…誰?
――メヲサマセ
……誰?
――オマエハ
ワタシノ…――
*
「――…」
シンバはゆっくりとその視界を開けた。
レノの病室を後にしてしかし何処にも行く当てなどなくて、結局自身がいた病室に戻ってきていたシンバはその体をまたベッドに沈めていた。…そうして何時の間にか眠ってしまっていたらしい。辺りは一面、真っ暗だった。
「…?」
誰かに呼ばれた気がして目を開けたのに、そこには誰もいない。…夢だったのかもしれないと言い聞かせゆっくりと体を起こす。辺りは物音なに一つせず、静寂だけが広がっていた。それが妙に静かすぎて、シンバは少し身構える。
――セフィロス
脳裏に浮かぶ、その5文字。事はもう動き出していると思った。…きっと彼はもうここに、神羅ビルにいるのかもしれないと。
「…っ」
シンバは、そっと部屋を後にした。
***
一方その頃――
クラウド達はエアリスを助け出した後、エアリス同様実験台にされていたオレンジ色の獣(レッド)がシンバの知り合いである事を聞き、一緒に彼女を探し出そうとビル内を駆け回ろうとした矢先で、タークスのルードに捕まってしまっていた。
エアリスとはまた離れ離れにされてしまい、クラウド達が連れてこられたのは社長室。
エアリス―"古代種"が約束の地を与えてくれると信じている彼らの目的は、その豊かな土地にあるであろう豊富な魔胱エネルギー。それを全て神羅のものにするという勝手な構想。金と力さえあれば夢は叶うという愚かな考えをプレシデントからたっぷりと聞かされた後、独房に放り込まれ今に至る。
「――…クラウド、そこにいるの?」
「エアリス!?無事か!?」
バレットとレッドがいる独房の反対側から、エアリスの声が聞こえてきた。エアリスも同じところに居るとわかって皆はとりあえず一安心する。
「…なあ、エアリス」
「なあに?」
「約束の地は、本当にあるのか…?」
「…わからない。私が知ってるのは――」
『セトラの民、星より生まれ星と語り、星を聞く』
『セトラの民、約束の地へ帰る。至上の幸福、星が与えし定めの地』
エアリスはそれ以上の言葉の意味を知らなかった。星から何かを感じた事はあるが、何を言っているのかはわからないという。
…これ以上話を進めてもきっと何もわからないし、何も解決しない。クラウド達は一旦この話はおいておく事に決めた。
そして彼らは、各々に深い眠りについていった――
*
しばらくして、何かに呼び起こされたようにクラウドは目を覚ました。ここへ来た時とは明らかに違う雰囲気を感じ、やけに静まり返った部屋を見回す。
開かないと思いつつもそのドアに手をかける。すると動くはずのないそれは、クラウドの手に従いユックリと開いた。
――ドアが開いている
クラウドが恐る恐る薄暗い廊下に出ると、奥の方に何か黒い物体があるのを見つけた。近づいていくとそれがだんだんと人の形を成していく。
「…!!」
そこに倒れていたのは自分たちを見張っていたはずの警備兵。…一体何があったのだろうか。
「――っおい!!みんな起きろ!!」
クラウドは独房に戻り皆を叩き起こし、様子がおかしい事を告げた。
「何かに襲われた…?」
「なんだか怖い…――」
見えない恐怖に辺りが包まれ始めた、その時。
タタタッ_
「!誰かくる…!」
何かが近づいてくる足音が聞こえ警戒を向ける。しかし、角を曲がって現れたその人物は皆がよく知っている人物だった。
「――うおっ!!…っここにおったんか!!」
「「シンバ!!!」」
それを見て一番に飛び出したのはレッドだった。走ってくるオレンジ色の獣に一瞬驚くシンバだったが、それがレッドだとわかると飛びついてくるそのモフモフを全力で受け止めた。
「シンバ!会いたかった!!」
「レッド!」
犬のようにはしゃぐレッドをシンバは抱きしめた。久しぶりのモフモフ感。
「あの後全然来なくなったから、すごく心配したんだ!!」
「ごめんな…実は、」
「クラウド達から聞いたよ!シンバ、大変な目にあってたんだね…」
ごめんね気づけなくて。としょんぼりし始めるレッド。そんなレッドを見つめる皆の目が点になる。
「レッドって…」
「…子供だったんだ――」
きっとクラウド達の前では設定通り大人ぶっていたに違いない。
「シンバ、お前まだそんな格好…」
「しゃーないやん!ここ、タークスの制服しか用意してくれへんのやで!ひどいよなあ」
