11 we reunited with each thoughts



「――…?」


ぼやける視界。なんか前もこんなことあったか、と思いながら、モザイクがかる目の前に見えてくるは、華やかなピンク色。だんだんハッキリしてきたそれが、人の形を模っていく。


「もしもーし!」


バッチリ目が合ったその女の子は嬉しそうに笑ってくれた。…あぁ、あなたも見たことある人物。それに慣れたのかシンバはもう多少の事で驚かなくなっていた。


「だいじょぶ?」

「…、うん、へーき……ってクラウド!?」


シンバは今自分がいる場所に驚き飛び退いた。呑気にクラウドを布団のごとく敷いているではないか。きっと自分を庇ってくれたのだろう、体にあまり痛みを感じない。色々と申し訳ないことをしたと、そうして気絶しているクラウドをゆすって声をかけるも、彼は一向に起きる気配を見せない。


「クラウド…ごめん。ウチのせいや…!」


さぞかし重かっただろうに。きっと今クラウドは夢の中で魘されていると思う。


「アナタを守ってくれたのね。優しい彼氏じゃない」

「か、か彼氏!?」


エアリスのとんでも無い発言にシンバは素っ頓狂な声をあげた。


「…違うの?」

「ち、ちゃうちゃうちゃう!!クラウドはタダのなーかーま!!」


いやそうだったらどんなにいいだろうと思ったが、自分がそんな恋愛沙汰になる事はまずない。クラウドはティファのものだと思い込んでしまっているから。


「ふふ。赤くなっちゃって!可愛いー」


唐突に始まったエアリスのからかい攻撃。どしょっぱつからなんてフレンドリーなんだと思っていると、クラウドの体がピクッと反応を見せる。ようやく目を覚ましたようだ。


「っクラウド!よかったぁ!!ごめん、ウチのせいで…怪我ない!?大丈夫!?」

「いや、大丈夫だ…。シンバこそ怪我はないか?」

「うん!全然大丈夫!」

「…なら、よかった」


その言葉に、ポッと頬が赤くなるのを感じた。咄嗟にエアリスに見られないように顔を隠す。
…あれ、クラウドってこんなに優しいキャラだったっけ。クラウドツンデレ疑惑浮上である。


「ここスラムの教会よ。伍番街にあるの。…いきなり二人で落ちてくるんだもん、ビックリしちゃった!」


シンバ達の頭上を指差したエアリスの手の動きを追うように、二人も天井を見上げる。


「…結構な高さやな!」

「あぁ、結構な高さだな」


よく生きてたよ。とシンバは感心した。


「屋根と花畑がクッションになったのかな?運いいね!」


いや自分今年大殺界なんですよー。とシンバは言おうとしたが、自分たちがいる場所―綺麗な花たちの上に堂々と乗っているのに気づき慌ててそこから飛び退いた。


「…アンタの花畑なのか?それは悪かった」

「気にしないで!お花結構強いのよ。…それにここ、特別な場所だから」

「ミッドガルでお花咲いてるん初めて見た!」

「そうなの、ここだけお花咲くのよ!好きなんだ〜、ここ」


楽しそうに花を見つめていたエアリスだが、刹那クラウドに向き直って、


「――…また、会えたね」


嬉しいというよりは、どこか切なげに、そう言った。


「…そうなん?」

「覚えてない?」

「いや、…覚えている」

「本当!あの時はお花買ってくれてありがと!…ね、マテリア持ってるんだね!私も持ってるんだ〜!!」

「そうなん?見して見して!」

「うん!…ね、いろいろお話したいんだけど、どうかな?」

「ウチもお話したい!いいよなクラウド?」

「あ?あぁ…」

「じゃ、待ってて!お花の手入れすぐ終わらせるから」


そう言ってエアリスはシンバとクラウドが潰してしまった花たちを手入れし始めた。シンバはハッとしたようにエアリスの隣に並び、その場にしゃがむ。


「ごめんな、手伝う!」

「うん、ありがとう!」


お互い顔を見合わせ、にっこり微笑む。笑顔が最高に可愛い。


「あ、そういえば名前知らないね。私は花売りのエアリス!よろしくね!」

「ウチはシンバ。仕事は――」


元タークス。…言いかけてシンバはある事に気づいた。


――忘れてた!!!この後の展開はやばい!!!!


