22 tomboyish girls



タークスに遭遇してから十数分後。ミスリルマインを抜けたシンバ達の目の前に飛び込んできた壮大な平原と、太陽の光に反射してキラキラと輝く真っ青な海。
その景色の中にポツンと佇む小さな建物があったが、しかし最初に目に飛び込んで来たのはその建物ではなく、その屋根の上にとまっている大きな鳥だった。

そこはコンドルフォートという場所で、屋根の上には魔晄炉が存在していた。けれどもいつしかその場にコンドルが巣を作ってしまったようで、その事で幾日も神羅と対立を繰り返しているのだと中にいた長老は言う。神羅曰くこの魔晄炉には特別なマテリアが眠っており、それを回収する為にはコンドルが邪魔者となるというのである。
しかし今この屋根の上にいるコンドルは数年に一度しか生まない卵を温めている最中で、もちろん住人はコンドルの新しい命の誕生を待ちわびているわけだから神羅の言いなりになるつもりは毛頭なく。…コンドルを巡って、神羅と戦わざるを得ないというわけだ。


「数年に一回かぁ…神秘的やな!」

「コンドル守ってあげなきゃね!」

「そうだな」


今は神羅とは休戦中らしく、また時間があれば必ず力を貸すと約束をした。


「まったく神羅は動物に優しくないでイカン!!」

「赤ちゃん、楽しみだね」

「な!絶対その瞬間見たるねん!!」


このまま行けば、またいつの日かここに来てそれを拝める事ができる。みんなにはまだ言えないけれど、それまでの楽しみにとっておこう。シンバはそう思いつつ、コンドルフォートを後にした。



 *



鬱蒼と茂る森をひたすら進んだところで、疲れたというシンバを見兼ねて一行は休憩を取っていた。


「あとどんくらい?」

「…さあな」


とにかく道のりが長い事にシンバは多少イライラしていた。ゲームだったら周りの景色も一望出来て、街やダンジョンにすぐ着くのに。…今は見回しても緑緑の木々ばっかりでジュノンのジュの字すら見えてこない。


「現実は厳しいなぁ…――」

「……なあシンバ」

「ん?」

「その腰の武器、アイツと同じじゃないのか?」


突然の質問に一瞬ポカンと口を開けてしまったが、クラウドが言うそれに自身も視線を落とした。腰の武器とは、一本のロッド。…それは、レノから護身用にともらったものだ。何だか手放せなくて、結局ずっと身につけている特に意味はないものである。
それにクラウドが気づいたのは、ミスリルマインでルードがシンバにレノからの伝言を伝えた時だった。その時シンバが無意識にそれに触れていたのをクラウドは見逃さなかった。…それには何か二人をつなげるものがあるのではないかと。

ロッドを見るクラウドの顔がどんどん曇っていく。…あれ、何で怒っているのだろう。何か悪いことしたかしら。とシンバの頭の中にクエスチョンマークが大量に飛び交ったが、しかし機嫌を損ねてしまったままではなんだか気まずいので、とりあえず弁明することにする。


「これはレノに護身用にもらったもので、…べ、別にお揃いとかちゃうねん!!」

「…もうそんなもの必要ないだろ?」

「へ?…何で?」

「いや、…その……シンバもかなり強くなっただろ」

「そう?…まあもらいもんやし、使わな損ちゃう?」

「…そういう問題か?」

「え?違う?……しかしまぁ護身用に貰った武器で逆に自分が攻撃されるとはなぁ…」

「何だって…!?」

「あぁ、七番街の柱の上でな。…スタンガンみたいにやられたねん」

「そうだったのか…」


今度は何故か凹んでいくクラウド。ってかなんでクラウドが凹むんだ。しかし意外と感情の起伏が激しいのだなクラウドは。と新たな一面にシンバは驚くだけで、彼がそれを問うてきた意味なんてこれっぽっちも気にしていなかった。

…そして、その時。


「?…どしたんレッド?」


ふせをしていたレッドが急に顔を上げた。「何か来る」と言ってレッドが警戒する方向をクラウドとシンバも注視する。…すると、なにやら近づいて来る物音が聞こえ始めて。


「…神羅か!?」


…化け物だったらどうしよう。というシンバのありえない心配は、全くいらないものとなった。


「――勝負だ!」


聞こえてきたのは女―いや少女の声。そこに現れた姿に皆が唖然としていた。背丈はシンバと変わらないくらいだが、年齢はシンバよりはるかに若いであろう女の子が敵意剥き出しでこちらに挑んできているのである。


「…勝負だっていってんだ!」

「は?」


この状況にただただ冷静なのはシンバだけだった。…それもそのはず、その少女もシンバがよく知る人物であるからだ。
突然現れた少女―ユフィと戦闘をとるも、3対1ではこちらに分がありすぎて戦闘はあっけなく終了。…しかし断固としてユフィは負けを認めなくて、それからクラウドとユフィの言葉の攻防が始まったのだが。


「……、」


かれこれ二人が言い合いを始めて、5分が経過していた。
あのおもしろいやりとりが拝めるのだと思い黙ってその様子を拝見していたシンバは、一行に終わりの見えない言い合いにしびれを切らし始めていた。これってこんなに長いやりとりだっただろうか。…どうやら終止符は自分が打たねばならないらしい。


