受付のお兄さんに連れられ入ったコルネオの部屋。キラキラキラキラと、まさにゴージャスという言葉が相応しい景観をしているが、数秒経って目がチカチカしてきたので前言撤回。なんて鬱陶しい部屋なんだここは。
ここに長居は嫌だなと最初から顔が引きつってしまっているシンバだが、そこにいたその部屋の持ち主を見て血の気が引くのも感じてしまった。
「っ…、」
コルネオは思っていた以上に気持ちの悪い男だった。顔は油まみれで小太り。動くたびにお腹のお肉がぽよぽよと動いて、あぁこれぽっちも可愛くない。目は飢えた獣のようにギョロギョロと血走っている。なんだこの珍獣。…こんな奴には死んでも抱かれたくない。既にシンバはコルネオに会った事自体がトラウマになりそうだった。
「ほひ〜!いいの〜、いいの〜!」
プリプリのお尻を振り回しコルネオが歓喜の声をあげた。その顔でそのぶりっ子加減はやめて欲しい。
「この子にしようかな〜!?」
皆の顔をマジマジと見て回るコルネオ。それにしても近くないか。お前は近視か!とつっこみたくなるが今は到底そんな場合ではない。
「それともこの子かな〜?!」
コルネオがガンガン近づいて来ても、ティファとエアリスはなかなか大人な態度をしていた。そんな二人の様子が信じられないシンバは、ある意味尊敬の眼差しを向ける。
クラウドはというと、コルネオに見つめられるとあからさまに嫌そうに左右を振り返り顔を合わせようとはしていなかった。…それが正しい態度です、クラウドさん。
「ほひ〜!!決めた決ーめた!!」
四人の前をルーレットのように走りはじめる小太りの男。…ウザい。このうえなくウザい。今すぐコイツをしばき上げたい衝動に駆られている人物が約二名。
「今夜の相手は…この可愛らしい女子だ!!」
コルネオはビシッと音が立つくらいに指を前に突き出した。
「っ…」
声なき声をあげたのは、
――うそ
シンバだった。
「…っ、!?」
何が起こっているのか一瞬、シンバにはわからなかった。目の前に立っている油まみれの小太りの男の短い指が、紛れもなく自分を指差している。信じられなくて何度も大きく瞬きをして見間違いじゃないかと確認したがしかしそれはどうにも現実のようで、左右を振り返ればクラウドはホッとした顔を間違いなくしたが哀れな顔で自分を見つめかえしてくるし、ティファとエアリスはグッジョブと言わんばかりに強く頷いてくる。
…それをもって、確信する。
選ばれたのは、紛れもなく自分だと。
「ほひ〜!!」
「っちょっ!何でウチ!?」
「いいの〜!」
「…ウチなんかより他の三人のが全然可愛いやろ!!」
「その拒む仕草がういの〜、うぶいの〜!」
…馬鹿じゃないのかコイツは。てゆうか何で本当に自分なんだ、クラウドじゃないのか。クラウドが選ばれる瞬間の彼の顔を拝むのをとても楽しみにしていたのに。あんまりだ。…やっぱり自分、今年は大殺界のようだ。
「あとはお前たちにやる!」
「へい!いただきやす!」
おいおい自分たちは今晩のおかずか。というツッコミは、虚しく心内で響くだけ。
「さ〜て行こうかの〜!!」
楽しそうなコルネオの声が、嫌というほど部屋に響いた。…あぁ、最悪。私の純潔、ここで終わり(←嘘つけ)。
*
引きずられるようにして奥の部屋に連れ込まれ、そこに広がる空間が悪夢の園のように目に映る。やはりチカチカしてうざい。部屋の真ん中にデカデカと置かれたベッドが待ってましたと言わんばかりにその姿を見せつけており、コルネオの息が上がっていくのに反比例して、シンバの顔はどんどん青ざめていった。
「ほひ〜!」
そのベッドの上に小学生のようにダイヴするコルネオ。シンバはコルネオと一定の距離を保ちつつ今までにないくらいの警戒心をそのふとっちょに向ける。
「ほひ〜!やっと二人きり…」
「…うん、全然嬉しくない」