「…ちょ、ちょ!ウチトイレ行ってくる!どこ!?トイレどこ!?」

「…ふふ、シンバ…何かと思ったら!奥を行って左手にあるよ」

「ごめん!…クラウド代わりに手入れしといてな!!」

「……何で俺が」


シンバはとにかく駆け足でその場を立ち去った。この場を早々と立ち去る理由にトイレしか選択肢が無いのが実に恥ずかしい。きっと二人にはよほど我慢していたんだと勘違いされたに違いない。そんな勘違いは断じてして欲しくないが、それを否定する余裕はどこにも無い。

そうして去りゆくシンバの背中が見えなくなると、それの言いつけ通りにクラウドはエアリスの横にしゃがんだ。…意外とクラウドは素直である。


「俺はクラウドだ。仕事は…何でも屋だ」

「…なんでも屋さん」


なんでもやるのさ。とクラウドが付け加えると、エアリスは笑った。


「何がおかしい?」

「ごめんなさい!…でも、ね――?」



ザッ―


「「!?」」


その時だった。教会の入り口から聞こえた物音に二人が振り返れば、教会の扉にもたれ掛かる、黒ずくめの上にやけにその赤髪が映える男と、その後ろに三人の兵士。
敵かとクラウドが身構えるもエアリスはいささか落ち着いており、服の汚れを払いながらユックリ腰を上げた。


「…タイミング悪いなぁ。クラウド、構っちゃダメよ」

「俺に構うな、だと――?」



――っ危なかった…!!


クラウド達の姿を、相手から見られないような位置からこっそり覗く。
視線はただ一人―燃えるような赤い髪をし、スーツをラフに着こなしている男へ。そんな男はこの世に一人しかいない。――レノだ。


「……」


ゴクリ、と唾を飲み込む。もう少し気付くのが遅かったら見つかってややこしい事になっていたに違いない。自分の記憶力万歳である。
しかし、複雑な心境には変わりない。そういやあれからそれほど日は経っていない筈で、何だか懐かしいようで…しかしあの時の事を思い出すとチクリと痛む心。


「――どこの誰だか知らないが…」


クラウドはゆっくりレノに詰め寄っていく。


「…知らない?」


――いや、知ってる


「そうだ。…俺は知っている。その制服は、」


タークス。…そう思ったと同時、クラウドの中に過ぎった彼女の顔。クラウドはピタリとその歩みを止める。


――こいつらが、シンバを…


確信的に本人がそうしたとは知らずに、シンバが今この場に居なくてよかったとクラウドは心底思った。そうしてエアリスを振り返るように、彼女の消えた奥の通路の方を見やる。
まだ帰ってくるなよ。…そう、願って。


「……、」


自問自答を繰り返したり考え込んだりと忙しい金髪の男に、怪訝な顔を向けるレノ。


「…お姉ちゃんコイツ、…なんか変だぞ、と」

「っ黙れ!神羅の犬め!」

「レノさん、やっちゃいますか?」

「…考え中だぞ、と」


前髪を掻き分けニヤリと笑う彼に、その笑顔の意味を察してエアリスが叫んだ。


「ここで戦って欲しくないわ!お花踏まないで欲しいの!!…出口は奥にあるから、シンバと合――」

「っ行くぞ!!」


エアリスの最後の声をかき消すように、クラウドはわざと大声を張った。
しまった、と思ったが時すでに遅し。チラリとレノを見やると、案の定彼は目を見開いてこちらを見ている。隠し通すつもりだったのに、シンバの存在が向こうにばれてしまった。エアリスは何も事情を知らない。まさかこんな展開になるなんて思ってもいなかった為、シンバの素性について何も伝えていなかったのが仇となってしまった。


「……っ、なんだと、」


レノの耳に響いた、ずっとずっと気がかりで、探し求めていた人物の名。聞き間違いだろうか。自分がそれを求めすぎている為に、聞き間違えたのだろうか。ぐるぐるぐるぐる、頭の中を巡り続ける。


