21 come on ! chocobo !



あれからシンバたちはカームを去り、そこからほどなく離れたところにあるグリン牧場―チョコボファームに立ち寄っていた。
…そこにいる黄色の物体を目に捉えた瞬間に、一目散にそれめがけて走っていく者が若干一名。


「ちょ、チョコボー!!」

「クエーッ」


シンバだ。動物大好き彼女がそれにかけよらないわけがあるまい。
チョコボは自分を恐れる事なく無垢な瞳で見つめ返してきてくれた。あぁキュンキュンする。会いたかった、最高。


「可愛いなー!可愛いなー!!」


思ったよりも大きいそれはしかしどうしてこんなに可愛いものかとシンバはずっとそれを見つめていたが、…その黄色い頭部をどこかで見たことがある気がして。


「……クラウド?」


思わずその名を呼べば。


「誰が俺だ」

「ふぉおう!?」


今想像した人物がいきなり背後に現れたのに驚き素っ頓狂な声をあげてしまった。
それとこれとを今一度見比べてみる。皆がクラウドをチョコボ頭だと言う事にも納得がいくような気がした。


「…そっくり!」

「ふざけるな。誰がチョコボだ」

「ええやん!可愛いで?」

「…嬉しくない」


ししし。とシンバが笑う。


「…動物が好きなんだな」

「うん!めっちゃ好きやねん!」


大はしゃぎでチョコボを見るシンバはクラウドにとって、普段からは想像出来ない姿だった。…コイツこんな可愛い一面もあるのか。と自身の顔がニヤついているのに気づいたクラウドは、咳払いをして慌ててその顔を真面目な顔に戻す。


「…自分の方が動物っぽいけどな」

「っなんでやねん!」


クラウドと一緒にすんな。というシンバ。いやだから俺はチョコボじゃないっつうの。これ以上この会話を続けるのは危ないと感じ宿屋へ行くと促すも、シンバはそれを拒んだ。…まだチョコボと遊びたいらしい。

クラウドは一つ溜息をつき、レッドと二人で宿屋へ向かった。



 *



この先の湿地帯にはミッドガルズオルムという巨大な蛇が巣食っており、チョコボの足でないとそいつからは逃げられない為、この先へ進むにはチョコボが必須であると宿屋の主人から聞かされたクラウドは、主人に勧められチョコボを飼おうとチョコボ小屋に向かっていた。
しかし、そこにいた男の子に話しを聞くも運悪く今はチョコボがいないらしい。シンバが外で戯れていたのは預かりもののチョコボらしく売れないという為、仕方なく野生のチョコボを捕まえる事にしたクラウドはチョコボよせのマテリアとチョコボが好きな野菜を購入していた。



そうしてファームを後にしようとチョコボと戯れているであろうシンバを呼びにいくも、そこにシンバの姿はなく。


「っアイツ、どこ行ったんだ…?」


まったく世話の焼けるやつだ。チョコボと意気投合して野生へ帰ってしまったのではあるまいな。とクラウドが二度目の溜息を吐いたその時。


「――おーーい!」


遠くからシンバの声が聞こえた。その方へ目を向けたクラウドとレッドは、シンバが一緒にいるその黄色い生き物を見て驚いた。


「お前っ、そのチョコボ…!?」

「っ盗んでへんで!!そこで友達になってん!」

「は!?」


いろいろおかしい事がたくさんある。野生のチョコボは人間を警戒して滅多に近づこうとはしない。ましてやチョコボよせのマテリアがあってもチョコボに出会うのはそんなに簡単な話ではないし、仲間になってくれる確率だって低いのに。…この女はいとも簡単にチョコボを仲間にしてしまった。それにそのチョコボ、既にシンバにかなり懐いている様子。


「可愛いやろ!名前はクラちゃん!」

「っクラちゃん…!?」

「クラウドとちゃうで!クラちゃん!」


なークラちゃん!と言ってシンバはチョコボの顎を撫でた。クラちゃんは気持ち良さそうに目を細めている。


「お前な…」


クラウドはがクリと肩を落とした。チョコボ探しの手間は省けたものの、なんだか腑に落ちない。なんだよクラちゃんって。あきらかに自分の名前から文字ってるではないか。


「…シンバは動物に好かれるんだよ。オイラだってそうだった」

「?」

「シンバといると、なんだか落ち着くんだ」


レッドにそう言われ、楽しそうにチョコボと会話しているシンバに目を向ける。はたからみればおかしな光景だが、クラウドにはそれが自然に見えた。
…確かにそうかもしれない。シンバは何か惹きつける魅力を持っている。自身も動物好きとは言っていたが、その気持ちが動物達にも通じているんだとクラウドは思った。

クラちゃん。優しい声でその名を呼ぶシンバ。チョコボがそう呼ばれているのを聞いて、なんだかクラウドはチョコボが恨めしくなった。


「…、」

「…クラウド、やきもち?」


レッドが笑うようにクラウドを見上げる。


「…何で俺が」


クラウドは否定するように、顔を背けた。





 ***





せっかく購入したチョコボよせのマテリアはティファ達に譲る事にして、クラウド達はシンバが捕まえたチョコボに乗って湿地帯を抜けて行った。
チョコボの乗り心地は最高だった。いつまでもこうしてチョコボと旅していたい。…しかしそんなシンバの儚い夢は、10分少々で終わってしまった。


