの?」

「えっと...まだお腹すいてて、大盛りでもいいですか...?」

「勿論よ、いっぱい 食べてね...いっぱい食べる人って私大好き」



お皿を渡す時に彼の指に触れてみれば案の定驚いた様子で赤くなった、呆れた様子で私を見る木野さんは「鬼道君に怒られるよ」なんて言っているが もう彼ならカンカンみたいだ。



「音無さん 教えてあげましょうか」

「え、あっ はい...!」


「鬼道君ったら立向居君に嫉妬してるみたいなの」



にっこりと笑えば 音無さんは眉間に皺を寄せて「え!?お兄ちゃんが!?」と驚きの声をあげて、大注目された彼女は恥ずかしそうに大きな寸胴鍋に入ったカレーをグルグルと混ぜた。










今日は陽花戸中と雷門の練習試合だ。もうすっかりと機嫌が良くなってしまった私は すっかりと機嫌が悪くなった鬼道君を笑顔で見つめる、眉間に皺を寄せた彼に 口パクで"謝るのは貴方"と言ってやればそっぽを向かれてしまった。



「吹雪君 フォワードに入って」


「イプシロン時みたいなシュート頼むでぇ!」



吹雪君は大阪でのイプシロン戦を終えてから元気が無くなったようだ、浦部さんの言葉に返事ひとつ返さず 彼は口を噛み締めてグラウンドを見つめた。


さて、どんな試合になるのかしらね。



「〇さん、すっかりマネージャーの顔ね」

「そうかしら でも半分は邪な気持ちを持ってるわよ」

「邪な気持ち...?」

「内緒だけどね」




20180616

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