鬼道君と土門君がみんなを引っ張ってくれているおかげか、辛うじて皆きちんと練習に参加してくれているようだ。浮かない顔や 切ない表情 悔しそうに眉間に皺を寄せる彼等は、今どんな気持ちなのだろうか。
「...雨だわ、」
「走り込みの途中だけど 練習切り上げろって行ってきます!」
「音無さん お願い...円堂君の事も心配だから傘を持って様子見に行きましょう」
音無さんが鬼道君の元に走っていく、暗い表情の私達は重たい足で階段をのぼった。円堂君にとって風丸君はかけがえのない親友だったのだろう、前に一度 三人しかいないサッカー部へ一番最初に入ってくれたと嬉しそうに話してくれた。
ガチャ っと古びた音を立てて開いたドアの向こう側には 死人のような顔をして水溜りをぼーっと見つめる円堂君の姿が。
「...円堂」
「キャプテン」
傘を手にした音無さんが円堂君に歩みよろうとしたのを 鬼道君は静かに首を振り止めた。
「あんなキャプテン見てるの辛いっス」
壁山君の言葉の後 鋭い雷の音が辺りを包む、明日になれば雨は病むだろうか。円堂君をそっとしておこうと 軋む扉を閉めて、私達は階段を降りた。
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「円堂は昨日からあのままか」
「食事もほとんどとってなくて」
皆が同じ方向を向く 昨日とはうってかわり晴れ晴れと青い空が広がっているというのに、円堂は未だに屋上の隅で床を見つめているのだろうか。
「おはようございまーす!...あれ?円堂さんはどこですか? 一緒に新しい技の特訓をしようって約束したんです!」
「...円堂くんは、今ちょっと」
「どこかに出かけているんですね...ひょっとして!一人で特訓していたりして!」
元気な声と表情でマネージャー達に円堂への伝言を頼み 走っていく立向居の後ろ姿に、小さくため息を吐いた。
「いつもなら今の立向居の言葉で奮い立つんだろうな」
「...キャプテンお腹空かせてないですかね、みんなで おにぎり作りませんか?」
「そうだな、練習前にみんなで円堂の為におにぎり作るってのも アリなんじゃないか?」
春奈と土門の言葉に 皆顔を見合わせてキャラバンに向かった、なにか口にすれば 少しは元気が出るかもしれないしな いい案だ。
みんなの後ろを追いかけるようにして進めば 苦虫を噛み潰したような表情の雷門が校舎に小走りで向かう。
「お前は 作らないのか?」
「...甘やかすなんて嫌よ」
「そうか」
円堂の元に行くのだろう 雷門は赤紫のスカートを揺らしながら校舎に溶けた。
「お兄ちゃーん!早くー!」
春奈の甲高いの声の方へと向かう、浦部と共に手に塩をつけておにぎりを握っている◎を横目に俺は手を洗い土門の横に立つ。
壁山が一生懸命握った形の悪いおにぎりと木野が慣れた手つきで握った綺麗な三角形のおにぎりは 同じくらい心がこもっているように感じた。
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「大変ですー!栗松君が...!!」
昨日のおにぎり作戦は失敗に終わってしまった挙句、栗松君までもがキャラバンを降りた。栗松君はお調子者だけど 凄く字が綺麗だった、だけど 手紙に書かれていた文字達は歪んでいたり 所々ぼやけていた。
彼もサッカーが好きで、この雷門イレブンが好きだったから キャラバンを降りてみんなから逃げる様に離れていくのは悲しかったのだろう。
手紙を手に取り 悔しそうに顔を歪める円堂君の表情や 悲しそうに涙をこぼす壁山君、難しい顔をして地面を見つめる鬼道君に私は深く溜息を吐いた。
20180801