15 please don't break them...




「――…」


…あぁ、また落ちた。この世界は落ちる事が醍醐味なのか。…と考える余裕があるということは、自分は無事なのだと意識を持ってから自覚する。
目を開けて最初に飛び込んで来た金色、そしてそれが自分のよく知っている人物だと気づくのに時間はかからなかった。


「大丈夫か?」


自分はクラウドの腕の中にすっぽり収まっているようだった。また自分を庇ってくれたらしいのだが、自分の顔を覗き込んでいる彼とバッチリ目があったシンバは恥ずかしくなって勢いよく起き上がった。


「っだ!大丈夫!!」


そんな慌てふためくシンバを見てニヤリと笑う人物が一人。シンバはそれに気づかないふりをして、クラウドから距離をとった。…というより何で自分を助けたんだ。美女が二人もいる中でなんで自分なんだとクラウドを疑うような目で見つめたが、自分の格好を見ていささか納得せざるを得なくなった。


「もうサイテーね!」

「…つうか何でみんな着替えてんねん!?」


薄暗いこの地下でなんて場違いな格好だろう。一体なんのコスプレだ。今となってはこの格好がものすごく恥ずかしい。


「だって…ねえ?」

「ひどない!?嫌やウチだけこんな格好!!」

「まーまーシンバ!!」

「生きてただけ良かったと思わなくちゃ!最悪の事態からは逃れ――」



ドドドドドドド――!!


「――…でもないみたい」


なんの地響きかと構えるも、すぐさま聞こえたモンスターの咆哮。それはダクトから勢いよく飛び出してきた。
現れたモンスター、その名をアプス。巨大なその姿に驚かされたものの、もっと驚かされたのはその放つ匂い。奴が現れた途端全員が鼻をつまんだ。
それには首輪がついており、千切れた鎖をじゃらじゃらと引きずり回っている。…こんなデカくて臭いモンスターを飼うなんてどこのどいつだ。下水まみれではないか。最悪の環境で育てられて可哀想に。って、そんな事今はどうでもいい。


「早く倒して消臭しましょ!!」


ドレスでは戦闘しにくいだろうとシンバは戦力外とされ、クラウド達三人が戦闘に出た。
シンバは、鼻をつまみながらそれを見守った。



 *



そうして、その戦闘はものの十数分で終わった。
難無くアプスを撃破した三人へ駆け寄る。


「お疲れ!」←鼻声

「シンバ、もう臭くないわよ」


しかし、戦闘に勝利したというのに何だか空気が重い。
…原因は、コルネオの言葉だ。

――七番街プレート爆破

ミッドガルの構造は特殊だ。簡単に言えば二階建ての構造、一階と二階の間が巨大なプレートで出来ている。そのプレートを壊すとどうなるかなんて、一目瞭然。全てが一階―地上へ落とされる。スラム街は押しつぶされてしまうし、その上の住人だって生きてはいられないだろう。…考えただけでぞっとする光景だ。


「もうダメだわ…マリン、バレット、スラムの人たち…」

「っ諦めない諦めない!柱壊すなんてそんな簡単じゃないでしょ?」

「そやでティファ!絶対止めてみせる!…治安維持部門てな、タークスが所属してんねん。きっとタークスがこの仕事引き受けてるハズ」


シンバは自身の拳を握りしめた。


「…そんな事、絶対させへん。絶対止めてみせる…!」

「そうね、そうよね…。まだ時間はあるよね!!」


――お願い、レノ


ささやかな希望。自分の頼みなら、レノが聞いてくれるんじゃないかと思った。甘い考えかもしれないけれど、目の前でレノが非道な事をするのを見たくない。それにたくさんの命が消えるのを目の当たりになんて出来ない。わかっていてそれを放っておくなんて事も、絶対に。
何としてでも、例えこの世界のシナリオが変わってしまったとしても、この事態は避けなければならない。


「七番街へ、早く――!!」


4人は急いでその場を後にした。



 *



地下水路を潜り抜け地上に出、薄暗い列車墓場を後にすると、七番街スラムの巨大な柱が見え始めた。まだ柱は堂々とその居れ立ちを見せつけており、少なからず安堵する。
しかし、柱に近づくにつれ比例するように大きくなる騒音がそこにはあった。それが銃声や人の叫び声だと気づくのに時間はかからなかった。…もう既に攻防は始まっているのだ。


