10 first mission



プオオオオ――


高々と鳴り響く、汽笛。それは列車の発車の合図、そして――我々の任務遂行の合図。

一般人に紛れて、そそくさとそれに乗り込む。日本の電車よりも少し、外壁は分厚く、中もどちらかと言えば外国風だろうか。
バレットは乗り込んで即、目に入った神羅課長に絡んでいた。…腫物にすぐ触れるタイプ。完全にヤンキーだな。とシンバはその様子を呆れるように観察しながら、これから起こるであろう事を頭の中で整理し始めた。…ある程度心構えは必要である。


「っし、作戦を説明するぞ!」


一生懸命作戦の説明をしてくれるバレットの声を聞かずに回想に浸り混んでいたシンバは、次のバレットの言葉に耳を疑い自身の思考を現実に引き戻す事となった。


「あと三分たったら列車から飛び降りる!」

「……飛び降りるう!?」


列車に乗って伍番魔晄炉を目指す事はしっかり覚えていたのに、一番重要な事―飛び降りる事はすっかり忘れてしまっていたから。


「そうだ!飛び降りるんだ!」

「いやいやいや!無理無理むりムリ!!」

「ムリじゃねえ!飛び降りるんだ!!」

「ウチ列車から飛んだ事ないし!」

「大丈夫だ!飛び降りるんだ!!!」


何を言ってもバレットは飛び降りるんだとしか言わない。小学生の会話か!とツッコミたくなるが今のシンバにはそんな余裕はなくて、


「大丈夫よシンバ!私も飛び降りるんだから!」


いや、説明になっていない。なんとも拉致があかない会話をシンバは諦めた。これ以上争ったって変わらない。これがシナリオだ。…文句を言うならクリエーターにという事か。


「気を抜くなよお前ら!以上!!」


話終わったバレットはまた神羅課長に絡み出しており、それをスルーしつつシンバとクラウドはティファに誘われ路線図モニターに目を向けた。
意外と高性能なそれに、やはり神羅って最先端なのかもしれないと感心しきっていた、

…その時。


「「!?」」


突然だった。辺りが赤い点滅の光を帯び、警報アナウンスが流れて来たのである。


「っどういうこと?!」

「どうなってんだ!!」


皆が辺りを警戒する中、隣の車両から駆け込んできたのはジェシー。


「まずい事になっちゃったわ!説明は後!早くこっちの車両に!!」

「チッ!しくじりやがったな…!行くぜ!モタモタすんなよシンバ!!」

「心配ご無用!」

「いい急ぐんだ!」

「扉ロックされるっすー!」

「とにかく走って!作戦2にチェンジよ――!!」


普段走ることのないであろう場所を全速力でかけていく。まるで映画のワンシーンだ。これから起こりうる事達を想像すればドキドキとワクワクは止まることを知らない。


「――よし!上手くいったぞ!」


そうしてなんとかセンサーを回避し、先頭車両までくることができたのだが。


「おう!こっちだ!!…ここからダイヴだ!!」


勢いよくそう言って勢いよく列車の扉を開けるバレット。そんなバレットの行動に、先ほどまで勢いのよかったティファの顔が色を無くしていった。


「……怖いね」

「…今更じゃねえか」

「そうやでティファ!ウチにさっき飛ぶって言うたやんか!!」

「時間がねえ!!」

「……そうよね。…よっく見てて!私、飛ぶから…!!」


直後、ティファは華麗に飛び降りていった。実行力が半端ない。そんな短時間で覚悟を決めたその勢いに乾杯。どんどん小さくなっていく彼女の背中がとても神々しい。


「シンバ、先に行くか?」

「…え!いいよ!お先にどうぞ!!」


結局のところシンバはまだビビっていた。そんな自分を尻目にクラウドは躊躇なく飛び降りて行く。その姿にも呑気に尊敬の眼差しを送っていたが。


「…バレットお先に――」

「リーダーは最後まで残るもんだ!いいから早くいけ!!」

「えぇー!心の準備が…」

「時間がねえんだ!ったくもう俺が押してやる!!」


警報がなる事にも飛び降りる事にもそんな一気に心の準備が出来るか!とバレットに反論してやろうと思ったのに、後押しとはいえないほど加減をしらないその力によってシンバは強制的に列車から突き落とされる形となった。


