16 he is Turks. But ...



――レノ


最後に見たレノの顔が、頭から離れない。悲しげだったあの表情。その裏にあった、本当の顔。
…あれが、タークス。

シンバはショックが隠せなかった。自分の考えの甘さを、思い知らされた気がした。ここはゲームの世界だが、そうではない。今は目の前で起こる全てが自分の現実。目の前に映るそれが、全てなのだと。



 *



「――…」


ゆっくりと、目を開ける。そこにはいつか見た景色と同じ真っ白な天井が広がっていて、ハッとして勢いよく身体を起こして刹那、腹部に痛みが走った。反射的に手を添える。ゆっくりと視線を落とせば、自分はまだあの時と同じ紫色のドレスを着たままだった。


「……、」


そうして今の状況を知るべく辺りを見回すと、そこは前に見た研究室ではなく、ドラゴンとの死闘を終えた時に寝ていた部屋だと気づく。

どれくらい意識を失っていたのだろう。あの後どうなったのだろうか。エアリスは捕まってしまっているのか。皆は無事だろうか。…シナリオ通りなら全く心配する必要は無いのだが、今となってはそう考える事ができなかった。


「…、」


痛感した、この世界の事。戦争なんて自分に無縁だと思っていた。
しかし、あの柱での出来事はシンバにかなりの衝撃を与えた事は間違いなくて、


「――…起きたか」


そんな思考を遮るかのようにかかった声。その方へ目を向けると、ツォンがまっすぐ自分を見つめながらドアの前に立っていた。彼を見るのはいつ振りだろうかと振り返るより先に今までの自分の不祥事が思われて、それを思えばなんだかいたたまれなくなってシンバは視線を逸らした。


「あの場にお前がいたと聞いた時は耳を疑った。…加えてアバランチに仲間入りしていたとも。それにその格好は何だ…」


ツォンがため息を吐く。今まで聞いたことが無いくらいに、大きく。
怒られるんだと、そう思ったのだが。


「…まったくお前は、どれだけ私たちを驚かせたら気が済むのだ」


予想外の言葉に驚いてツォンを見やる。薄っすら笑みを浮かべたが、彼はすぐにその表情を暗く落とした。


「……シンバ、すまなかった」

「?」

「宝条の事だ…――」


シンバの頭の中にその時の事がフラッシュバックする。実験の事。裏切られた事。バハムートの事。


「まさかアイツがシンバに目を付けるなど思いもしていなかった。…油断していた」


まさかその話が主になるとは思っていなくて、シンバは一瞬黙り込んだ。
確かに、その話はレノから聞いている(というか聞こえただけだが)。宝条の悪態がばれたのは良かったし、結果タークスは自分を売っていなかったことが分かっただけで良かったとも思っている。
…だが、そうなれば、懸念すべき事案は一つに絞られる。自分の、正体についてだ。
アイツが何をし自分の何を調べてあげてたのかも全て公になったのではないか。もう既に自分の正体を、全員が知ってしまったのではないかと。


「あの、…聞いたんですよね?」

「…何をだ?」

「とぼけないで下さい」

「…何の話だ?」


…おかしい。話がかみ合わない。あの実験で自分が他世界から来た事が証明された。その事実はツォン達にとっても衝撃的事実だったはずだ。会話の最初にそれが出て来てもおかしくはないのに、しかしツォンの表情は何も隠してはいなさげだった。
何故、知られていないのか。実験結果は証拠として取り上げられていないのだろうか。宝条は何故他言しなかったのか。何か企んでいるのか、ただの気まぐれか。やはりあの男はよくわからない。…いや、わかりたくもないのだが。


「や、聞いてないならいいです…」

「…おかしなやつだ」


シンバはそれ以上続けなかった。今はそんな事よりなんか気まずい。自分はすっかりタークスを辞めた気でいたのだが、こうやって連れ戻されたという事はそういうことでもないらしい。…もめるのはゴメンだ。出来れば避けて通りたい。平和主義センサーがシンバの中で活動し始めた瞬間だった。