それは着たらアカンやろ。と笑顔で言う彼女のその表情を見て、クラウドは安心したように微笑み返した。…よかった。内心シンバがこのままタークスに戻ってしまうんじゃないかと多少思っていたクラウドのモヤモヤが一つ晴れた。
「――ねえシンバ、一体何が起きているの?!」
「えっと、」
一瞬躊躇を見せるシンバ。本当の事を言ってしまいそうになったからだ。
セフィロスがいるなんて言えない。というか本当にいるかもわからないし、なんせ自分の目で確かめた訳でもないのだから、言ってしまえばいろいろややこしい事になってしまう。
「…ぶっちゃけわからん!とにかく何かおかしい事をなってるんは確か!!」
「オイラが先の様子を見てくるよ!」
そういってレッドが駆け出す。
「コイツの始末は俺に任せて、お前ら先にいけ!」
その場にはバレットとティファが残った。シンバとエアリス、クラウドはレッドの後を追った。
*
気持ち悪いくらいに静かで禍々しい雰囲気に包まれたフロアを、駆けていく。
途中、たくさんの研究員や神羅兵の死体を見た。先ほどの警備兵とは違い全員が血まみれで倒れていて、初めて見る惨殺死体にシンバは多少戸惑いを覚えたが、取り乱すなどの動揺はなかった。しかしなんともいえない悲惨で生々しい現場に、皆が息を飲み、只事ではないと緊張感を募らせる。
「レッド…?」
そうして先を走っていったレッドは、ある場所で立ち止まっていた。…レッドが見ているもの。それは、あの機械―ジェノバが入れられていたもの。けれどもそれは今、見るも無残な形で破壊されている。
「ジェノバサンプル…持ち出されてる」
それを引きずった後だろうか、床には赤黒い血のようなものが線状に引かれどこまでも続いていた。
その跡を追ってシンバ達がついた場所は、神羅のトップ―社長室だった。そこにはすでにバレットとティファの姿があったが、しかし二人はシンバ達を振り返る事なく、呆然と何かに目を向けていて、
「…っ!?」
…その視線の先にあったのは、大きな社長専用の机の上で無残にも倒れてるその持ち主の姿。大きな刀が一本その社長を串刺しにしている。…まるでそこに、墓標を建てたかのように――
「…この刀は、」
「ッセフィロスのものだ!!」
「…セフィロス――」
「この刀を使えるのはセフィロスしかいない…!!」
「…誰がやったっていいじゃねえか!神羅は終わりだ!」
その光景から目を離せないでいると、隅の方で動く何かが目に飛び込んできた。茶色いスーツがはち切れんばかりになっているそれ。…パルマーだ。
「…何してんねん、オッさん」
シンバは一目散にパルマーの元へ動いていた。
「うひょ!」
あまりにも近くで声がした事に驚いたのかパルマーは逃げるようにその場を去る。しかし逃がすまいとするようにバレットがパルマーの首根っこを掴んだ。
「ここここここここっ殺さないでくれ!!」
少し宙に浮きながらも懸命に足をドタバタして必死に逃れようとするパルマー。そんな必死なパルマーを片手だけで抑えているバレット。…なんとも滑稽な風景だが、今はそれを見て笑っているような余裕は誰にもない。
「…何があったんだ?」
「せ、セフィロスがきた!!」
「見たのか?セフィロスを見たのか!?」
「ああ見た!!この目で見た!!」
「…本当に見たんだな?」
「うひょ!こんな時に嘘なんか言わない!それに声も聞いた!うひょ!!」
「いちいちうひょうひょ言うな!うひょ!」
「…シンバ、うつってるから」
「『約束の地は渡さない』ってブツブツ言ってた!」
「…どういう事?」
「約束の地っていうのは本当にあって、セフィロスは約束の地を神羅から守る為にこんな事を…?」
「いいやつじゃねえのか?」
「約束の地を守る?いいやつ?…違う」
――違う
セフィロスは、そんな奴じゃない。
「セフィロスの目的は、そんなんじゃない――!」
ブロロロロロ――
そして、どこからともなく聞こえてきたヘリコプターの音。それにいち早く反応を示したのはバレットだった。
「ルーファウス!…しまった!アイツがいたか!!」
「?誰なの?」
「副社長ルーファウス。プレシデントの息子だ!」
皆は、ヘリポートのある屋上へ向かった。
*
外へ出ると強い風に煽られ、少し肌寒い。見える景色は高く、キラキラと光る明かりが絶景だ…なんてゆっくりと拝んでいる暇はなさそうだ。
