…遠く、長い旅だった。
彼を倒す事を目的に、星を救う事を目印に。
辿ってきた道が、今ここで。
その終わりを、告げる――
「――……、」
セフィロスとの死闘をどれほどの時間続けていただろう。誰もが力尽きそうになり、けれども誰もがその希望を捨てずに、最後まで皆と一つになって戦った力が彼―セフィロス一人に勝った時。誰もが勝利を確信した。
しかし、邪魔者が消えたにもかかわらずそこには変わらず静寂と暗闇が広がっているだけで、彼らの唯一の希望は今だ動きだしてはいない。
…しかし不思議とクラウドに不安や焦燥はなかった。エアリスの祈りはしっかりとそれに届いているし、自分たちの想いだってしっかり伝わっている。自分たちに出来る事は全てやったから。それに対する星の答えを、後は待つしかないのだと。…その答えに対して誰も悔やむことはない。自分たちはセフィロスという厄災を消し去った。それだけでも十分胸を張れることなのだ。
ゴゴゴゴ――!!
「っおいおいおい!マズイんじゃねえのか!?」
そうして彼らが地上への道を辿っていた時だった。上から押さえつけられたかのような重圧がかかり、次に襲ったのは地鳴り。
…ようやく星は動きを見せ、それとともにホーリーも発動されたようだが、
「っ、クラウド!」
「…っ、あぶねえ!」
しかしそれによって跡形もなく崩れ去っていく足場。地面から噴き出すように現れる希望―ホーリーにクラウド達は何故か追い込まれる羽目になっていた。
「っ!」
「…間一髪ってとこか、」
しかし、落ちてきたハイウインドになんとか乗り込むことに成功。…せっかく悪夢を取っ払ったのにここで彼と共に死にゆくのは元も子もない。
そうして崩れゆく大空洞を眺めながら、地上に戻ってきたクラウド達の目に飛び込んできたのは、
「――ねぇ、あれ!」
メテオに包まれゆく、ミッドガルの姿だった。
「きっとホーリーが遅すぎたんだ…」
上から降る厄災と、下から迫りあがる希望。赤とエメラルドが融合し、異色を醸し出す。
「メテオが星に近づきすぎてる。これじゃせっかくのホーリーも逆効果だ――」
エアリスの想いと、自分たちやその他この星の皆の想いを乗せたホーリーは、次第にその色を赤に染め上げていった。このままではミッドガルだけでなく、この星そのものも助からない。想いはしっかり伝わっていたのに、解き放つのが遅かったのだ。
もっと早く、エアリスの思考に気づいていたら。
もっと早く、古代種について知っていたら。
もっと早く、セフィロスを追い詰める事が出来たなら。
もっと早く、自分を取り戻す事が出来ていたら。
もっと早く、もっと、もっと――
――…っ、
いろいろな思いがクラウドの中を過っては、消えていった。後悔なんて今さらしたってどうにもならないって事、わかってはいるけれど。
「っ、あれは…!?」
しかし、その時だった。ティファの声にハッとしたクラウドは、厄災へと近づくホーリーとは違うエメラルドに目を向けた。
「なんなんだ!?」
クラウドはそれをどこかで見たことがある気がした。…いや、視覚だけではない。クラウドはそれを、自身の身体で感じた事があった。
「…あれは、」
それは、この星の源。
それは、この星の命。
それは自らをもって、自らを救っていた。
「…ライフストリームだ――」
誰もがその光景に目を奪われていた。それはホーリーと接触し、そのエメラルドの色をより濃くしてメテオの赤を消し去っていく。
…あぁ、星は、こんなにも強くて、こんなにも儚い。
きっとずっと、星は測っていた。自分たちの想いの丈を。自分たちの旅の果てを。
「…シンバ、いなかったね――」
しばらくの後。それを見つめていたレッドがポツリと小さくそう言ってクラウドを見上げた。
誰もそれを忘れてなどいなかった。ただ、今まで口にするのを恐れていたのだ。…彼女がここにいないということが、どういうことに繋がるのかという事を。
「…どこほっつき歩いてんだか」
シドはようやく煙草に火を灯していた。それはこの戦いの終わりを示すと同時に、その不安を拭い去る為のように。
「…シンバは――」
彼女は今、どこにいるのだろう。彼女は今、何をしているのだろう。
「っ次はシンバ探しの旅だね!!」
そんなどこか暗くなっていた雰囲気を、ユフィの声が払拭した。彼女はきっとこの星のどこかにいる。この星のどこかで、自分たちと同じようにこの光景を見ているのだと。
…星は、救われたのだ。自分たちの旅の目的は果たされた。けれどもその道はまだ、閉ざしてはいけない。彼女はまだそこにいるはずだから。彼女が迷わないように、照らし続けるんだって。
「……そうだな、」
「セフィロスより手間がかかりそうだぜ」
「ほんっと世話のやける」
「ユフィの方が幾分マシだな、こりゃ」
「っそれどういう意味――!?」
