17 dash into Shinra



クラウド達はその後、エアリスの母―エルミナに会いに来ていた。マリンを連れて彼女が避難する安全な場所。それは、エアリス自身の家しかないと思ったからだった。


「クラウド…だったね」


家に入るや否や、そこにはクラウド達がくることがわかっていたかのようにエルミナが立っていた。


「エアリスのことだろう?」

「…すまない。エアリスは神羅にさらわれてしまった」

「知ってるよ。ここから連れていかれたからね…」

「ここで!?」

「……どうしてエアリスは神羅に狙われているんだ?」

「エアリスは"古代種"の生き残りなんだとさ、」


その言い方に、三人は疑問の眼差しを向ける。


「"なんだとさ"…ってあんた母親なんだろ?!」

「……本当の母親じゃないんだよ」


エルミナは遠い目をしていた。…あの時と、同じように――



エルミナがエアリスと出会ったのは15年前。その時代は丁度戦時中で、自分の夫も戦争に駆り出されていた。

そんなある日。休暇がとれたから帰ると言った夫の帰りを駅で待っていた時に、出会った親子連れ―その子供がエアリスだった。その時その母親は既に瀕死状態で、エルミナにエアリスの事を頼んで息を引き取ったのだそうだ。…それは戦時中には良くある光景で、エルミナは夫も子供もいない寂しさからエアリスを家に連れて帰った。

それから、エアリスとの生活が始まった。エアリスは不思議な子だった。自分とお母さんは星からやってきてお母さんは星に帰っただけだから寂しくないと言ってみたり、預言者のように自分の夫の死を知らせてきたりもした。

しかし、幾日かたったある日。神羅の遣いがやってきてエアリスを返せだのと言ってきた。何故だと問えばエアリスは"古代種"だからだと。"古代種"とは至上の幸福が約束された土地へ導いてくれるものだと教えられた。エアリスはそれを否定していたが、エルミナはもう薄々気づき始めていた。

…エアリスは、普通の子ではないと。


「――…よく何年も神羅から逃げ続けることが出来たな」

「神羅はエアリスの協力が必要だったからね。手荒な真似は出来なかったんだろう」

「じゃあ、今回はどうして…?」

「小さな女の子を連れてここに帰ってきたんだ。その途中でツォンの奴に見つかってしまったらしくてね。逃げ切れなかったんだろう、きっと」

「…マリン、だな」

「マリン!!マリンの為にエアリスは捕まったのか…!」


バレットはその場に跪いた。


「すまねえ…!マリンは俺の娘だ。すまねえ、本当に…」

「あんたが父親かい!?あんた、娘を放ったらかして何をやってるんだい――!?」


何もバレットはマリンを危険に晒すためにアバランチを結成したつもりはない。マリンを放ったらかしているつもりも毛頭なかった。けれどもエルミナの罵倒をバレットは重く受け止めていた。自分のせいでこんなことになってしまったことに、変わりはないから。


「……」


そんな中、クラウドは一人表へと出ていた。七番街の事は悔やまれるが、それをいつまでも引きずっていてはいけない。とにかく今はあの二人を助け出さなければいけない。これ以上被害を増やさない為に。…何としても、絶対に。

クラウドは、自身の拳を握りしめた。



 *



「――で?どうするんだ?」


七番街が潰れてしまった今、列車では神羅ビルのあるプレートの上へとは出られない。なんとかしてまずは、プレートの上へと出る方法を探さねばなさそうだった。
だからといってこれという案もなく、当てもなくクラウド達はとりあえずウォールマーケットへと来ている。


「――みんなこのワイヤーを登って上にいっちゃったよ。こわくないのかな…ブルブル」


一通り回ったあとでたどり着いた巨大な壁。幾人かの子供がその場にいて、上を見上げて一人の子がそう呟いていた。
不自然に一本の太いワイヤーがぶら下がっている。…おそらく七番街爆破の時に誤って落ちてきたものなのだろう。


