12 gives she's heart to your image



「――初めてじゃないな?奴らが襲ってきたのは」


クラウドとエアリスは教会を後にし、少し離れた場所でシンバを待っていた。

エアリスの最初からやけに落ち着いている声色と彼らと"普通"に接している態度を見れば、それは一目瞭然だった。シンバと同じようにエアリスも神羅に目を付けられているということに間違いはなさそうだが、


「……まぁ、ね」

「タークスだよ、あいつらは」

「シンバはどういう関係があるの?」

「…シンバは――」



「――ウチ、元タークスなんよ」


どこから湧いて出てきたのか、シンバはクラウドとエアリスの後ろに立っていた。



皆が揃ったところでエアリスの家に向かいながら、シンバは今までの事全てを話した。
エアリスはシンバが他世界から来た話に驚かなかった。むしろ納得している事に逆に二人が驚いたほどだ。


「な〜んか、そんな感じがしたんだよね!」

「…どんな感じ!?」

「ふふ。私には、わかるの!」


――"古代種"の力…?


うっかり口走りそうになったその言葉を必死に喉の奥にしまい込む。自分で思い出しておきながらエアリスが"古代種"という特別な人物である事を今更実感し、…複雑な思いを抱えながら、エアリスを目で追う。


「ねえクラウド。あなたもしかして、ソルジャー…?」

「…元な。どうしてわかった?」

「あなたの目、その不思議な輝き…」

「…綺麗やんなぁ〜、」

「これは魔晄を浴びた者…ソルジャーの証だ。…どうしてアンタがそれを?」

「ちょっと、ね――」


エアリスの表情が曇っていく。…エアリスが今何を考え何を思っているのか、シンバには痛いほどわかっていた。


「ちょっと…?」

「っちょっとはちょっとや!ところでクラウド――」


シンバは耐えきれなくなって、クラウドに違う話題を無理矢理持ちかけた。…エアリスの消えそうなその表情を、見ていられなかったから。



 *



しばらく歩き、寂れた伍番街に辿り着いた三人。
その外れにあるエアリスの家は、そこだけが異空間のよう。家の周り、それを守るかのように咲き誇る色とりどりの花たちが、とても明るく華やかな雰囲気を醸し出していた。素敵だ、それに香りがいい。ここに来るだけでとてもいい気分になれそうだ。

そうして大きな玄関扉を開ければ、すぐ横に台所があり、そこに立っているエプロン姿の女性と目が合った。


「ただいま、お母さん。クラウドとシンバ。私のボディガードよ」


どうもはじめまして。とシンバは律儀に挨拶を交わす。


「ボディガードって、おまえまた狙われたのかい!?」

「大丈夫よ。今日は二人がいてくれたから」

「そうか。…ありがとうね、お二人さん」


…正確にはクラウドだけなのだが。お礼を言われても何にも反応しないクラウドの代わりに、シンバが反応を示しておいた。


「ねえ、これから二人はどうするの?」

「…七番街は遠いのか?ティファの店に行きたいんだ」

「ティファって、女の人?」

「ああ」

「彼女?」

「っそんなんじゃない!」

「ふふ。そんなにムキにならなくてもいいと思うけど!」


場違いな会話をし始めた二人を見て、エアリスは恋バナが大好きなんだなとシンバは思った。というよりそれさっき自分にも言ってなかったっけ。そんなにクラウドに彼女がいて欲しいのだろうか。女ってよくわからない。…自分も女だが。


「七番街だったわね。私が案内してあげる!」

「冗談じゃない。また危ない目に会ったらどうするんだ?」

「慣れてるわ」

「慣れてるってアンタ…」

「お母さん!私七番街まで二人を送って行くからね!」

「やれやれ、いいだしたら聞かないからねえ…。でも明日にしたらどうだい?今日はもう遅くなって来たし」


そう言われてみると、さっきより周りが些か暗い気がした。…ってミットガル日当たらねえし!