「ぎゃーーーー!!バレットのあほーーーう!!!」


叫びながら落下していくシンバ。


「っ!!!」


…しかし、なんとか不時着をかます。


「シンバもやればできるじゃない!」

「し、死ぬかと思た…!バレットあんにゃろ…!!」

「っよし!ここまでは予定通りだ」


そんなシンバを他所に隣に綺麗に着地したバレット。自分がちゃんと着地しているのを見てバレットは嬉しそうに笑っていて、


「…立てるか?」


その代わりにか、クラウドが手を差し伸べる。シンバはその手をとって体を起こした。



 *



ようやく伍番魔晄炉にたどり着き、爆弾を難なくセットし終えた四人はそそくさとその場を去っていた。

モンスターや見張りの兵と出くわすことも無く、順調に出口への距離を縮めていく。こんなにアッサリと行動出来るなんてラッキーだなんて、しかしやけに静寂に包まれた辺りの雰囲気は何かのフラグの様。もしやこれは何かあるのではと、誰もが嫌悪感を抱き始めた、

その時。


「――っ神羅兵!?」


開けた場所に出た途端神羅兵に出くわし、そして忽ち囲まれてしまった。


「……ワナ、か」


やっぱりか、とクラウドが呟くと同時。魔晄炉から、真っ赤なスーツが眩しい小太りの中年男性が現れた。


「プ、プレシデント神羅!?」


そうバレットに呼ばれこちらに目を向けるプレシデント。シンバは気づかれないようにそっとクラウド達の背後に隠れた。
プレシデントとタークス時代に一度だけ顔を合わせた事があった為である。向こうは多分自分の事など覚えては無いだろうが、念のため気配を消しておく事にした。面倒くさい事になっても困るからだ。


「何故プレシデントがここにいるの!?」

「ほほう。君たちがあれかね?…なんて言ったかな?」

「アバランチだ!覚えておけ!」

「…久しぶりだな、プレシデント」

「…久しぶり?あぁ、君があれかね。アバランチとやらに参加しているという元ソルジャー。確かにその目の輝きは魔胱を浴びた者…。その裏切り者の名前は何といったかな?」

「…クラウド、だ」

「すまないがソルジャーの名前なんていちいち覚えとらんのでな。…せめてセフィロスくらいにはなってもらわんと」

「っセフィロスだと…!?」


その名を聞いた途端、ブワリと身体に走る緊張感。――セフィロス。この物語のもう一人の主人公と言っても過言ではない、後々戦うことになる元ソルジャーの英雄。


「んなこたぁどでもいいんだよ――!!」


しかしその名はバレットの怒声によって掻き消され、それからも彼とプレシデントの言い争いは激しさを増していった。…否、激しさを増しているのはバレットだけで、プレシデントは何ともなく平然な顔をし続けており、それがまたバレットの怒りのボルテージを上げる、という悪循環。
…そうしてその場が益々険悪ムードになりかかっていた、その時。