「これ、登れるの?」

「うん。上の世界につながってるんだよ」


男の子が言う上の世界は、プレートの上の事。これを登れば地上に辿り着けるとその子は言った。


「よし! このワイヤー登ろうぜ!」

「…それは無理な話だな。何百メートルあると思ってるんだ?」

「無理じゃねえ! 見ろ!これは何に見える!?」

「何のへんてつもないワイヤーだ」

「そうか?オレには金色に輝く希望の糸に見えるぜ!」


シンバとエアリスを救うために。これは、それに繋がる唯一の道なんだとバレットは言った。


「…そうだな」


確かに、そうかもしれない。他に手段は選べそうになくて、クラウド達は意気込むように、そのワイヤーに手を伸ばした。





***





壊れた七番街プレートの残骸の上を道にして、なんとかプレートの上へ登ることが出来たクラウド一行。そうして、神羅ビルにも難なく辿り着くことが出来ていた。


「おい、このビルには詳しいんだろ?」

「……いや、そういえば本社に来るのは初めてだな」

「前にきいたことあるぜ。このビルの60階から上は特別フロアとかで社員でも簡単には入れないってな」


今なら警備も薄くなっているだろう。そう言って正面強行突破をしようとするその巨体をティファが止めた。


「そんなのムチャよ!もっと見つかりにくい方法を、」

「そんなコトやってられねえ!グズグズしてたらアイツら――」

「それはわかるけど!ここで私たちまで捕まったら…」

「…そうだな。少し落ち着けバレット」


ここで捕まってしまえば元も子もない。自分達は今人質を救出するために向かっているという自覚を忘れてはならないのだ。直感派のバレットと違い慎重派のクラウドは、ひっそりと裏口から侵入をしようと提案した。…のだが、


「――っまじかよ…!!」


…待ち受けていたのは、終わりの見えない階段地獄だった。こんな事なら強行突破で神羅兵と戦った方がマシだったかもしれないと、三人は心の底から思った。


「…なあ、今何階だ?」

「…もう数える気にもならない――」


…これから起こりうるであろう戦いの前に、三人は既に心が折れそうになっていた。



「――…や、やっと…ついた…」


もしかしたらこの階段は永遠に続いているのではないかと疑うほどの長い道のりだった。目の前に現れたその薄暗い非常扉が、皆には輝いた天国への扉に見えたに違いない。


「階段なんてもう見るのもゴメンだ…」

「ハァ…ハァ…さすがにこれはこたえたわね――」


心の中に、階段というトラウマが芽生えた瞬間だった。



そうして彼らは一息ついてから、神羅ビルへと侵入した。思っていた通り警備は手薄で、難なく66階まで足を進める事が出来ていた。
…しかし、それ以上はバレットの言っていた通り限られた人間しか行けないようになっていて、


「片っ端から探すしかねえな」


そうしてカードキーを探す為に社員に話しかけていると、ある社員が会議をしている声がトイレに筒抜けといういらない情報を教えてくれた。
どうする事も出来ない事には変わりなかったが、クラウド達はとりあえずトイレの通気口へ入って会議を盗み聞く事にした。

狭い通気口を進んでいくと、光が漏れている箇所が一つ。その下を覗けば、神羅のそうそうたる顔ぶれが会議をしている真っ最中だった。


「あれは…――」


プレシデント神羅。ぽっちゃり体型茶色いスーツの「うひょひょ」の男、パルマー。赤いドレスが眩しい金髪の「キャハハ」の女、スカーレット。ガッツリ体型緑の軍服の「ガハハ」の男、ハイデッカー。そして一人まともに見えるスーツを着た男性、リーブ――



「――七番街の被害報告が出ました」


話はあの事件のことから始まった。跡形もなく潰れてしまった七番街の再建をリーブが訴えると、プレシデント神羅はあっけらかんとそれを拒んだ。この男は市民の事などこれっぽっちも考えていない。大事なのは自分…いや、その権力。地位と金だからだ。


「そのかわり"ネオ・ミッドガル"計画を進める」

「…では"古代種"が…?」

「約束の地はまもなく我々のものになるだろう。…それから各地の魔晄料金を15%値上げしたまえ」

「値上げ値上げ!うひょひょひょひょ!ぜひ我が宇宙開発部にも予算を!」

「プレジデント。これ以上の魔晄料金の値上げは住民の不満をまねき――」

「大丈夫だ。おろかな住民たちは不満をどころかますます神羅カンパニーに信頼をよせることになる」

「ガハハハハ!テロリストどもから七番街の市民を救ったのは神羅カンパニーですからな――!!」



「――汚ねぇ…」


最悪な展開となってしまった。アバランチの悪事をより濃くして、神羅はよりいっそう市民の味方になる。自分達が市民の為にと思って始めたのにもかかわらず、全てが裏目にでてしまっている気がした。


「――おお、宝条君。"あの娘"はどうだね?」


そこに突如現れた白衣の男性。


「…あれが、宝条?」

「アイツがシンバを――」


クラウドはまっすぐその男を見た。楽しそうに語る宝条に、怒りが込み上げてくるのをクラウドは感じた。


「サンプルとしては母親に劣る。母親イファルナと比較中だが初期段階で相違が18%」

「その検査にはどれくらいかかる?」

「ざっと120年。我々が生きてるあいだは無理だろう…もちろんあのサンプルもな。だから古代種を繁殖させようと思うのだ。しかも、長命で実験に耐えうる強さを持たせることができる」

