13 he's going to be disguised in woman's clothes



エアリスの後を追って―チョコボ車がティファを乗せてやって来たのは、六番街―ウォールマーケットという場所だった。

町をひと通り抜け、そうしてたどり着いた奥の隅にこの場には何とも不釣り合いな派手で妖艶な外観をした建物がドデーンと建っていて、その前にチョコンと立っている彼女―エアリスもまた不釣り合いであった。

大きな看板には"蜜蜂の館"と書かれていて、入り口付近には入りたくても入れない惨めそうな男たちが群がっている。なんだなんだこの場所は。あまりここに長居は宜しくなさそうだ。


「いらっしゃい!モテナイ君でもここ蜜蜂の館でなら運命の彼女に出会えるはず!!…あなたも彼女をお探しですか?」

「……ティファという子を知らないか?」


扉の前に立っていたタキシードを着た男性が、自分たちに気づいて話しかけてきた。…いや、話しかけられたのはクラウドオンリー。いろいろ突っ込みたいところはあったが、クラウドは全てを無視していきなり核心をつく質問をした。そんな彼の眉間には皺がこれでもかというくらい寄っている。きっとイライラしているのだろうとシンバは思った。


「おっ貴方、聞き耳早いですねぇ。ティファちゃんはムチムチの新人さんだよ!」


男の話によればティファはまだ新人。面接のためにドン・コルネオの屋敷にいるらしい。そしてコルネオは今お嫁さん探しに熱心であるといういらない情報も教えてくれた。

――ドン・コルネオ

Zの世界でトップクラスの変態の一人。誰もがコイツには衝撃を受けたのではないだろうか。無類の女好きで、ほひ〜が口癖の極悪非道な男だ。

ついにあの変態がお目にかかれるとは。会いたいような会いたくないような複雑な心境と、これから起こる"エンターテイメント"への興奮を携えながら、コルネオの屋敷に到着。入り口には案内人であろう男が一人立っており、クラウドには怪訝な顔をしていたが、その後ろにシンバとエアリスがいるのを見つけると途端に顔色が明るくなって、


「あぁっ!よく見たら綺麗なお姉ちゃんアーンド可愛いお姉ちゃんが一緒!…ね、どう?うちのドンと楽しいひと時を過ごしてみない?」

「え?あはははは…」


その言葉にシンバは苦笑いを送る事しかできなかった。


「私いってくるね!ティファさんに貴方達の事話してきてあげる」

「ダメだ!」

「どうして?」

「ここは、その…わかるだろ?」

「じゃあどうする?あなたも入る?」

「俺は男だからな…無理矢理入ったら騒ぎになってしまう。かといって――」

「――ほな、クラウド女装したらええねん!」


ポン。とクラウドの肩に手を置いて、満面の笑みを向ける。
言ってやったぜ!とシンバは心の中でガッツポーズをかました。


「ふふっ!それしかない!うん!」

「…あのな、お前ら――」


エアリスはクラウドの制止の声を気にせず、案内人に綺麗な友達を連れてくると自慢げに告げた。それを聞いて案内人は飛び上がる様に喜んでいる。…これでクラウドはもう逃げられない。


「いくらなんでも…」

「ティファさんが心配なんでしょ!早く早く!!」

「行こーう!レッツゴー!!」

「…シンバお前、楽しんでないか?」

「え!?そんなことない!これは一大ミッションであるぞクラウド君!!」


シンバとエアリスがスキップをしているのを見て、絶対コイツら確信犯だとクラウドは思った。なんでこんなハメに。クールキャラな俺がなんでこんなハメに。クラウドは、ガクリと肩を落とした。



 *



「――あの〜、服屋の親父さんですよね?」


コルネオに会うためにドレスアップは必須。だが、三人は今居酒屋にいる。なぜそんなところにいるのかと言えば、洋服屋の親父がスランプで服が作れないと言われた為である。毎日呑んだくれているという面倒くさいその親父を説得するため、三人は場違いな場所へと足を踏み入れている。
だが、これもミッションのうちの一つ。確実に一つ一つクリアし、クラウドを完璧な女の子に仕立て上げ、そしてコルネオに選ばせる為でもあるのだ。