「シンバ」

「…はい」

「今はゆっくり休め」

「……はい」


そうとしか返事が出来なかった。ああ、また自分は振り出しに戻ってしまったと心底思った。


「では、私は仕事に戻る」


そうしてツォンが部屋を後にすると同時、いかついスキンヘッドの男が入ってきた。…何で一人一人入ってくるんだという疑問は、あえて隅において置く事にする。


「…ルード」


名を呼べば、ルードは返事の代わりに掛けているサングラスをクイッとあげる。


「…大丈夫か――?」


そうして、ルードから詳しく事情を聞いた。

シンバ―いやバハムートのせいで67階が壊滅状態になったとルード達が知ったのは、まだジュノンにいる時だった事。それを引き起こした人物がシンバだという事を聞いてレノが一番にミッドガルに向かった事。事情聴取で研究員達がシンバを実験台にしていた事を認め、宝条の悪事が明らかになった事。その後でシンバがアバランチに拉致られて、仕方なく仲間入りしていたという事。


「……」


シンバは最後に否定を加えなかった。加えたら加えたでまたややこしい事になるだろうから。しかし自らアバランチに戻れば、裏切り者とされ殺されてしまうかもしれない。…どちらにしろ状況は最悪なようだ。シンバは大袈裟に一つ溜息をついた。


「レノが負傷した。…"奴ら"にやられたんだ」

「…大丈夫なん?」

「命に別条はない。しかし、暫くは動けないだろうな」

「そか…」

「…また後で見舞ってやってくれ」


そう言って、ルードは部屋を出て行った。


「……、」


誰もいなくなった部屋。キョロキョロと辺りを見回す。近くにあった椅子の上にはタークスの制服が置かれている。…着替えろと、無言のそれが言っている気がした。


「…――」


しかしシンバは、それに気がつかなかった振りをしてそのまま部屋を出た。あれはもう着てはいけない。あれを着たら、終わり。自分はもうタークスを辞めるのだ。決心たら変わらない、それがシンバのポリシー。
…こうなったらいっそ裏切り者になってしまおうか。辞めると言ってはいそうですかとそう簡単に行くわけがない。そんな事わかっている。だからいろいろと言い訳を詮索していた。自分から入ったわけではないとか。嘘だとしても一度は裏切られた立場だとか。

…考えながら、シンバはある部屋まで足を進めていた。



 *



コンコン、__


「はいよ、と」


中からの返事を確認し、ゆっくりとそのドアを開ける。
そこにいるレノは包帯ぐるぐる巻きで瀕死の状態だと勝手に想像していたが、いたって元気そうな姿に少し安堵した。


「…なんだよ、まだそんな格好してんのか?」

「……着替えるの忘れてた」

「忘れるか?フツー。…つうか何でそんな格好してんだ、と」

「…いろいろあって、」

「アン時はビックリしたぞ、と!ドレスを着た素敵な人がいると思って近づいたらお前だったんだからよ!」


一瞬お前ってわからなかったんだけどな。といいつつレノはニヤニヤしている。…変わらない。彼は何も、変わらない。


「そんな事より、…大丈夫なん?」


あからさまに話を逸らす。見るからに大丈夫だという事はわかるが、シンバは一応確認の為にそう問うた。


「おう!見ての通りだぞ、と!」

「…元気やん」

「なんだよ、残念そうだな。結構重傷なんだけどな、と」


見るか?そう言ってレノは上の服を脱ぎ始めた。


「っなんで脱ぐ――!?」


そこに現れたのは、痛々しく巻かれた包帯。


「外傷はねえけど骨結構イッちまってたな。全治二週間だとよ」

「…そんなもんなん?」


骨折ってもっとかかるもんじゃないのか。そこはさすがタークス、と言うべきなのだろうか。


「お前さっきからヒドイぞ、と…」


しょんぼりするレノに、シンバはごめんと一つ謝った。


「それよりお前…腹、大丈夫か?」

「腹?」


シンバは自分のお腹を見た。そういえば起き上がった時、確かに痛みがあったなと思い出す。


「……ああするしか無かったんだよ――」


それは、柱の上での出来事――

レノに抱き寄せられて呆気に取られていた時。その後に腹部に衝撃が走り、そして気付けば自分はベッドに横たわっていた。…意識を失ったのは、レノが自身のロッドから電気を発生させてシンバの脇腹に当てがったからだ。


