80.5



「――…本当に、」


何か言いたげに、しかしその口を閉ざしたまま去った金色。それに目を向け続けていた赤毛の彼のその表情は、今だ不服に歪んでいた。


「…本当にシンバがそんな事言ったのかよ…?」


レノにはそれが信じられなかった。…否、信じたくなかった。

やっと彼女が自分達の元に帰ってきたと思ったのに。それが彼女の意思で、自分達の―神羅の為に舞い戻ってきたのだと、確信していたのに。


「…レノ、」


星を救いに行ってくるなんて、ただの当てつけだと思った。本当はイリーナが言った通りで、彼女は自分の意思でそこに戻っていったのだ。
…そうレノが直感したのは、いつか感じていた彼女への疑惑がずっと頭の隅に巣食っていたからだった。

綺麗に折りたたまれたまま残されていた、タークスの制服。ゴンガガでの彼女の素振り。ウータイでの彼女の行動。自分といる時の空気や、ふとした瞬間の表情。コンドルフォードでの一コマや、飲み会での態度。自分に向ける声も、言葉も、全部、何もかも。…思い起こせば、全部そうだ。


「…――」


…いや、彼女が戻ってきてからのそれの方が、明白だったのかもしれない。ただそれに気づかないフリをしていただけ。気づきたくないフリを、していただけだ。
だって、信じたくなかった。認めたくなかった。自分の隣にいた彼女は心ここに在らずな、


「…っくそ、」


ただの、彼女のレプリカだったなんて。


「……せんぱ、」

「社長を探すぞ」

「っ、」


低い声で、諭すように。イリーナは少しそれに怖気づいたが、レノの瞳が揺れるのを見て胸が締め付けられるのを感じていた。
そんな表情をさせてしまったのは自分のせい。もしも自分がそれを口にしなければ、レノの顔をそんなに歪める事はなかった。彼の心を、ズタボロに切り裂くような事もなかったのに。


「……、」


どうしたらいいかわからないイリーナのそれを悟ったかのように、ルードがそっとその肩を叩いた。


「…お前のせいじゃない」

「……」

「…レノは、自分を責めているだけだ」

「…――」


…もしもあの時、もしもああしていたら、なんて。何か変わっていただろうか。彼女が向こう側へ飛び立つ事もなかっただろうか。ずっと神羅という、タークスという籠の中に閉じ込めておけただろうか。あの時みたいに、笑いあって。今もああして、過ごせていたのだろうか。…もしも、もしも――


「…っ、」


…浮かんでくるのは、後悔ばかり。


『レノ』


耳に残る彼女の残音。目に浮かぶ彼女の残像。


「…っ、ざけんじゃねぇよ――」


全てが白く、儚く。レノの前から、消えて行った。



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