「…約束はどうなる?計画に支障はでないのか?」

「そのつもりだ。母は強く……そして弱みを持つ――」


不敵な笑みを浮かべ、その場を去る宝条。


「……今のはエアリスの話だよな?」

「わかんねえ」

「今度はエアリスが実験されてるっていうの?!」

「…後をつけよう」


クラウド達は通気口を抜け、宝条の後を追った。



 *



67階――
それは先ほどの階とは作りが全く異なっており、まさに実験するための階といったところだろうか。入ると同時にたちこめる薬品の匂いが、クラウド達を刺激する。

ふと通った一部の部屋には立ち入り禁止の札がかけてあった。みるからに何かがあったであろうその部屋は、爆発事故でも起こったかのような痛々しい後を残していた。


「……」


宝条に気づかれないよう一定の距離を保ちつつ彼の跡をつけていると、たどり着いた奥の部屋。その中央のガラス戸の中には、オレンジの毛並みをした動物が一匹。


「…今日の実験サンプルはそいつですか?」

「そうだ。すぐ実験にとりかかる。上の階へ上げてくれ」


宝条はガラス戸越しにそのサンプルと呼ばれたものを愛おしそうに見つめ、自身も上へとあがっていく。
それを確認しクラウド達は、宝条達がいた場所にいったん駆け寄る。


「生体実験に使われるのかな?――クラウド?」


クラウドに向き直ったティファが目にしたのは、何かに引き付けられるようにある機械に近づいていく彼の姿。
クラウドの目に止まった―いや、それにクラウドは呼ばれた気がした。ドクドクと高鳴る自分の鼓動。…何故か、胸騒ぎがして。


「ジェノバ…――!」


そう呟くと同時。クラウドは頭を抱え、その場に倒れこんでしまった。


「クラウドしっかりして!!」


慌ててかけよるティファ。


「…見たか?」

「何を?」

「動いている。生きてる…?」


クラウドの言葉を不審に思い、バレットがそれを覗き込む。
そこにあったのは、首のない人の形をしたもの。皮膚の色は人とはかけ離れたものだが、形容からして女性だろうか。


「何だこりゃ!?…けっ馬鹿馬鹿しい!さっさと行こうぜ!」


しかし、バレットはそれを気に咎める事もなく宝条の後を追っていく。クラウドは立ち上がり、振り返りながらもその歩みを進める。


「…――」


それも、自分は"ナニカ"知っている気がした。



 *



宝条の後を追って上がった次の階。エレベーターの扉が開いてすぐに目に飛び込んで来たのは、ガラスで囲まれた部屋の真ん中に佇むエアリスの姿。…そしてすぐ横のモニターを食い入るように見つめる男。


「エアリス!」

「――エアリス?…あぁ、この子の名前だったな。何か用か?」


宝条は振り返らずにそう返す。


「…エアリスを返してもらう」


宝条の肩がピクッと揺れた。そしてようやく、彼はクラウド達を振り返った。


「…部外者だな」

「最初に気づけよ」

「…世の中にはどうでもいい事が多いのでな」


クラウドがバスターソードを向ける。しかし宝条はそれに一切動じなかった。
自分を殺せばここの精密機械は誰が動かすのだと、理系ならではの理の通った考えに何も言い返せなかったクラウドは、仕方なくバスターソードを下ろしていた。コイツには聞きたい事が山ほどあるというのに、宝条の独特の雰囲気がクラウドにそれをさせない。


「…サンプルを投入しろ」


宝条のその言葉の後でエアリスのいる空間に先ほどのサンプルが現れた。オレンジ色の毛並みをしたそれはどっからどうみても肉食で、どう見てもエアリスはそれに敵いそうになくて。
案の定驚いたエアリスが逃げようと後ずさるも、ガラスの壁がそれを許さない。


「クラウド!助けて!!」

「何をする気だ!!」

「滅びゆく種族に愛の手を…。どちらも絶滅間近だ、私が手を貸さないとこの種の生物は滅んでしまうからな」


この男は何を言っているのだろう。信じられないという顔で三人は宝条に目を向ける。どういう考え方をすればそういう結果にたどり着くのであろうか。シンバが言っていた通の男だ。非道極まりないやつである。


「…エアリスは人間なのよ!」

「許せねえ…!!」


バレットがガラスに向けて銃を構えた。


「やめろ――!!」


宝条の静止も虚しく、バレットは銃の引き金を引いた。



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