「――…」
夢を見ているんだと思った。…そう、それはいつまでたっても、覚めない夢なんだって。この世界はいつでも自分に悪い夢を見せるから。
セフィロスという厄災を。
空から降るという厄災を。
自分自身という、厄災を。
…だから、これも。悪い夢なんだと思った。
地球。…そんなこと、あるはずがない。
これが現実。…そんなこと、あるはずが、ない。
「…っ、」
あぁ。いつかどこかで同じような事を思った。…それもこれも、本当は気づきたくなかった。
あの時―事故に遭った時に感じた眩しい光と、ウェポンの放った光が、同じ光だったって事も。
…きっとずっと、この先戻れないであろう事も。
『シンバ――』
『嘘だろ…!?』
見れなかった、彼らの顔。
『…お前は女優だな』
演技なんて、らしくなかった。
『…よく戻ってきたな、シンバ――』
『本当ですかぁ――!!!』
彼らの温厚は心に疼き。
『そんな事思わせねえくらい、愛してやる――』
彼の愛情も、受け入れられなかった。
だから、きっと。…きっとそれは、自分に与えられた報い。
そんな事までして自分が守ろうとしてきたモノ。
仲間か、神羅か、星か、自分か。…なんて。
あの頃に戻るにも。
それに気づくのにも。
何もかも、遅かったのだ。
***
「いよいよ、だな」
ハイウインドから降り、大空洞の淵に立って暗く底の見えない穴を覗く。気を抜けばそこに引き込まれて行きそうな感覚が全身を襲った。…はたまたそれは、セフィロスに呼ばれているからなのだろうか。ゴクリと一つ息を呑んだクラウドは、それを遮るように視線をずらし、辺りの様子を見渡した。
「シンバはもう中にいるのかな?」
代弁するようにレッドはそう言うと、クラウドの顔を見上げるように覗き込んできた。その顔は終始、穏やかで。これから最終決戦だというのに、そうさせるのはシンバが持つ特有の雰囲気だからだろうか。そう思ったら、クラウドも自身の頬が緩むのを感じた。
「…そうかもしれないな」
けれども、表情とその言葉とは裏腹に気持ちにはまだ不安が見え隠れしているように思えてやまない。
「あのバカ、はりきって一人で突っ走りやがってよぉ」
「…もしかしたら、まだ――」
「いや、もうすでにセフィロスに会ってたりしてな」
「…それはない」
「? なんでだ?」
「……カン、だ」
結局最終局面を迎えるにあたっても、シンバとセフィロスの関係はわからないままだった。シンバがエアリスの件を知っていたという事以外で、セフィロスとシンバがどう繋がっているのかはクラウドにも不明確。あれ以上知ろうとも自分もしなかったし、そもそも繋がりなんて無いのかもしれない。
…そう考えれば、彼女が一人でセフィロスの元まで突っ走って行くとは考えられなかった。どちらかといえば、彼女はセフィロスを恐れていたからだ。
「……」
だとしたら、ここへくる前にハイウインドを探すのが第一ではないのか。一人でそこへ向かったのは、自分達が既にその場にいると思ったからなのか。自分達と同じで、彼女もサプライズを考えているからなのか。
「……」
考えれば考えるほど、抜け出せないループにクラウドは嵌ってしまっていた。
…その見えない不安を拭い去ってくれる人物の姿を、今だその目で確認していないからである。
「とにかく、こんなところでジッとしてても仕方ねぇよ」
自分たちに残された時間はもう少ない。シンバ一人を待つために、その限られた時間を割いてはいけない。ましてやまだ来ていないのかも、既にそこに乗り込んでいるかも定かではない今。…自分たちが優先すべきは、星の命なのだから。
「……行くか」
意を決したようにクラウドはそう言って直後、今度こそその穴に吸い込まれるように滑り落ちて行った。
*
「――ここが、星の中心…?」
どのくらいの距離を滑り落ちたのかはわからなかったが、その場所は地中奥深くでもほのかに明るく照らされていた。不気味なほどに静寂に包まれたその場所に響くのは自分達の足音と、話し声。
「いよいよね」
「ついに来るとこまで来たって感じ?」
幾つにも別れた道を何手にも別れては進み、合流を繰り返す。未知の世界でそうして別行動をとることに不思議と不安はなかった。…道は必ず、繋がっているから。立っている場所が同じなら、辿り着く先も同じだと。遠回りでも近道でも、こうして皆同じ場所でまた巡り会えるのだと。
「……」
ティファやバレットとアバランチを結成し、タークスだったシンバを仲間に迎え入れ、古代種のエアリスと出会った。レッドも仲間に加わって、皆同じスタートラインに立ってその場所から旅立った。