「急がな…!」

「っシンバ!!」


シンバは一人走り出していた。ドレス姿でも関係ない、全速力で走った。
頭の中にはもう、最悪の―シナリオ通りの結末しか浮かんでいない。それを知っている自分が何かを変えなければ。そう、彼を―レノを説得出来るとしたら自分だけだ。何としてでも止めてみせると心に刻みながら、無我夢中で銃声の方へ向かう。

そうして辿り着いた大きな支柱。その階段を登り始めた、


ドンッ――


その時だった。


「キャア!!」


下からエアリスとティファの叫び声が聞こえた。何事かと覗き見ると、そこには倒れている男性が一人。――ウェッジ、だった。


「ウェッジ…!!」


上から突き落とされたのであろう、ウェッジの周りを囲むように広がって行く赤いそれが鮮明にシンバの目に焼き付いていく。
身体がゾクリと身震いをするのを感じた。


「……アカン、こんなん…」


――レノ、お願い…


シンバは唇を噛み締めながら、階段を駆け上がった。



「――ウェッジ!!」


シンバの後を追おうとしていたクラウド達の目の前に落ちてきた巨体。それがかつてミッションを共にした仲間であることにクラウドが気付くのに時間はかからなかった。


「クラウドさん…俺の名前覚えてくれたっすね…」


力ないウェッジの声に、クラウドがもう喋るなと制す。


「バレットさんが、上で戦ってるっす…手を貸してやって……。クラウドさん、迷惑かけてすいませんっす…」


…そして、ウェッジはゆっくりとその目を閉じた。


「っ…上るぞ!!」


クラウドの中に芽生えた、怒り。仲間なんてどうでもいいなんて思っていたあの頃の自分はもうそこにはいない。
クラウドはすぐさまシンバの後を追う。


「エアリス、お願いがあるの。この近くに私たちの店セブンスヘブンがあるの。そこにマリンっていう小さい女の子がいるから… 」

「わかった。安全な場所へ、ね――!!」


そうしてそこでエアリスとシンバたちは離れた。それはたった数分で、ほんの少しの間の出来事の…筈だった。



 *



必死で階段を駆け上がる。遠くで見る分にはそう感じられないのに、近くで見ればこんなにも巨大で天井が果てしなく遠い。その間にも目の前で倒れて行く人たちや、鳴り止まない銃声。気が狂いそうだ。
だが、その足を止めてはいけない。そう言い聞かせて、懸命に震える足を動かしていた。


「!」


そうして幾つか階段を駆け上がったところで、今度はぐったりと倒れている女性を発見した。女の人までもがこんな騒動に巻き込まれている事に衝撃を受けたシンバだったが、…それ以上にショックを受けたのは、それが自分の知った人物であるということ。


「ッ…ジェシー!!」


ジェシーに駆け寄りその身体を抱き起こす。すると、彼女は薄っすらと目を開けてくれた。


「…シンバ?どうしたの、その綺麗な格好…?」


素敵よ。とジェシーは荒い息を立てながら言う。


「何言ってんねんこんな時に…!しっかりしてや…!!」


大粒の涙が頬を流れていく。ジェシーは重たそうに片腕をあげて、ゆっくりとその涙を拭き取ってくれた。


「…泣かないで」

「ッ、ジェシー!死なんとって…!!」

「早く、バレットのところへ…」


ジェシーはニッコリ笑って、早く行けと言わんばかりに、力ない腕で自分を押しのけようとしてくる。最後までアバランチとして戦おうとしているのだ。


「うっ…」


涙を拭い、ジェシーをその場に寝かせ、シンバは立ち上がりまた走り出した。
泣いていてはいけないとわかっていても、止まらない涙。…これが、戦争。これが、戦うということなんだと、思い知らされた気がした。



「――っ!!」


そうして頂上に着き一人敵に立ち向かっているバレットの姿を捉えたと同時。そこへ駆け寄ろうとする自分に気付いたバレットはしかし、違った意味での驚きを見せる。


「シンバ!…ってなんだその格好はぁ!?」


…なんか前にも聞いたぞそのセリフ。と思ったが、今は何とも場違いないな格好をしているのは自分が一番良くわかっている。


「今はそんな事どうでもええ!!」

「っ、そうだな!…気をつけろ!奴らヘリで襲って来やがる!!」


チッと舌打ちをして、バレットはまた空へ向けて銃を構えた。走っている時から聞こえていたヘリの音。照らされるライトが眩し過ぎてシンバは上を向くのをやめた。今自分は武器と呼べるものは何も持っていない。どちらにしろ空中の敵はバレットに任せる事にして、シンバは柱中央のメインコンピュータへ足を向けた。レノが来る前にそれさえ何とかなればと考えたのだ。