「さあ子猫ちゃん…俺の胸へカモ〜ン!」
「…いえ、結構です」
「ほひ〜!照れなくても大丈夫。二人きりだよ」
「…見ればわかる」
「ほひ〜!何度見てもかわいいの〜!」
「…アンタに言われても全然嬉しくない」
「お、お前も俺の事好きか…?」
「…好きな奴なんてこの世におらへんと思う」
「ほひ〜!ツンデレ加減が堪らんのぉ〜!!」
「……アンタの頭ん中どうなってんだ!!」
とんだポジティブ思考にシンバはずっこけそうになっていた。なんて低レベルなコント。なんだか相手にするのもバカバカしい。
「ん〜〜〜!!」
「…!?」
そうして言葉の攻防戦を続けていると、次第にコルネオがモジモジしだした。なんだコイツは、本当に気持ち悪い。トイレか、トイレに行きたいのか。行きたいなら行けばいい、そのうちに逃げ出してやる。…などと考えていたのだが。
「も、もう我慢でき〜〜ん!!」
「っぎゃあ!!!」
その考えは大きく的を外れていた。突然飛びかかってきたコルネオをシンバは間一髪で避けた。
「危ねえなアンタ!!」
「何で逃げるかの〜!?」
トイレではなかった。コルネオのしびれが切れ始めているのだ。このままでは、本当に犯される。
しかし、一行に現れないクラウド達にしびれを切らしているのは自分も同じ。…まさかあっちもあっちで犯されているのではあるまいな。そうなったら自分は終わり。THE ENDである。
「〜〜〜〜!!」
シンバはもう泣きそうになっていた。これ以上の恐怖があるだろうか、いいやあるまい。
「早くチューさせろ〜!!」
チューっと音がするくらいにコルネオは唇を尖らせた。気持ち悪すぎる。同じ生物とは思えない。おまけにコルネオはそのまま飛びかかってきた。
「いやーーーーー!!!!」
二人の奇妙な鬼ごっこが、始まった。
*
「――ほひ〜!!」
「ぎゃっ!!」
しばらく続いた鬼ごっこについに打たれた終止符は最悪の展開となった。コルネオが発狂したと同時、シンバは衝撃と共にベッドにうつ伏せで倒れて…否。倒された。いや、押し倒された。
「つ〜かま〜えた!!」
コルネオの楽しそうな声が後ろで響く。こっちは全然楽しくない。寧ろ死にたい。
「ちょ、まっ…――!!」
バン――ッ!!
シンバが死を覚悟したその時。この部屋のドアが、大きな音を立てて開いた。
「「!!」」
コルネオとその下敷きになっているシンバが同時に扉に目を向けると、そこには服装も装備も整っている救世主達の姿。シンバの目に映る三人は神様のようにこの部屋よりもキラキラと光って見える。なんとも嬉しすぎる光だ。
そうしてコルネオの下にシンバというこの卑猥な状況を見たクラウドの顔が一変し、どす黒いオーラが辺りに広がっていく。いささか顔が―いや、とてつもなく怖い。
「シンバ!!!」
「シンバ大丈夫!?」
大丈夫なわけがなかろう。シンバはフルフルと必死に首を横にふった。…つうか何でみんな着替えているんだ、着替える暇があったらもっと早く助けにこられただろうにコノヤロウ。シンバはクラウド達に送っていた神々しい視線を恨めしいものへと切り替えた。
「ほひ〜!…男!!…お前たち、美人局だな!?」
コルネオが飛び降りた瞬間、シンバはクラウド達の元へかけ出していた。
「シンバ!!」
「うえ〜〜〜んティファぁ!!!」
大きなトラウマができたシンバはついに泣き出してしまい、それをよしよしとエアリスとティファがなだめる。
「だれか!誰か!!」
「…お生憎様。あなたの子分は誰もこられないみたいよ」
「な!?な、何がどうなってるの!?」
「悪いけど質問するのは私たちの方よ!…手下に何を探らせていたの?言いなさい!言わないと――」
「…切り落とすぞ」
…きっと今のクラウドならやりかねない。
「や、やめてくれ!ちゃんと話す!何でも話す!!」