星を救う。ただその目的を道標に、その一本の道を進んできた。その道で出会ったユフィやケット・シー、ヴィンセントにシド。全く違う道を歩んできた彼らのそれとも、自分達の道は繋がった。自分を失って道を外れてしまった事もあったけれど、こうして今自分はこの道に戻ってくることが出来た。
――…、
…だから、彼女のその道も。タークスへと戻ってしまったその道も。必ず最後には、ここに繋がっている筈なんだって。
『ウチもこの星を守りたい』
そう、思わせてくれたのは。
『星を救いに行ってくるわ』
彼女自身の、言葉なのに。
ゴゴゴゴゴ――
「…!?」
「…っなんだ!?」
突如鳴り響いた轟音。それは徐々に、自分たちの方へと向かってくる。
「すごい数だ…!!」
それは星の体内に巣食いだした、セフィロスが生み出したモンスターの群れ。自分たちの侵入を拒むかのように、セフィロスを守るかのように、それは一目散に自分たちを目指していた。
「チッ、クラウド!おめぇは先に行け!!」
「俺もここで戦う!」
「バ〜カ!こんなところで全員がグダグダしててもしょうがねだろ!」
「っ、…わかった」
クラウドは一瞬躊躇を見せたが、ティファとレッドを連れて先へと進んだ。
「みんな!後でまた!」
道は必ず、繋がっているから。そう思い込みたくて、クラウドは先ほど言わなかったその言葉を口にしていた。
…それは、ここにいない彼女へも向けた言葉のような気もした。
*
「――ここは、?」
どのくらい歩みを進めたのだろう。どれほどの時間が経過しているのかも、本当にここが星の中心であるのかもわからなくなってきた時。
「?」
「見て!」
それはその場所で、まるで自分たちを待っていたかのように。自分たちの道を、標していたかのように。
「…この光が…ホーリー?」
今までに見た事がないくらいの、エメラルド。それは綺麗という形容詞一つでは表せないほどに光輝いていた。
「――イテテテテ…」
「バレット!!」
それに見とれていた時、大きな物音を立てて落ちてきたのはなんとバレットだった。そうしてその後から続々と、皆が姿を現わす。
「…結局皆そろっちまったな」
「まぁ、最後の瞬間は全員でってヤツよ」
シドのその言葉に、クラウドは一つ笑みで返した。ここまで来たら最後まで皆で。皆の力を持って、皆の力を合わせて立ち向かうのが相応しいのだと。
…でも、まだ、
「…しっかしアイツ――!?」
ドゥン――!!
「「!?」」
突然だった。それはまるで磁石のように、何かに強く引かれる力が、クラウド達にのしかかってきた。
「ッセフィロス…!!!」
彼もまた、この場所で。その身をずっと潜めていたのだ。
「グッ…これが、本当のセフィロスの力だっていうのか!?」
「身体が言うことをききやがらねぇ…!!」
まるで全身に何かとてつもなく大きなモノを乗せられているかのような、そんな感覚。それは今までにない桁違いな力だった。彼との間の歴然の力の差を見せつけられ、ピクリとも動かせない身体に、皆の思いは崩れ落ちそうになっていた。
「…ホーリーは…そこにある…!!」
けれどもクラウドは、クラウドだけは、真っ直ぐにそれを見据えていた。エアリスの思いが届いたそれを。エアリスが命を懸けて守ったそれを。エアリスの祈りが輝いている、それを。
「まだ終わりじゃない…終わりじゃないんだ…!!」
こんなところで終われない。戦いはまだ、始まっていない。自分たちがセフィロスを倒さなければ、意味がない。クラウドのその言葉に、皆の沈み込んでいた意志が沸き起こるように呼び覚まされた。
「ウオオオオッ!!エアリスだけじゃねぇ!!」
そのホーリーの中には、アバランチ―ジェシー、ビッグス、ウェッジの、マリンや、ダインの、そして、この星の人間の祈りも含まれているから。
「オイラは見届ける…この星のこれからを!!」
ブーゲンハーゲンが言っていた事。自分の使命はこれなんだとレッドは気づいた。ライフストリームも、星の命も、セフィロスなんかに変えさせてはいけないんだって。
「エアリスの想い…俺たちの想い…」
その想いを伝えるために。星に、その想いを伝えるために。自分たちは、ここへきたのだ。
「星よ!答えを見せろ!!」
クラウドが叫ぶと同時。のしかかっていた重みがスッと溶けたように消失した。
『クラウド――』
そうして目の前にハッキリと姿を現したこの星の悪夢も、しっかりとクラウドを捉えていた。二人の視線がぶつかり合って、クラウドの中にあった全ての想いが想起した。
「セフィロス…!!」
全ては、あの場所から始まった。
その忌まわしき記憶に、終止符を。
壮絶な旅の始まりに、ピリオドを。
彼らの想いは、そのエメラルドに乗って。
「全ての決着を――!!」
クラウドは、バスターソードを抜いた。