コンコン、
暇を持て余していた空間に、ノックの音が響いた。ノックの加減から容易に誰か想像がついた為、あえて返事はせずに待つ。
「…入るぞ」
言う前に入ってるじゃないかというツッコミはさて置いて。レノはルードに目もくれず何度読んだかわからない雑誌を適当にパラパラとめくっていた。
「なんだよ。キレイなお姉さんかと思ってガッカリしたぞ、と」
「……」
いつもの軽い冗談にルードもいつものように無言を返してくる。…けれども何故かその無言にいつも以上に重みを感じて、レノは黙ってソファに座り込むルードに目を向けた。
「…何辛気臭ぇ顔してんだよ?」
そこにはやはり、神妙な面持ちのルードがいて。
「…シンバが、――」
シンバが、いなくなった。
「っ…!?」
ルードの何の前触れもない言葉に、レノの手から雑誌がパサリと落ちた。
「……、アバランチが侵入していたのは知っているな」
一応警戒を怠るなと主任であるツォンから聞かされていたレノ。しかし、セフィロスまでもがこのビルに侵入していた事。その間に捕らえていたアバランチ集団、古代種、そして実験サンプルが脱走してしまった騒ぎ。レノは眠りに落ちていた為か、その異変には全く気づいてはいなかった。
「シンバはまた人質として連れていかれたか、……あるいは、」
「あるいは…ってお前、」
レノはルードの言葉を鼻で笑って掻き消した。そんな馬鹿な話が、そんなハズがあるわけがない。彼女はタークスだ。タークスで、自分達の仲間だ。自分の足でここを出て行こうなんて考えるハズがない。
…そんな事が、あるわけがない。
「…シンバがいた部屋に、制服は置きっぱなしだったそうだ」
「……」
「……俺もツォンさんも、ただ可能性の話を、」
「っ当たり前だろーが。ンな事があってたまるかよ」
レノは落としてしまった雑誌を自ら拾い上げる。
「…俺たちはこれからセフィロスを追う。奴らもそれを追っているようだ」
シンバが人質として連れていかれたのか自分の足で出て行ったのか定かでない今、セフィロスを追う事を主任は優先した。目的が同じならいずれどこかで出会うだろう。向こうには古代種であるエアリスもいる。下手に動けば、こちらが不利になると考えての事だった。
それにもし彼女が自分の足で出て行ったとして、その理由は二つ考えられるともルードは言った。タークスとして彼らの動向を探ろうとしているのかもしれないと。…そう考えるのが、吉。いや、レノにはそうとしか考えられなくて。…否。そうとしか、考えたくなかった。
「…シンバに会ったら言っといてくれるか」
騒ぎ出した己の心は、何をそんなに懸念しているのだろう。
「俺はお前を必ず連れ戻すってな」
人質として連れされた彼女への思案。動向を探ろうと単独行動をした彼女への憤慨。自分の意志でそちら側についてしまった彼女への、執着。
「…あぁ」
全ての意味を混ぜたその言葉に、ルードはどこか寂寥を感じた。