クラウドの尋常じゃない殺気に身の危険を感じたのか、コルネオはベッドの上に正座しだした。
「…片腕が銃の男の塒を探させたんだ!そういう依頼があったんだ!!」
「誰から?」
「ほひ〜!喋ったら殺される!!」
「言いなさい!!言わないと――」
「…ねじり切っちゃうわよ」
…あぁ、クラウドより怖い。エアリスは実は腹黒キャラなのではないかとシンバは思った。
「ほ、ほひ〜!…神羅のハイデッカーだ!治安維持部門総括ハイデッカーだ!!」
「治安維持部門総括…!?」
「神羅ですって!?神羅の目的は何!?…言いなさい!言わないと――すりつぶすわよ」
「……」
…この三パターンを生で見られるとは。シンバはいささか感動していたが、それを隠すのに必死だった。きっと今の自分の心情を三人が知ったら、それこそ自分が殺されるに違いないと。
「……ふっ、」
すると、今まで怖気づいていたコルネオの表情が一変した。デレデレしていた顔はどこへやら。コイツこんな真剣な顔も出来るなんて聞いてない。
「ほひ…」
あ、ほひは言うのね。
「姉ちゃん達本気だな。…えらいえらい。俺もふざけている場合じゃねえな」
ベッドの上に立ち上がるコルネオ。声色もさっきとは打って変わっていて、そのギャップ感半端ない。…しかしコルネオのギャップ感は全然好感は持てないのだが。
「神羅はアバランチとかいうちっこい裏組織を潰すつもりだ。…アジトもろともな」
「「!?」」
全員の驚いた表情を見て気を良くしたのか、コルネオは声を張り上げる。
「文字通り、潰しちまうんだよ!プレートを支える柱を壊してよ!!」
「…柱を、壊す!?」
「どうなるかわかるだろ!?プレートがヒューッ、ドガガガガ!!だ!!!」
楽しそうに、コルネオは笑った。
ブワリ、と背筋を何かが背筋を這い、全身が鳥肌に変わる。確かにコイツがこのセリフを吐く事はわかっていたが、けれど実際に聞く声があまりにも楽しそうで。自分が今見ているのはゲームの外の景色ではないのだと実感した。今目の前で行われる事全てが現実―リアルだということを。
「…っ、」
そうしてようやく痛感する。神羅がこれからしようとしている事は、現実世界でも起こっている非道で悪質なテロと――同じことなのだと。
「アバランチのアジトは七番街スラムだってな!六番街スラムじゃなくて俺はホッとしてるぜ!」
「七番街スラムが、なくなる…!?」
「っふざけんな!!」
叫ぶと同時。シンバはあんなに近づくことを嫌がっていたにも関わらず、コルネオの胸ぐらを掴んでいた。
「七番街にどんなけの人が住んでると思てんねん!!何でこんな時にアンタ笑ってられるん!?人の命なんやと思てんねん!!」
突然のシンバの行動に皆が驚き、一番怒りを露わにしていたはずのクラウドが冷静にシンバを引き剥がす。
「七番街へ、早く…!!」
「ちょっと待った!」
慌てて部屋を出ようとしているのを、何故かコルネオが制す。
「黙れ貴様…!」
「すぐ終わるから聞いてくれ!俺たち悪党がこうやってベラベラ本当の事を喋るのはどんな時だと思う?」
…どんな時だったけ。というよりまた何か大事な、肝心な事を忘れていないか自分。シンバは自身の曖昧な記憶を精一杯手繰り寄せて行った。
「1、死を覚悟した時。2、勝利を確信している時。3、何がなんだかわからない時――」
「知るか!ふざけるな!!」
「…つまらん男だ。頭を冷やしてくるが良い」
コルネオが手を伸ばした方向。それに目を向けてようやくシンバの頭の中に一つの場面が思い出されたのだが、時はやはり既に遅く。
「っみんな逃げ――!?」
「「っ!?」」
足元が急に暗くなったと思った次の瞬間。シンバ達はコルネオの部屋から姿を消した。
「…――!!」
…自分の大バカ者。シンバは自分の愚かさを恨みながら、真っ逆さまに落ちて行った。