「…バイバイクラちゃん。元気でね」


名残惜しそうにチョコボと離れるシンバを見て、なんだかクラウドは心が痛む様な気がした。こんなことならもう少し草原を走り回っていてもよかったかもしれない、なんて。
しかし自分たちは今チョコボと戯れることに時間を費やしている場合ではないのである。それにここからの旅にチョコボを連れていくのは不可能。シンバだってそれは十分わかっている。寂しいがいたしかたない。

チョコボが湿地帯を安全に抜けるのを確認してから、三人はその足を進めた。



「――…なんか、変な匂いせぇへん?」


ミスリルマインに近づくにつれ、辺りに漂い始めた腐敗臭。何事かと怪訝に思いながらそれでも足を進めていくと、三人の目に飛び込んで来たのは大きな木に串刺しにされている大きな蛇―ミッドガルズオルムの惨殺死体。辺りには夥しい血痕が広がっている。見るも無残なその姿に、三人は圧倒された。


「うーわ、やば…」

「セフィロスが、殺ったのか…!?」

「セフィロスって、すごいんだね…」


これがセフィロスの実力。シンバは、鳥肌が立つのを感じた。



 *



ミスリルマインも順調に抜け、中腹に差し掛かった時。


「――ちょっと待った」


誰かが自分達を呼び止めた。その声に聞き覚えがありすぎるシンバがその方へ目を向ければ、そこに立っているのはいかついスキンヘッドの男。…あぁ、久しぶり。だなんてどこか余裕なのはそれをすっかり忘れてしまっていたからかもしれない。…ここでタークス一同とご対面する事になっているという事を。


「っタークスか!?」

「――っ先輩!」


クラウドがシンバを庇うように前にのめり出した次に現れた、金髪の女性。一応初めましてではあるが、それもシンバにとってはよく知った人物。


「私、イリーナ。タークスの新人よ!…あなたがシンバさん?」

「え、…そうやけど」


一体何を言われるのだろうかと、緊張した眼差しをイリーナに向けたが。


「…シンバさん!目を覚ましてください!!」

「は!?」

「アバランチに洗脳されているってツォンさんが…!嫌です!!私、シンバさんと一緒に仕事がしたいです!!」

「……、そんな事言われても、」

「私たちにはシンバさんの力が必要なんです!セフィロスの行方を追ってるんですがアバランチとやらが邪魔して、でもそこにはシンバさんがいて……いろいろややこしいんです!!」


…なんかすいません。シンバは心の中で謝った。


「――…喋りすぎだ、イリーナ」


またもやどこからともなくツォンが現れた。この前といい今といい、なんで一人一人登場するのだろうタークスは。…なんて面倒くさい連中なんだろう。


「我々の任務を彼らに教えてやる必要はない」

「すみません、ツォンさん…」

「お前たちには別の任務を与えてあったはずだ。…行け、常時連絡を欠かすなよ」

「あ!そうでした!……それでは、私とルード先輩はジュノン港へ向かったセフィロスを追いかけます!」

「……イリーナ。私の言葉の意味がわからなかったようだな…」

「あっ…!」


すみません。とイリーナの顔がどんどん暗くなっていく。うっかり情報を漏らすとは可愛く言えばお転婆だが、とんだ新人が入ったもんだとも思う。自分でもそこまでヘマはしたことなかったのではないだろうか。きっとツォンはまた手を焼いているに違いない。…心中お察しします。


「…シンバ、レノからの伝言だ」


ドキリ。彼の名前が出た瞬間、無意識に彼からもらったロッドに手を添えていた。
これでお開き…とは行かなさそうな展開に、シンバの顔がだんだんと強張っていく。


「必ず連れ戻しにいく。…そうレノは言っていた」


それだけだ。そう言ってルードは姿を消した。


「…さて、シンバ」


あっけなく去ったルードの背中を見つめていたシンバは、ギクリと言わんばかりに肩を震わせ元上司に目を向けた。…あぁ怒られるのだろうかと、これもまたいつぞやと同じ光景のような気もして。


「聞きたい事は山ほどあるが今はそれどころではない。…それに忘れるな、お前はまだタークスの身だという事を」

「え、そうなん…」

「社長に会ったそうだな。お前の事をえらく気に入っていた…みすみすタークスを辞めるということは許されんぞ」

「何を言われようがシンバはタークスには戻らない」


シンバがその言葉に返す前にクラウドがツォンにバスターソードを向けていた。まったく毎度毎度同じことを何度言わせれば気が済むんだコイツらは。幼稚園児じゃあるまいし。とクラウドは些か呆れ顔のようで。


「これは忠告だ。…我々にとってもシンバは貴重な人材なのだ」


それは、どういう意味だろうか。やっぱり他世界から来た事がバレているのではないだろうか。なんだか面倒くさい事になってしまった。シンバは最初に出会ったのがレノだった事を少しずつ後悔し始めるハメになっていた。


「――それと…エアリスは元気か?」

「え?うん、」

「彼女に伝えてくれ。暫くの間は神羅から自由の身だとな。…お前もだ、シンバ」

「…はぁ、」

「とにかく神羅の邪魔はしないでもらいたいものだな。…シンバ、できれば私はお前とは戦いたくない」

「っ、」


シンバは何も言い返せなかった。確実に裏切っている事は確かなのに、ツォンもルードもイリーナも誰も自分を責めようとはしない。。


「…シンバ、大丈夫?」


レッドが心配そうにシンバを見上げる。


「…うん、大丈夫」


シンバはレッドの頭を優しく撫で、去りゆくツォンの背中を無言で見送った。



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