メインコンピューターの画面はタークスのオフィスで叩いていたパソコンとそんなに変わらない代物だった。焦る気持ちを抑えながら、しかし素早くキーを叩く。目に見えるほどその手が震えている。シンバには今、自分の煩い心臓の音しか聞こえていなかった。

――背後に近づく、人物の足音さえ



「――…お前なにしてるんだ、と」


ポン。と少し乱暴に肩に置かれた手。振り返って目が合ったその人物にシンバも驚いたが、…それ以上にその相手は驚いているようだった。

見てはいけないものを見てしまったかのように大きく目を開き、動くという動作を止めてしまっている赤を持つ男。今だ肩に置かれているその手がかすかに震えるのを、少なからず感じた気がした。


「っレノ、」


近づくまでレノはそれに全く気づいていなかった。だって、そうだろう。最後に見た彼女は自分と同じスーツを身にまとっていて、髪型だってストレートで。戦場だというのに煌びやかなミニドレスを着、髪をくるりんと巻いた馬鹿げた女がそれと同じだなんて一体誰が思うことができようか。


「シンバ…!!」


何故、ここにシンバがいる。何故そんな場違いな格好をしている。何故このメインコンピュータを操作している。聞きたい事が波のようにレノの頭に押し寄せては消えていく。
久しぶりに見たシンバの顔はドレスのせいもあってかどこか色っぽく…しかしその表情は涙に濡れ、目は赤く充血していて、


「…シンバ、お前――!?」


シンバはそんなレノの表情を諸共せず、彼の胸ぐらをきゅっと掴み見上げるようにその顔を覗き込んだ。


「レノ…お願い!こんなん、やめて…!!」


レノは一瞬目を見開いたが、バツが悪くなったのか視線を逸らす。


「この柱壊したら、どうなるかレノもわかってるやろ!?たくさんの人が死んでしまう…!!ウチは、レノにこんな事して欲しくない…!!」


お願いだから。そう言うシンバの目からまた、涙が溢れ出た。
嗚咽が止まらない。涙で前が見えない。彼の胸倉をつかんだまま、懇願するように頭を下げる。


「……シンバ、」


胸倉を掴んでいた手を、そっと、レノに取られた。


「…?」


そうして見上げたレノの顔は悲しげだった。レノだって本当は苦しいんだと。ただ命令に従っているだけで、本当はこんな事したくないんだと。…そう、思った。


「っ、」


…その目の奥に、本当のレノの姿を見るまでは。


「れ、」

「シンバ、」


グイッと身体を引かれ、シンバはレノに抱きしめられる形となって、


「ごめんな」


耳元でレノの低い声がそう言葉を紡ぎ、ゾクリと身体の震えを感じた次の瞬間。
…シンバは、意識を失った。



「――シンバ!!」


バレットがシンバを振り返った時には既に彼女の意識はそこには無く、だらりと支えを失ったそれはレノに抱きかかえられていた。
そうしてバレットが駆け寄ろうとしたちょうどその時、その場にようやくクラウドとティファの姿が現れたが、それに気づいたレノはすかさずメインコンピュータのあるスイッチを押す。


「…作業完了、と」

「「!!!」」


ビーービーーー――


メインコンピュータが危険を知らせるように、警報音を鳴り響かせ始める。――遅かった。間に合わなかったのだ。


「解除しなくちゃ…!!クラウド!バレット!お願い!!」

「…そういうわけにはいかないぞ、と」


焦るティファと意味深な笑みを浮かべるレノ。そして、クラウドはレノの背後のそれに気づいた。…あの華々しい紫色のドレスは、嫌でも覚えている。


「っシンバ!!」

「おっと、」


駆け寄ろうとしたクラウドの目の前、レノは持っていたロッドを突き出す。


「…タークスのレノ様の邪魔は誰にもさせないぞ、と」

「貴様…!!」


クラウドがバスターソードを構え、二人の間に閃光と共に金属音が大きく響いた。



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