「…エアリス、ベッドの準備をしておくれ」


言われたエアリスは嫌な顔せず、そそくさと二階に上がっていく。それをずっと目で追っていたエルミナの表情がだんだんと陰りを見せ、そしてその表情はエアリスの姿が見えなくなった後、クラウドに向けられた。


「…あんたその目の輝きは…ソルジャーなんだろ?」

「あぁ。しかし昔の話だ」

「…言いにくいんだけど、今夜のうちにここを出て行ってくれないかい?エアリスには内緒でさ。…ソルジャーなんて、またエアリスが悲しい思いをする事になる…」


そう言って、エルミナは遠い目をしていた。シンバはその瞳に、当時のエアリスの風景を見た気がした。

エアリスには思い人がいた。その人物の事もシンバはよく知っている。しかし、その人は遠くにいってしまった。…二度と会えない、その場所へと。
どんなに辛い思いをしただろう。いつか会えると信じてエアリスはずっと待っていたんだろう。…きっと、今だって――


「――…シンバ?」


クラウドに名を呼ばれ、ハッと我に返る。


「っ!…了解ですお母さん!な!クラウド!」

「あ?あぁ…――」


ちょうどそこへエアリスが降りて来て、二人を二階へと案内する。


「七番街へは六番街を抜けていくの。今夜はゆっくり休んでね!クラウド、シンバ、おやすみなさい」

「…おやすみ!」

「……まいったな」


クラウドとシンバは、とりあえずそれぞれに用意された部屋へ入っていった。





 ***





「――クラウドも疲れてたんやな」

「あぁ…すっかり眠ってしまっていた。すまない」

「ん?ええよ。ウチも結構寝ちゃってたし、」


あの後暫くして、二人はこっそりエアリスの家を出る事に成功していた。やはりエアリスを巻き込むわけにはいかないと紳士なクラウドは言っていたが、じゃあ自分はどうなるんだ…なんて愚問は聞けないまま、二人はユックリとその足を七番街へと進めていた。


「……なあ、シンバ」

「ん?」

「あの後、何処にいたんだ?」

「あの後?」

「タークスが追って来た後だ」

「…何で?」

「いや…。アイツの話、聞いてたのか?」

「アイツ…?」

「赤髪の男だ」

「あぁレノ?……うん、バッチし聞いてた」

「……信じるのか?」


クラウドが歩みを止める。それに気付いて彼を振り返ればクラウドは真っ直ぐに自分を見つめていたが、…シンバはその視線を避けるように天を仰いだ。そこには暗い空、鉄の塊が自分を見つめ返している。


「けどさぁ〜、…今更ちゃう?」


シンバは、クラウドへ視線を戻す。


「みんなが裏切って無かった事…嬉しくないっていったらウソになるけど。…でも、」


シンバはそこで言葉を止めた。…これ以上、言ってはいけない。クラウド達と一緒にこの世界を旅していたい事。
タークスも悪くない。あの一ヶ月はそう思っていた。楽しかったし、充実していた。それも本心だ。
しかし、当初から自分の中にあったのは、クラウド達との旅だ。ゲームの主人公達との壮絶な旅。タークス側にいてクラウド達と戦うなんてしたくない。それはただの自分のわがままである。ゲームの世界に憧れた、ただの女の儚い夢――


「――…なんだ?」

「……いや、タークスって…ホンマは酷い連中なんやろ?」

「そうだな。スパイ、殺し屋…いろいろだ」

「ウチ絶っっ対無理。人殺すとか無理!!モンスターでも気が引けとんのに!」


あぁ、そうだ。自分はあの一ヶ月デスクワークしかしていなかったが、裏でレノ達が何をしていたか、見て見ぬふりをしていた。それでいいと、言い聞かせていた。
もし今まだタークスに普通にいたとして、自分もそっちに手を染めていただろうか。想像すら、できない。だって私は、


