「…誰だよアイツ」
まるで張り込みをするかのようにレノはくわえ煙草をしながら物陰に隠れ、エレベーター前にいる二人の男女を盗み見していた。
その視線の先にいる男は自分も仕事でよく絡むことのあるソルジャーの制服を着ているが、その顔は馴染みがない。どちらかと言えばカッコイイ類に分類させるだろうその容姿を、頭一つ分小さい隣の女は見上げる形で見つめている。時折それに向けられる女の笑顔が自分の瞳に映る度に、込み上げてくる何か。そして何故自分はコソコソとそれを盗み見ているのかという疑問。… 全ては、昨日のルードの一言だった。
*
『――は?アイツが?』
『あぁ。男と一緒だった』
ルード曰く、昨日エレベーターに乗ろうとしたら既にそこにはアイツが乗っていて。自分が乗ると入れ違いに出て行ったソルジャーの男と会話していたらしく、何を話していたのかまではわからなかったが何やらその様子からかなり親しい間柄という事だけはわかったと。そしてその後のアイツの独り言。
『オフィスラブぅ!?』
突拍子もないルードの言葉にさすがのレノも取り乱してしまった。オフィスラブ。神羅にきて―タークスになって間もないアイツが、オフィスラブ。あり得ない事ではない。アイツはああ見えて結構容姿端麗だし、黙っていればそれなりに男が寄って行きそうな感じはある。現にこの前告白されている所も見た(PART2参照)。あり得ない事ではない。…あり得ない事では――。
『…』
『…気になるのか?』
『!…何でそうなる』
確かに驚いた事は驚いた。けど何故、俺がそれを気にしなくてはいけないのか。何故、ルードは俺に報告してきたのか。
『ま、ただの世間話だと思ってくれ』
言い方がかなり嫌味っぽかった。…コイツ、俺をおちょくってやがる。レノは引きつった笑顔でルードを見やったが、ルードはなんて事ない顔で新聞を読み漁り始めていた。
*
「――…」
ただの興味心。アイツが好意を寄せているのかどうかはさて置いて、どんな男と親しくしているのかという、興味心。それだけだ。アイツを拾ったのは俺。イコール俺は、アイツの親みたいなもんで。心配する親心。そう、それが理由だ。別にアイツが誰と宜しくしようが、俺には関係ない。…関係、ない。
「……何をしている」
「!!」
振り返れば何時の間にやらそこにはルードの姿。
「べ、別に何もしてないぞ、と…」
クイっとサングラスを上げるルードの目に映る手前のレノと遠くのあの二人の姿。レノは平然を装っていたが、その態度にルードはニヤリとその口角をも上げた。
「…何だよ」
まるで親に見られたくない所を見られてしまったような、そんな気分。
「……別に」
そうとだけ言ってそそくさとルードはその二人の方へ向かって行ってしまった。ルードに気づいたアイツは、その後ろの俺にも気づいたようで満面の笑みで手を振ってきやがった。
「…くそ、」
何だか腑に落ちない。ルードにしてやられた気分だ。俺がアイツの親ならば、ルードは俺の親父といったところか。
レノはしぶしぶその足を進めた。
…最悪な一日の幕開けのような気がした。