「確かに服屋だがあなたの親父ではないぞ」

「そんな屁理屈いらんわ!」

「服を作ってくれ」

「ワシは男物の服は作らんのだが?それにあまり気乗りせんしなぁ」


親父はそういうとまた酒を飲み始めた。昼間っからどんだけ飲むんだコイツは。すでに顔は真っ赤っかである。


「クラウド、少し待ってて。私が話すわ」


エアリスにそう言われ、クラウドはため息を付きながら少し離れたテーブルの方へ移動する。


「あのね、親父さん」

「クラウド、ああ見えて女装に興味あんねん」


ここぞとばかりにこの状況を楽しむシンバ。


「なんと!あんな無愛想な奴がか?!」


案の定親父は食いついてきた。親父なんてチョロいもんだぜ。


「人は見かけによらんからなぁ〜」

「ね、ね!どう?作ってくれる?」

「ふむ。なかなあ面白そうだのう。普通の服ばっかり作っておったのでちょっと飽きとったんだよ」


いやそれがお前の仕事だろうが。シンバは飽きれた顔で親父を見た。


「じゃあ、作ってくれる?」

「あぁ。よかろう!…それで、どんなドレスがいいんじゃ――?」


――しまった!!!


服の素材によってコルネオがクラウドを選ぶか選ばないかが左右されるのに、シンバは肝心なところをまた忘れてしまっていた。出来れば―いや絶対クラウドとコルネオのラブシーンを拝みたかったのにと頭を抱えて悩みだすも、シンバがオロオロしている間にエアリスがそれを勝手に決めてしまっていた。…ドンマイ、自分。


「ふんふん。ようわかったわい。知り合いにその手の事が趣味な奴がおるのでちょっと聞いてくるわい!」


シンバは半ば諦め、待ちくたびれているであろうクラウドにOKの合図を送った。



しばらくマーケット内をウロウロしてから洋服屋に戻ると、さっそくドレスが出来ていると言われ、嫌がるクラウドを無理矢理試着室に押し込み着替えさせる。
途中エアリスが勝手にその中を覗き込んだ。…大胆だな、エアリス。


「やっぱり、ちょっと変」

「…その頭やとすぐ男てバレるやろー」

「カツラ、必要だね!」

「うむうむ。そうだろうと思って知り合いに話をしておいたんじゃ。"男男男"という看板を出しとるジムがあるじゃろ?そこにアンタと同じ趣味の人間がいるんじゃ。彼に相談してみるとよいじゃろう」

「同じ趣味?……シンバ」


ギロリ、とクラウドがシンバを睨みつける。まるで虎に射抜かれた狐のようにシンバはビクッと肩を揺らした。


「お前…どんな説明をしたんだ?」

「え?あは、あはは…」

「いいじゃないなんでも!ドレス綺麗だしね!」


いやそういう問題ではない。そしてそれに助けられたというかの如くシンバは安堵の表情を浮かべている。…この女はまったく人の気も知らないで。クラウドはまた深く溜息を吐いた。



そうして親父に言われた通り"男男男"の看板を掲げたジムに行くと、そこにはむさ苦しいほどの筋肉モリモリな男達の集団が筋トレに励んでいた。
…その中に、明らかにおかしい格好をした人物が一人。


「あなたね?可愛くなりたいのは」

「可愛く?」

「ええ、そうざますわよ!」


クラウドは呆れた顔でシンバを見た。どう見てもこの女はこの状況を楽しんでいるとしか思えない。


「シンバ、口調が移ってる。…それで、カツラなんだけど」

「ええ聞いているわよ。でも、タダってわけにはねぇ…」

「兄貴!可愛い格好は兄貴を極めた者のみが出来るんですぜ!」

「そういうことじゃー!という事でワシらと勝負じゃー!!」

「…全くどういう事かわからんのですけど?」


勝負内容は三十秒間でどちらが多くスクワットできるかというものだった。スクワットと言えば筋肉。筋肉と言えば男。男と言えばクラウド。…というわけで、有無を言わさずクラウドが選出された。


「…何で俺が、」


いかにも不服そうな顔をクラウドはしていたが、しかしあっさりその勝利を手にしてくれた。やる時はやる男である。
そうしてクラウドは素敵なお兄さんからブロンドのカツラを嫌そうに受け取り、むさ苦しいその部屋を出た。



*



「――あーーお腹減ったなぁ」


どのくらいの時間その街を歩き回ったことだろう。三人がその地形を覚えてしまうほど往復しまくっている事は間違いなくて、そうして腹が減るのは自然な摂理。腹が減っては戦は出来ぬと煩いシンバをなだめる為、三人は食堂へと足を運ぶ。