止まっているヘリを発見しその方へ近寄れば、暗闇の中に輝く金髪に映える白の一張羅が姿を現した。その男はシンバが思っていたよりも格好良さげな男ではあったが、しかしだいぶナルシストな雰囲気がプンプン漂っている。おまけに香水の匂いもハンパない。
ルーファウスがこちらに気づく。前髪を掻き分けながら彼は振り返った。
「…お前たちはなんだ?」
「元ソルジャー・クラス1st、クラウドだ」
「アバランチだ!」
「同じく!」
「…スラムの花売り」
「…実験サンプル」
「…元、タークス?」
疑問形にしたところでルーファウスとバッチリ目が合った。まるで獲物を射るかのような目に一瞬たじろぐ。その視線は何故か熱く、シンバを熱らすのに十分だった。この眼差しでどれだけの女が落とされてきたのだろうか。コイツはかなりやり手だと思われる。
「…元、タークスだと?」
まさかそこに食いつかれるとは思っていなかった為、シンバは大きく目を見開いた。
「ふっ…聞いてないぞ。まさかアイツ、隠していたな…?」
一体何を、というか何を一人で喋っているんだろうこの男は。皆が怪訝な顔をルーファウスに向けるも、ルーファウスの視線はただ一人―シンバに向けられたまま。
「…こんなに美しい女がタークスにいたとはな」
「……はい?」
「レノの奴、後でお仕置きだな…」
話が大分逸れてしまっている。皆が呆れた顔でルーファウスを見始めた。
「…なるほど。新しく社長になった私にドレスアップして会いに来てくれたのだな?」
「…は!?」
「何を馬鹿なことを…」
クラウドが些か呆れるようにため息をつく。どういう解釈の仕方だ。ポジティブにもほどがあるだろ。コイツも頭がおかしいのか。…レノと一緒の類だが、こちらの方が大分厄介そうなのは間違いない。
「…親父が死んだらさっそく社長か!」
「そうだ。社長就任の挨拶でも聞かせてやろうか?ちょうどいいじゃないか。私の新しいパートナーもいる事だし」
「勝手にパートナーにするな」
「…誰のこと?」
「シンバ、すっかり気に入られちゃったわね…」
クラウドが速攻の否定をかました後で、エアリスが同情の眼差しをシンバに向ける。…全然嬉しくない。シンバは苦笑いをエアリスに返した。
「…親父は金の力で世界を支配しようとした。…なるほど、うまい事いっていたようだ」
「…民衆は神羅に保護されていると思っているからな」
「神羅で働き、給料をもらい、テロリストが現れれば神羅の軍隊が助けてくれる…。一見完璧だ」
ルーファウスは、ゆっくりと歩き出す。
「だが、私のやり方は違う」
そして自身の目の前で大きく手を広げた。…まるで演説を大勢の前でしているかのように――
「私は世界を恐怖で支配する。親父のやり方では金がかかりすぎるからな…恐怖はほんの少しで人の心を支配する。愚かな民衆の為に金を遣う必要はない」
ピタリとルーファウスは足を止め、皆に向き直った。
「私は親父とは違うのだ」
「……演説好きなところはそっくりね」
ポツリとティファがつぶやいたが、ルーファウスはそれを、無視。
「…シンバとエアリスを連れてビルから出てくれ」
「…何?」
「説明は後だバレット。…本当の星の危機だ」
「な、なんだそりゃ…?」
「後で話す!今は俺を信じてくれ!!…俺はコイツを倒してから行く」
ただならぬクラウドの声にバレットも事の大きさを察し、行くぞというバレットの後をみながついて行こうとしたその時。
「シンバ。…といったか?」
ルーファウスが口を開いた。
「!」
名前を呼ばれ、ビクリと音がするくらいに肩を揺らし恐る恐る振り返る。別に振り返る必要なんてないのだが、怖いもの見たさとはこのことか。
そうして見たのは、ルーファウスの熱い眼差し。…シンバはこの時、ルーファウスをもう二度と会いたくない人物TOP3にランクインさせる事に決めた。
「お前はこちら側の人間だろう?」
「…シンバはもう神羅の人間じゃない」
そんなルーファウスの視線を遮るように、クラウドはバスターソードを向けた。それによってシンバの姿が消された事に不機嫌になったルーファウスは、その元凶に目を向ける。
「…何故私と戦うのだ?」
「お前は約束の地を求めて、セフィロスを追う」
「その通り。…ん?お前セフィロスが"古代種"だと知っているのか?」
「いろいろあってな。…とにかくお前にもセフィロスにも約束の地は渡さない」
「……それだけではないだろう?」
「?」
「あの娘が、気になるか?」
「っ――!?」
「…なるほど。友達にはなれないようだな」
ルーファウスが、クラウドに銃を突きつけた。