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吹雪君は過去に両親と双子の弟を雪崩事故で亡くしていたそうだ、弟の人格を自分の心につくり バランスを保っていたという言葉に私達は 言葉を失った。



「だったら...どうして、吹雪君をチームに入れたんですか!」



木野さんの怒りの満ちた声に、今まで淡々と話し続けていた瞳子監督の表情が曇る。捲し立てるように監督を責める木野さんを一之瀬君が静止する、息を飲み 監督は「それが私の指名です」と相変わらずの声色で病室から出ていった。



「なになに...この雰囲気、ウチこういうの苦手なんよね...!せや!みんなでパーッとお好み焼きでも食べて......ごめん」



曇天のような重苦しい空気を変えようとした浦部さんも、いつもの底なしの明るさが消えてしまったかのように俯く。グッと拳を握った円堂君はわなわなと震える。



「なんで気付けなかったんだ...!あの時、俺が気付いてりゃこんな事にはならなかったんだ」

「やめろ!お前のせいじゃない」

「でも...!!俺が気づいてれば...」


「これは お前のせいでも監督のせいでもない、俺達チームの問題だ」



鬼道君は眉間に皺を寄せたまま じっと円堂君を見つめる、真剣な表情がなんとも痛々しくて 私は一度そっと息を吐いた。



「確かに俺達はエターナルブリザードに頼りすぎていた、吹雪にさえ繋げば点を入れてくれると 吹雪にとってそんな思いがかなりの重圧になっていたに違いない」

「吹雪...」

「戦い方を考え直すべきかもしれない、吹雪の為に そして俺達がさらに強くなってエイリア学園に勝つために!」



ノスタルジーなBGMでも流れ出しそうな 雰囲気に安心して、私達マネージャーは目を合わせて少し笑った。この先も不安だらけだけど、鬼道君の言葉に皆がまた頑張ろうと思ってくれたのなら大丈夫だろう。










「鬼道ってなんか取っ付き難いやつやと思ってたけど ええ事言うんやなーウチ惚れるかと思ったもん」



さっきまで一之瀬君にべったり張り付いていた浦部さんは 夕飯の匂いに誘われたのかキッチン付近の椅子に座り私に声をかけてきた、汗ふきシートで念入りに腕や足を拭き取りながら彼女はキラキラした瞳を私に向ける。



「アンタって 鬼道と付き合ってるんやんな?」



音無さんは浦部さんの言葉に ふふっと微笑んで、木野さん達の洗濯仕事を手伝いに向かった。



「今は違うわよ」

「え!?別れたん...なんで?あんなイイ男中々居てないでって ダーリンの方がイイ男やけどな!」

「私が アナタみたいに素直じゃないからかもしれないわね」



"素直になれ"なんて言葉を思い出して、私はきょとんとする浦部さんに向かって少し笑いかけてみる。すると 花が咲いたように笑顔になった彼女に「アンタ そんな顔で笑うんやな、結構可愛いやん」なんて言われてしまった。



「いつだって笑ってるわよ」

「笑ってへん笑ってへん なんや、ブッスーって仏頂面しとるもん いつも怒ってるんかと思うくらい!」

「そう?」

「今日はなんや機嫌良さそうやったから、話しかけに来たんやでー」



ニカッと笑って 音無さんが作った綺麗なだし巻きにそろっと手を伸ばした浦部さんの手をパチンと痛くない程度に叩く、ぺろっと舌を出して「ケチー」と言う彼女は 木暮くんのような悪戯っ子の目をきらりと光らせた。


皆がそろそろ戻ってくる時間なのでお皿におかず達を行儀よく並べていたら、遠くの方に地面をポツンと見つめ続ける 少し様子のおかしい風丸君が見えたけど 今日みたいな試合の後に吹雪君の話を聞いたら普通の中学生なら少しでも落ち込むのは当たり前だと 気にせず彼から目を逸らした。










誰かが手から離してしまったボールは寂しげに転がっていった、俺の後ろに立っている壁山は身体を小さくして口元に手をやり「そんな 信じられないっす...」と本当に不安げな声を漏らす。

風丸がキャラバンを抜けた。



「監督 本当なんですか?」

「ええ 既に東京に戻ったわ」



淡々と語る口調通りの目を俺に向ける監督、木野が「なんで 止めなかったんですか、ここまでやってきた仲間なんですよ!?」と声を張り上げるも「サッカーへの意欲を失くした人を引き止めるつもりは無いわ」と 静かに返されてしまった。

確かにそうだ、監督が辞めさせたわけではなく 風丸が決めた事...。だが、土門の悲痛な叫びにすら眉一つ動かさず「練習に戻りなさい」と言ってのける監督に俺達は信頼関係など感じる事は出来なくなっていた。

あの監督は 一体何を考えているんだ。



「私...風丸君は絶対戻ってくるって信じてる!」

「わたしもです...!」



木野と春奈の言葉に俺はグラウンドを向いて 歩き始めた、そうだ こんな所で立ち止まってなどいられない。



「始めるぞ 練習」



風丸はサッカーをやめたわけではない いつかまた必ず会える、その時のために 俺達はエイリア学園を倒さなければならない。



「俺達がサッカーをするのは監督の為じゃない、円堂がいつも言っているだろう サッカーが好きだからだ サッカーを守る為にも エイリア学園に勝たないとな」

「お兄ちゃん...!」「行くか」「ハイっす」「栗松行くぞ!」



俺の言葉に続くように 背中から大切な仲間達の足音が心地よく響く、病院で戦っている宍戸 少林 松野 半田 影野 そして染岡や風丸達の為にも 大切なサッカーの為にも俺達はこの足音を消してはならない。

筈なのに、お前は...。



「練習出来ない、今の俺は サッカーと真正面から向き合えないボールを蹴る...資格がないんだ だからそれまでボールを預かっといてくれ」



あんな円堂の顔は初めてだ、あんなに晴れているというのに アイツの顔はまるで曇り空のようで 心臓が軋んだ音がした。




20180717

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