そこで、キャンペーン中だと言われ薬屋の商品クーポンをもらった。そんなクーポンいらないというクラウドに対し、何故かウズウズしている女が一人。…あぁ、コイツは最初の最後まで自分が女装になる事を楽しみきっているのだとクラウドは思った。

そうして、さっそくそれを薬屋で商品と引き換えるシンバ。


「消化薬GETだぜ!」


ポケ◯ンゲットだぜ!と言わんばかりにシンバはそれを掲げた。


「…そろそろ行くぞシンバ」


楽しそうなシンバと反比例するようにクラウドのしびれは切れ始めていた。…この楽しいイベント満載な街を堪能するのも、そろそろ好い加減にした方がよさそうである。


「…わかった!ちょ、先もどってて!!」

「っおい!」

「まあいいじゃない?シンバはクラウドの為に必死よ?」

「…いろんな意味でな」


どこかへ走り去っていくシンバの後ろ姿を、クラウドは呆れた顔で見つめた。



 *



シンバはシナリオ通り、居酒屋のトイレで困っていた男性に消化薬を渡し、代わりにセクシーな匂いのするコロンを受け取った。なんやかんやで変なところは記憶力が良い。
これが無ければ始まらない。クラウドがいい匂いを発しなければあのイベントは盛り上がらないと勝手に妄想モードに入りながら、急いで洋服屋に戻った、


「!?」


…そこには、とびきり美人のブロンド髮の女性が。


「……誰ーーーーー!?」

「…俺だ」

「っクラウド!?やばない!?めっちゃ綺麗やん!!」


さすがクラウド、容姿端麗にもほどがある。これはコルネオが選んでも仕方ないと思うほどに彼は女その物で、自分が女である事が恥ずかしくなるくらいだ。…男に負けた。シンバは勝手に敗北感を感じていた。


「どう?似合ってる?」


そうして次に試着室から出てきたのはエアリス。煌びやかなドレスを纏ったエアリスは何処かの国のお姫様のよう、さすがエアリスである。女である自分でも見惚れてしまうほどだ。


「やばーー!!エアリスめっちゃ綺麗!!!」

「ありがとうシンバ!さ、シンバも着替えなくちゃね!」

「……え?」

「何言ってるの?シンバも行くんでしょ?」


シンバは恐る恐るクラウドを見た。早くしろと言わんばかりの彼の恐ろしい顔が目に映る。…自分の存在をすっかり忘れていた。画面越しにゲームをしている感覚になってしまっていたらしい。
嫌だなと思いつつもエアリスの視線も怖いので、シンバはしぶしぶドレスを選ぶ。とりあえずなんでも良いかと手に取ったのは紫色のミニスカートのドレス。フリフリで可愛らしい印象もあるが、どちらかというと大人な女を思わせる代物だった。

試着室に入りそそくさと着替え、外に出る。そこにいた皆の視線が一斉に自分に向いた。


「…シンバ!ステキ!!」

「ほお!なかなか!!」


どうやらなかなかイケてるらしく、親父も大絶賛。気分が良くなったシンバは見て見てと言わんばかりにポーズをとって見せる。
…しかしそんな中で、そっぽを向いている人が約一名。


「クラウド!何照れてるの?」

「…照れてなんか、ない」


さあ行くぞ。とクラウドはそそくさと外へ出てしまった。
クラウドの感想も聞きたかったのに、本当にシャイだなあの男は。と残念に思いつつ、シンバは先ほど手に入れたコロンを何の躊躇もなく自身に振りかけていた。

…それが、仇となる事を知らずに――





 ***





コルネオの館に再び出向くと、先ほどの案内人がシンバとエアリスに気づき声をかけてきた。とびきりドレスアップした自分たちを大層褒め称え、そしてその二人の後ろで恥ずかしそうにしている人物に気づいて、また黄色い声を上げるのであった。


「おお!お友達もこれまた可愛子ちゃん!!」


そう言われたクラウドの眉間にシワが寄って行く。ここで男とバレてしまえば元も子もない事を分かっていないのかクラウドは、とシンバは肘で彼を小突き落ち着けと制し、バレる前にそそくさと中へ踏み込んだ。

中に入ると受付のお兄さんに呼び止められその場で待機を命じられたが、その命をこの三人が聞くはずもなく。お兄さんの姿が見えなくなったのを確認するとシンバは一目散に地下室を目指した。
"お仕置き部屋"と掲げられたその部屋への長い階段を下りて行くと、そこにはあの青いドレスの女性―ティファの姿が。