「お前ら…今あの姉ちゃん、何て言ったか聞こえたか?と」


突然の質問。後ろの神羅兵三人は顔を見合わせ、その内の一人が口を開いた。


「ここで戦って欲しくな――」

「その後だ」


またもや三人は顔を見合わせ、次の一人が口を開く。


「…お花踏まないで欲しいの!」

「…その後だ!!」


…何故か怒られた。三人は焦ったように顔を見合わせ、最後の一人は緊張した面持ちで口を開いた。


「出口は奥…その後シンバ?と合流、って、」

「っ、」


レノは確信した。聞き間違いなんかじゃない。
シンバが、シンバはここにいる――


「っ!」


咄嗟にレノは駆け出していたが、何歩めか進んだところで床の感触が土の感触に変わった事に驚き視線を落とすと、花畑を思いっきり踏んでしまっていることに気付く。


「レノさん、踏んだ!」

「花、ぐしゃぐしゃ!!」

「怒られる〜!」


後ろで騒ぎだせば、それにカチンときたレノに睨みつけられる三人。


「…お前ら憶えとけよ」


三人は顔を見合わせ青ざめた。…今日のレノさんは機嫌が悪いご様子だ。三人は今さっきの行動を反省した。



 *



「――エアリス…もしさっきの奴にシンバの事を聞かれても、何も知らない振りをしてくれ」

「? どうして?」

「事情は後で話す。頼む…!」


クラウドのタダならぬ雰囲気に、エアリスは空気を読んで頷いた。


「――クラウド!」

「「!!」」


その声はシンバだった。物陰から自分達にブンブンと手を振っている彼女をしっかりと目に捉え、その方へ駆け寄る。


「シンバ!今タークスが…」

「見た見た!速攻隠れた!…とりあえず今からは別行動な!」


じゃ。と言ってシンバはその場を離れようとする。


「待ってシンバ!ごめんなさい、私…」


振り返れば、エアリスが申し訳なさそうに俯いていた。自分の名前を出したせいでとんでもない事になっているんだと思ったのだろう。自身に罪悪感を感じているのかもしれない。


「エアリスのせいやないよ。気にせんとって!」


ニッコリ笑ってみせると、エアリスはそれに安堵したのか表情を明るくした。
そうしてシンバの姿が見えなくなるのを確認してから、二人は別の出口へと向かう。


「――いたぞ!あそこだ!!」


すぐそこまでレノ達はきていたが、しかし彼は既に当初の目的を忘れてしまっているようで、


「…待てよ!お前らシンバを知ってるのか!?」


ピタ。とクラウドが足を止める。振り返って見たレノの表情は期待心に溢れていたが、どこか切なげだった。


「…そんな奴、知らないね」

「そうそう!知らない知らない!ベーッだ!!」


大げさなエアリスの態度にクラウドは冷や冷やしていた。これじゃ逆に知っているみたいじゃないかと。…しかしそんな彼女の態度を注意すればまた逆に怪しまれるだろうから、クラウドは何も言わない事に決めた。


「…シンバ!?いるんだろ!?」


突然大声をあげたレノ。少し離れた場所で様子を伺っていたシンバはビクリと反応する。


「俺たちはお前を売ってなんかいねえ!あれは宝条のデタラメだ!!」

「「!?」」

「?」


クラウドもシンバも過敏に反応を示したが、エアリスだけが事情がわからずキョトンとしている。


「お前を納得させる為に適当な事抜かしやがったんだ!アイツは実験の為ならどんな嘘を付いてでもやり通す、そんな奴なんだよ…!!」


レノは見えない相手―シンバに必死に訴えかけていた。その様子があまりにも必死なものだからクラウドの心は複雑だったが、


「…宝条と話はついてる!もう二度とあんな事させねえ!!だからっ――」

「――…だからなんだ!!!」


それをかき消すかの如く、叫んだのもクラウドだった。


「アイツがどんな思いをしたか、アンタにわかるのか…?!」


明らかにクラウドのオーラが変わった。もはやリミットブレイク寸前、かなり怒っているようにも見える。一歩間違えば一触即発の空気。


「…シンバはもう二度と、アンタ達のところには戻らない」


だが、そう一言言い残したクラウドは、エアリスと共にそそくさとその場を後にした。


「お、おい待て!!」

「やめろ」

「「!?」」

「レノさん、でも、」

「…――」


必死に後を追おうとする神羅兵達をレノは止め、自身を落ち着かせる為かポケットから煙草を取り出し火を灯す。


「…なんだよ。バッチリ知ってんじゃねえか」


煙と一緒に溜息をも吐き出し、レノは天を仰いだ。


「まいったな、と…」


レノの嘆きは、静寂の中に静かに解けていった。



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