「――……うん、別に大丈夫」

「……仕方、ねえだろ」


急に声色の変わったレノを見やる。いたたまれないのか自分を見ようとはせず、窓の外へ視線を投げている。


「どんな事であれ仕事に私情は持ち込まない。…それが俺のポリシーだ。与えられた仕事は確実にこなす。それがタークスだぞ、と…」


そう語るレノの横顔をシンバは見つめた。


――わかってる

…そんな事、痛いくらいにわかってる。


「あれ以上お前の言葉…聞いてられなかったんだよ。……自分が揺らぎそうでよ、」

「……ごめん」


もし、あそこでレノが留まっていたら。
…きっと今ここに、レノはいない。


――ここは、そんな世界


「最初は誰だってそうさ…俺も最初はそうだった。お前みたいに必死でよ…。けどよ、俺はもう――」


いろんな事に慣れすぎた。その言葉が、シンバの心に深く突き刺さった。


「…そのうちシンバにもわかるぞ、と」


レノが振り返る。目が合う。その言葉の意味もわかってシンバは、返事をする代わりにニッコリ微笑んだ。


「…早う良くなってな。ちょうどええやん、いい休暇やで」

「まぁそう考えとくぞ、と」

「…ほな、ウチ着替えてくるわ」


心の中を読まれないうちに、シンバはレノの元を後にした。


――ごめんな、レノ


そう、心の中で呟きながら。





 ***





「――マリン!マリン!!マリーーーーン!!」


最愛の者の名を呼ぶ声が、跡形もなく崩れ去った七番街跡に響き渡る。


「ビッグス!ウェッジ!!ジェシー!!こんちくしょう!こんちくしょうーー!!!」


自分の不甲斐なさ。仲間と娘を失った思い。神羅への強い憤りをぶち撒けるバレット。


「…――」


クラウドの脳裏に浮かぶ、あの時の出来事――



レノに致命傷を与えたものの、丁度現れたヘリによってその戦いは強制的に終わらされてしまった。
意識を失ったままのシンバを抱え、レノがヘリに乗り込む。それと入れ替わる様に出てきたツォンは、ティファがメインコンピュータを止めようと必死なのを嘲笑っていた。


「諦めるんだな。それを操作するのは難しい」

「お願い!止めて!!」

「緊急用プレート解除システムの設定と解除は、神羅役員会の決定なしにはできないのだ」

「ゴチャゴチャうるせえ!!」


バレットはその怒りをツォンに向けて発砲する。


「…そんな事をされると大切なゲストが怪我をするじゃないか」


そう言ってツォンに引っ張り出される様に出てきたのは、――エアリス。
何故エアリスがあんなところに。マリンを託して別れた筈のエアリスが、どうしてタークスの元に。ティファは、その状況が上手く飲み込めずにいた。


「っエアリス!?」

「知り合いなのか?最後に会えてよかったな。私に感謝してくれ。…それと、」


ツォンは一度ヘリの中を振り返る。


「…タークスを人質にとっていたとはな。悪いがシンバは返してもらう」

「シンバはアンタ達のところへは帰らない…!」

「ふっ、何とでも言うがいい」

「…エアリスは、エアリスはどうする気だ!!」

「我々タークスに与えられた使命は"古代種"の生き残りを捕まえろ、という事だけだ」

「"古代種"…!?」

「…ティファ!大丈夫だから!あの子大丈夫だから!!」


咄嗟に叫んだエアリスを、ツォンはヘリの中へ押し込んだ。


「エアリス!!!」

「…そろそろ始まるぞ。逃げ切れるかな――?」



「――…」


気づけばクラウドは、その足を進めていた。

クラウドが何を考えているのかティファは悟り、マリンはエアリスに託していた事を暴れまわって少し落ち着いてきたバレットに話した。
しかし、もうあの三人はいない。七番街の人達のたくさんの命も奪われてしまった。
…本当に、本当に悪いのは神羅だけなのだろうか。自分達がアバランチとしていたから、関係ない人達まで巻き込んでしまったのだろうか。


「……」


けれども、ティファにその答えは出せなかった。



「――クラウド!!」


バレットの大きな声に、クラウドは進めていた足をピタリと止める。


「マリンのところへ連れてってくれ!」

「…エアリスとシンバを助けに行くのね?」

「あぁ。…でも、その前に確かめたい事があるんだ」

「何?」

「…"古代種"」


あの時ツォンの口から出た、その言葉。


「セフィ、ロス…――?」


クラウドはそれを、何処かで聞いた事があるような気がした。



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