「――あの子がそうじゃない?」
ガタン。と自販機から購入した飲み物が落ちてきたと同時だった。しっかりと耳に届ろいたその声が言う「あの子」は、見なくとも自分を指しているのがわかった。
それを取りながらチラリとその声の方を見やる。壁からこちらに目を向ける女が三人。どこの部署のものかはわからない。し、今まで見た事もない。なんせこの神羅カンパニーには大手の企業と同じくらいの人が雇われている。タークスに成りたての自分は、顔も名前も知らない人が大半だった。
「レノさんと最近よくいるんだって」
「同じタークスだからっていい気になりすぎじゃない?」
井戸端会議のように話されるその噂話―というより嫌味は、あからさまに自分に聞こえるように言われている。あぁ、出た出た。ついにきたよこの時が。女の嫉妬が生み出す社内イジメが始まった。標的は自分。目的はレノ。だからアイツとよろしくするのは嫌だったんだ。とたらしなレノを今ほど恨んだ事はない。
「タークスにも最近入ったばっかりなんでしょ?」
「そうそう。なんか凄い才能があるとかどうとかで持て囃されてるんだってー」
「ちょっと調子乗ってるんじゃない?」
…うざい。女って人種はこれだから嫌いだ。もちろん女の人みながそうではないが、自分も女だが奴らと一緒の類にされるのはゴメンである。僻みや妬みを陰でグチグチ言うくせに表面ではいい子ちゃんを演じる醜い奴ら。そんな事する暇があったら仕事しろ。とこちらもあからさまに聞こえるように大きく溜息を吐いて缶ジュースのフタを開けた。
「レノさんと仲良くするなんて100年早いんだから」
コツコツと高いヒールが生み出すその音が自分に近づいてくるのがわかった。どうやら臨戦体制に入るらしい。あぁもう最悪だ。出来れば嫌味だけぶちまけて解散して欲しかった。売られた喧嘩は買わないのが自分のポリシー。アイアム平和主義。どうしよう。面倒くさいことこの上ない。
…と思っていたら、次に聞こえてきたのは甲高いその女達の罵声ではなく、凛々しい男の人の声だった。
「…何か用か?」
「「!!」」
聞こえてくるはずのないその声に驚いて振り返ると、頼もしい我らの上司がそこにはいた。女達も驚いたのかそんな表情を向けている。
「これから彼女と約束があるんだが」
「…へ?」
突拍子もないツォンの発言についていくことが出来なかった。女達もまさかタークスのお偉いさんが現れるなんて思ってもいなかったのだろう。威勢のよかったライオンが今や追われる立場のシマウマのように恐縮してしまっていた。
「ほら行くぞ」
ツォンはそういうと強引に自身の腰に手を巻きつけてエスコートするように歩きだした。
あてがわれた手とツォンの顔を交互に見やりながら、状況についていけないながらも必死にその足だけはツォンについて行こうと動かす。
女達をチラリと振り返ると、ポカンと口を開けてなんともいえないブサイクな顔をしていた。あと数分したらきっと先ほどの井戸端会議がまた開かれるだろうと思った。内容はスキャンダル。レノとよろしくやっていた自分が実はその上司と出来ていたと。…いや待て待て待て待て。出来てない出来てない。断じて出来ていない。なんか前にもこういう事あったぞ。
そう思ってやっと思考回路が戻ってきた時。ツォンがスッとその手を離した。
「…タークスがイジメに合うなんて前代未聞だな」
ツォンが鼻で笑った。あぁ、自分を庇ってくれたんだとようやく気づいた。
「…あんな事言っちゃっていいんですか?ウチと変な噂たっちゃいますよ?」
からかうようにツォンに言うと、ツォンはまた鼻で笑ってこう言った。
「…構わない。言いたい奴には言わせておけ」
それを聞いて何だか自分が恥ずかしくなってしまった。何ていい人なんだツォンは。心が広い正真正銘の男前。
「…けど助かりました。ありがとうございます!」
神様仏様大仏様。と拝むように手をすり合わせていると、バシッと頭を叩かれた。
…数日後。広まったその噂を持ち帰ってきたレノに問い詰められたのは、言うまでもない。