「ティファ!」

「…シンバ!?無事だったのね!…って何その格好は!?」

「いやいやティファかて!」

「ティファさん?…はじめまして!私エアリス」

「あなたは?…あっ、公園にいた人?クラウドと一緒に…」

「そ、クラウドと一緒に」

「…ウチもおったで?」


シンバはボソッとティファに告げた。


「安心して、少し前に知り合ったばかりよ。なんでもないの」


ね、シンバ?とエアリスは付け足す。


「安心って何を安心するの?…あぁ、勘違いしないで。私とクラウドは単なる幼馴染よ、なんでもないの」


ね、シンバ?とティファは付け足す。


「いやいや何で二人ともウチにふるんですか?」


なぁクラウド?とシンバはその元凶であるエアリスの後ろで恥ずかしそうに立っているブロンド髪の女性に向かってそう言った。


「…クラウド??」


その場にいる筈のない人物の名前に疑問符を浮かべながら、シンバの視線の先にいる女性であろう人をティファはまじまじと見た。
その視線に気づき、しかし嫌そうにそのブロンド髪の女性はエアリスの後ろから姿を現す。


「…クラウドなの!?」

「……あぁ」

「どうしたのその格好!?ここでなにしてるの!?」

「可愛いやろ?クラウド。あれは反則やわ」

「この格好は…ここに入る為には仕方なかった。…ティファ、説明してくれ。こんなところで何をしているんだ」


自分の格好にこれ以上触れさせないようにクラウドは本題を問い、そう言われたティファは気まずそうに顔を俯せた。


「…オホン!私耳ふさいでるね。ほらシンバも!」

「…何でウチも!?」


そう反抗するもエアリスの目が早くしろと言わんばかりにシンバを見る。…ああ、怖い。エアリスに逆らってはいけないと体が言っている。シンバはエアリスの元に行き同じようにしゃがんで耳を塞いだ。


「…とにかく、二人とも無事でよかったわ」

「あぁ。…で?何があったんだ――?」


ティファ達が伍番魔晄炉から帰ると、七番街に見知らぬ怪しい男がうろついていた。アバランチを探している、と。それをバレットが見逃すわけもなくチンピラのように脅し、話しを聞き出したのだという。
そして出てきたのがここの主―ドン・コルネオの名前だった。バレットにはただの子悪党だから放っておけと言われたが、絶対に何かあるという気がして止まなくて、ティファは意を決し、こうして忍び込んでいるという。


「――…わかった。コルネオから直接話しを聞こうってわけだな」

「何とかここまで来たけど、ちょっと困ってるのよ。コルネオは自分のお嫁さんを探しているらしいんだけど、毎日三人の女の子の中から一人選んで…その、あの…。と、とにかく!そのうちの一人に私が選ばれなきゃ今夜はアウトなのよ…」


するとエアリスが急に立ち上がった。何事かと思いつられてシンバも立ち上がる。


「あの…聞こえちゃったんだけど」

「っ聞いてたのかよ!?」


しっかり耳を塞いでいた自分がバカみたいではないか。まあ内容は知っているからいいものの。


「三人の女の子が全員あなたの仲間だったら問題ナシじゃないかな?」

「それはそうだけど…」

「ここに選り取りみどりいるわよ」

「ダメだ!エアリス!アンタを巻き込むわけにはいけない!」

「あら?ティファさんなら危険な目にあってもいいの?」

「いや、ティファは…」

「え?ウチはシカトですか?」

「私スラム育ちだから危険な事には慣れているの。…あなたこそ、私を信じてくれる?」

「ありがとう、エアリスさん」

「エアリス、でいいわよ」

「けどさぁ、三人でええんやろ?」

「…俺が抜ける」

「アカン!それはアカン!!不公平や!!」

「じゃ、じゃんけんでもする――?」


揉めていると先ほどの受付のお兄さんが階段を駆け下りてきた。勝手に動いたことを怒られるかと思ったがそうではないらしく、よほど探していたのだろう、いささか息が乱れている。


「ここにいたのか…お姉ちゃん達時間だよ!コルネオ様のお待ちかねだ!」

「…ちょっと待って!三人でええんやろ?」

「今日は特別!コルネオ様も四れてると知ってとても喜んでいるみたいだからね!」


――コルネオ、死ねばいいのに


シンバはガクリと肩を落とした。その横で、同じように項垂れる男がいたのは言うまでもない。



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