「…平和主義、だったな」


クラウドに向き直れば笑みを浮かべる彼がいて。それにつられるように、シンバも笑みを零した。
…そう、全てこれで良かったのだと。



そうしてしばらく歩いていると、伍番街出口が見えて来た。…のだが。


「…あ」


そこに居たのは、この暗い場所には不釣り合いなピンク色の服を着た女性。


「…エアリス」

「お早い出発ね?」


ギクリ。言い方にかなり棘がある。勝手に出てきたこと、そして置いて行ったことを怒っているのが容易に伝わってくる。


「いや〜あのエアリス?ウチらはただ散歩をしていただけで…」


苦しい言い訳を並べ始めたシンバだが、刺さるようなエアリスの視線に耐えきれなくなって助けを求めるようにクラウドに視線を預ける。


「危険だとわかっているのにアンタに頼るわけにはいかないさ」

「言いたい事はそれだけ?…ティファさんのいるセブンスヘブンはこの先のスラムを通らないと行けないの。案内してあげるね!」


…なんて強情なんだエアリス。ごめんなさい、貴方には敵いません。シンバはエアリスを敵に回してはいけないと心に誓った。



 *



そうしてまた三人揃って瓦礫に囲まれた道を歩いていると、今度は古い公園が目に飛び込んできた。


「ブランコ!ブランコがあるー!!」


それを見つけた途端、一目散に走り出す一人の女。


「…子供か」

「ふふ。可愛いじゃない!…この先に七番街へのゲートがあるわ」

「わかった。じゃあここで別れようか。…一人で帰れるか?」

「いや〜ん帰れな〜い!…って言ったらどうするの?」

「ほなウチが送ってったろか!?」


シンバはブランコを思いっきりこぎながらそういった。


「…それって何だかおかしくない?」


エアリスは笑って近くの滑り台を見上げ、懐かしいと言いながらその上へと登り、それに誘われたクラウドもしぶしぶそこへ登っていく。…その様子を見たシンバはラブラブか、と心の中で突っ込む。


「…あなた、クラスは?」

「クラス?」

「ソルジャーのクラス」

「あぁ、俺は――」


シンバはブランコの勢いを緩め、揺りかごのようにユックリこぎながら二人の様子を見守っていた。…今ここは大切なシーンだ。二人の会話を聞きながら、ある場面を脳内で再生させる。


――ザックス


ゲーム内での二人の楽しそうなやり取りの場面が浮かんでは、消える。微笑ましい二人の姿はもう見れない。そう思うとすごく胸が締め付けられた。
…エアリスは、まだ知らない。いや、もしかしたらもう気づいているのかもしれない。彼女には不思議な力がある。エルミナの夫は戦死したらしいが、それを彼女に伝えたのはエアリスだった。彼女は人の死を―星になった命が分かるのだ。

…それでもきっと信じてる。彼は生きてると、エアリスは信じている気がした。


「……、」


そこで浮かんだ、ある一つの疑問。あの後―彼がいなくなった後、タークスが必死に彼を探し回り、そして連中は既にその事実を知っていたはずだった。ツォンはエアリスに真実を話さなかったのか。言いづらい事実である事は確かだが、ツォンはエアリスの気持ちに気づいていたはず。
ツォンに聞けばよかったとシンバは後悔した。いや聞いたところで何故それを知っているのだと言われても困るのだが。

…なんだかいろいろ面倒くさい。知りたい事実もそう易安と知る事が出来ない現状に多少シンバはイライラを覚える。


「――ティファ!?」


そんなシンバの思考回路を遮ったのはクラウドの声だった。そうしてその声の向こうへと目を向ければ、大きな馬車―いやチョコボ車が青い豪華なドレスを着た女性を乗せて何処かへ向かっていく。…よくみればその綺麗な女性がティファなのである。
しかしシンバは、ティファよりも初めて見るチョコボに目が釘付けになっていた。


「あれに乗っていた人がティファさん?…どこに行くのかしら?それに様子が変だったわね…」


エアリスは滑り台を降りると、チョコボ車が消えた方へと一人で走り出してしまった。


「待て!ったく…シンバ!行くぞ!」

「あ、うん!」


シンバは勢いよくブランコから飛び出し、クラウドの後を追った。



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