喧しさを増していくその雰囲気にクラウドは一つ笑みを零し、もう一度ライフストリームが包む星へと目を向けた。
「…――」
あなたは今、どこにいますか。
あなたは今、何をしていますか。
この道の上を、歩いていますか。
どの道で、迷子になっているのですか。
くじけそうなら、支えにいくから。
悲しいのなら、側に寄り添うから。
迷子になったら、迎えに行くから。
自分はいつでも、ここにいるから。
「シンバ」
ライフストリームが、淡く白く輝き出して。
「――」
クラウドの言葉は、それに包み込まれるように溶けていった。
***
「――…」
シンバはただ一人、その場所でその景色を見ていた。
目の前に広がる、光景。いつか見た、街の風景。どこか懐かしく、どこか新しくて。…それはあの頃の自分がいた場所と、なんら変わりない光景だった。
「……、」
シンバは全てを老人から聞いていた。
そこはとある県のある市内にある、山奥の小さな村だという事。その言葉達が老人から出てすぐにそれは確信に変わっていた。
ここは地球で、ここは日本という国なのだと。…自分は、自分の世界に帰ってきたのだと。
「……、」
信じられなかった。自分はあの時、確かにあの世界にいた筈で。彼らの元へ戻ろうと必死だった筈で。…なのに戻ってきたのは、元いた世界。
なにもかもわからなかった。どうやってここに戻ってきたのかも、なぜ戻ってきたのかも。…よくよく考えてみれば、最初から何もわかっていない。向こうの世界に飛んだ事だって、結局自分は何も知らないままだ。
「…――」
別に最初からそれを望んでいたわけではない。自分が厄災である事に気付くまでは、寧ろその世界にいる事を望んでいたように思う。割り切って平然とそこにいたし、既に彼らとの旅が当たり前のようになっていたからだろう。
そしてそう思うようになったのは、彼らと出会ったからだった。彼らとの出会いで、自分は変わったのだ。その世界の事全てを把握していても、彼らに実際に触れればその人情味を知り、仲間の大切さを教えられた。セフィロスの脅威に怯え、身を持って星の危機を感じて。
…そうして星を救おうと、必死になった。大切な仲間を守ろうと、必死になった。彼らの足手まといになるまいと、必死になった。自分の存在価値を探すのに、必死になった。
自分はそこで、確かに生きていた。
自分はそこに、確かに存在していた。
「っ…」
今頃皆、どうしているのだろう。宝条を止めることは出来たのだろうか。セフィロスと決着を着けることが出来たのだろうか。エアリスの想いを届けることが出来たのだろうか。ホーリーは、ライフストリームは、星は、それに答える事が出来たのだろうか。
皆、無事だろうか。誰一人として欠けてはいないだろうか。
シナリオを変えぬように、彼らが自分に向ける眩しい光を遮るように、その道から外れた。彼らの言葉の温かみ。彼らの心の優しさ。彼らの意志の強さ。彼らの覚悟の重み。その全てを知っていたからこそ。彼らがいつでも全力で、彼らの思いは曲がることなくいつもありのままであることも知っていながら。
「……、」
…だから、戻りたかった。最後を迎える前に、彼らにどうしても会っておきたかった。
あの世界で生きる覚悟も。セフィロスを倒す覚悟も。エアリスを救う覚悟も。星を救う覚悟も。旅を辞める覚悟も。シナリオに従う覚悟も。自分の場所を自分で決めた覚悟も。
ひとりぼっちだった自分にとって、彼らは全てだった事も。辛いことも苦しいことも楽しいことも、彼らがいたから乗り越えてこれた事も。彼らがいたから、自分はそこにいれた事も。自分はいつでも彼らを思ってきた事も。自分の中には、彼らしかいなかった事も。
『俺の、特別になってくれよ』
彼への、謝罪の言葉も。
『それでも俺にはお前が必要なんだ』
彼への、愛の言葉も。
「っ――」
まだ、何も伝えていない。
何一つとして、自分は彼らに伝えていないのに。
――…
あぁ、どうして人は、後悔を知ってからでないとそれに気づかないのだろう。
あぁ、どうして人は、悔やむ事でしか相手の想いの丈を測れないのだろう。
あぁ、どうして人は、過ちを犯した事にすぐに気づく事が出来ないのだろう。
星は、救えましたか。
過去の呪縛から、解放されましたか。
笑顔でそれを、受け入れていますか。
全てを知っていたのに、自分は何の役にも立てなかったけれど。
星を救いたいなんて、大口叩いた割に何もしてなかったけれど。
あなた達の為を思って、裏切った事にして、旅を離れたけれど。
…ねえ、それでも。
それでも私は――
「…クラウド、」
目の前の赤い夕焼けは、老人が言っていた通りにとても綺麗な色をしていた。
その赤いグラデーションが、シンバの目の前で滲んで。
「――」
その色を溶かすように、その思いは。
彼らに届く事なく、頬を伝って流れていった。
Goodbye, halcyon days__.