「――…そろそろ君たちの相手をするのにも飽きたよ。わしは多忙な男なのでな。もう失礼させてもらおうか。…今日は会食の予定があるのでな」

「会食だと!?ふざけやがって!お前には言いたい事がまだまだあるんだ!!」

「君たちの遊び相手は別に用意させてもらった」



ドドドドドドドド――


「…何の音!?」


だんだんと増していく音と振動。通路の奥から出てきたのは、巨大な機械の兵器。


「な、なんだコイツは!?」

「我が社の兵器開発部門が試行したエアバスターだ。君たちとの戦闘データは今後の兵器開発のサンプルとして利用させてもらうよ」



ブロロロロロロ――


「「!?」」


今度は何の音だとそちらに目を向けると、近づいてきた音と比例するように強い風が辺りに吹き荒れた。
それがヘリだと気づいた時には、既にプレシデントはその中。


「では、失礼」


そうとだけ言い残し、プレシデント神羅は早々と去っていった。


「待て!プレシデント!!」


ヘリは大きな荷物を置いて飛び去っていってしまった。…なんて厄介。


「…おいクラウド!とりあえずこいつを何とかするぞ!」

「助けてクラウド!これ、ソルジャーなの!?」

「まさか、ただの機械さ」

「なんでもいい!ぶっ壊してやるぜ!」

「…行くぜ!初ボス!!」


…初ボス。しかし誰もシンバの発言につっこまなかった。



 *



「――っし!やったぜ!」


たかが兵器。攻撃方法もワンパターンで誰も負傷する事なく、難なく倒す事ができた。


「やるじゃねえかシンバ!」

「へへーん!だてに訓練受けてただけの事はあるやろ!」


というよりも大体のモンスターの弱点は把握している。そういう事だけは記憶力がいいのが自分のいいところだと言おうとしてシンバはやめた。
しかし、呆気なく終わった戦いにどうしてか喜びの感情は芽生えない。何か違和感。…何か、何かまた大事な事を忘れている気が、



ドオゥン――!!!


「っなんだ!?」

「っやば…!」


突如暴走し出したその兵器。…あぁ、やっぱり忘れていた。次にくる場面が頭の中を通り過ぎる。やっぱり肝心な所が抜けているではないか。前言撤回。記憶力がいいなんて言えたもんじゃない。


「みんな逃げ――」



バァァーーーン――!!!


「「!!!」」


時既に遅し。シンバが叫ぼうとしたその時、兵器は自爆した。地震が起こったかのような衝撃が辺りに走ると同時、急にグラッと歪んだ視界。


「え、?」


自分の足元、そこに広がっている暗闇。…おかしい、さっきまでは床があったはず。…そうか、床がなくなったのかと冷静に分析した所で、シンバはようやくそれに気づいた。

あ、落ちるのは自分だと。


「っうそーーーーーーーん!!!!!」


ありえない展開。ここで落ちる人物はクラウドと決まっていたため、どこか余裕をかましていた。パニック。まさか自分が落ちるなんて心の隅にも置いていなかったのだ。


「シンバ!!!」


ティファが身を乗り出してシンバを助けようとするのを、バレットが慌てて止める。


「ティファぁーーーー!!!」


ティファに向かって手を伸ばすもその手が何かをつかむ事は無く、どんどんバレットとティファの姿が―その声が小さくなっていく。それに反比例するようにシンバの中の不安が大きくなる。自分はこのまま死ぬのか。また死ぬのか。…いや、またって何だ。

そうして視界にティファ達の姿が見えなくなった後に、なぜか見える金色の点。どんどん大きくなって自分に近づいてくるそれは、…まさか、天国への光か、


「…っ!!」


と思ったそれは、先ほどの自分の隣に立っていた人物だった。


「クラウドっ!?」


やっぱりクラウドも落ちていたのか。自分はオマケか。しかし同時に落ちたのであれば差がありすぎないか。クラウドの方が重たいのだから自分よりも落ちるスピード早いんじゃないのか。というより大分後に落ちてきたではないか。どういう事だ。…とわけが分からなくなっているシンバの思考を、クラウドの声が呼び戻す。


「シンバ!!」


その目はしっかりとシンバを捉えていた。そして自分の方に伸びてくる手。…それを見て、悟る。クラウドは落ちてきたのではない、自分を助けに飛び降りてきたのだと。
今更クラウドの手を取ったところで助かるわけではないが、藁にも縋る思いで手を伸ばす。そしてその手がクラウドの手と触れた瞬間。


「!?」


シンバはそのままクラウドの腕の中にすっぽり収められました。


「く、クラ…!」

「しっかり捕まってろよ」


突然の出来事に尚更パニックに陥りながらも、必至にクラウドにしがみつくことしかできず。とんだ展開に思考はショート寸前。

そのまま二人は、暗闇の中へと吸い込まれてしまった。



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