「…もうええやんクラウド!仲間入れたろーや!」

「しかしだな、」

「うんうん!いい事言う!アンタ名前は!?」

「シンバ!」

「シンバ!アタシはユフィ!よろしくね!」

「よろしく!」


イエーイとハイタッチを交わす二人。


「…丸く収まっちゃったね、クラウド」

「まったく…」


すっかり意気投合してしまった二人を見て、クラウドは大きな溜息をついた。





 ***





喧しさを増したクラウド一行は、やっとこさジュノンに辿り着いていた。
綺麗な景色の中、海に浮かんでいるかのようにその存在感を見せつけている突如現れた黒の要塞。なんとも不釣り合いだな、と思う傍ら、これが人間の進歩の表れかとも思わされる。
そんな要塞とは打って変わってその下にある町は思っていたよりも寂れていて、シンバはどこか虚しさを感じていたが。


「シンバ!海行こうよ!」

「行く!行く行くーう!!」


ユフィの誘いにあっけなくのって、ルンルンで海へと向かっている。


「おい待てお前らっ…」


そんなクラウドの静止も虚しく二人はスキップをして海岸へ一直線。その一連のやりとりを見ていたレッドはクラウドの眉間にシワがよるのを見た。…リーダーは大変だ。レッドは少し同情した。



 *



シンバとユフィが海岸に辿り着くと、女の子が海で一人はしゃいでいた。彼女がはしゃいでいる波打ち際には、海辺に相応しくない大きな柱がそびえたっている。
一人ではしゃぐなんてやっぱり子供って愉快だな。なんて思っていると、…どうやらそこにいるのは彼女だけではないらしく。


「イルカさ〜ん!」


女の子がそう叫ぶと、海の中から突然現れた物体。…イルカだった。彼女はイルカと戯れていたのである。


「イルカ!本物!!」

「すごーい!」


楽しそうな女の子以上にそれを見てテンションの上がっている女たちがそこにはいた。そうしてようやく女の子はシンバたちの存在に気付いたようで。


「あなたたち誰?…もしかして神羅の人間!?」

「ちゃうちゃう!…あ、うーん……まぁ前まではおったんやけども」


シンバは変なとこで馬鹿正直だった。


「アタシは違うよ!」

「けどもう今は辞めて普通の人間やで!?」


誤解や誤解!と女の子に言うも、未だに女の子は怪訝な顔でシンバを見ていた。…これはいけない。話しを逸らさねば。


「…それより!イルカ可愛いなぁ!!」


話しをイルカに振るシンバ。こういう時は動物が大いに役に立つ事を知っている。


「でしょ!私イルカさんと仲良しなの!」

「へぇ〜、野生のイルカって人に懐くんだねー」

「い〜な〜い〜な〜!」

「私、プリシラって言うの!お姉ちゃんたちは?」

「ウチはシンバ」

「アタシはユフィ!」

「みんなでイルカさんと遊ぼう?」

「ええの!?…ウチイルカと戯れるの夢やったんやぁ!」


シンバの目がキラキラと輝いた。それを見てユフィはシンバが自分より幾分も年上な事を疑い始めていたが、…そんな事も気にせずシンバがイルカさんと遊ぼうとした、その時。


「…っシンバ!あれ見て!!」


ユフィが突然声をあげた。その指差す方向には巨大なモンスターの姿。…なんてバッドタイミング。シンバの楽しみはあっけなくお預けとなってしまった。


「イルカさんが危ない!」


そうしてまたバッドな出来事が起こる。プリシラがイルカさんの方へ―モンスターの方へ駆け寄っていってしまったのである。わざわざ自らを危険に晒そうとするとはやはりそこも子供らしい。…ってそんな事思っている場合ではない。
シンバが慌ててそれを止めようとしたが、プリシラに気づいたモンスターが尻尾を荒立てて波飛沫をあげた。


バシャーーン――!!


「っきゃあ!」

「プリシラ!!」


ダイレクトにそれを浴びた小さなプリシラはいとも簡単に波に襲われてしまい、このままでは彼女が危ないとシンバが助けに入ったその時。モンスターが大きな咆哮をあげた。


「シンバ!!」


ユフィの声が聞こえたと同時、モンスターが突っ込んできた。…あ、やばいと思ったが、今さら逃げる事なんて出来なくて。プリシラを支える事で精一杯だったシンバは彼女を覆うようにその場に塞ぎ込んだ。


――…あれ?


しかし。一向に来ると思っていた衝撃がこない。キュッと瞑った目を恐る恐る開けばそこに、暗い影が自分を遮っているのに気付く。そしてその影の正体は…バスターソードを構えモンスターと対峙しているクラウドの影だった。


「ったくお前はいつもトラブルの中心にいるな…」

「っ、そんなこと…ない」


…と思う。


「…早く行け!」


クラウドの声の後、プリシラを抱えて急いで岸へ駆け上がった。
ちょうどその時、騒ぎを聞きつけた老人―おそらくプリシラの祖父であろう人がこちらに駆け寄ってきていて、プリシラを砂浜へと降ろし、すぐにその顔を覗き込んだ。


「プリシラ!!」

「う、う〜ん…」

「プリシラ…!」


暫くして、プリシラはうっすらと目を開けてくれた。…よかった。生きていた。人工呼吸は必要なさそうだ。しろと言われたらどうしようと内心シンバはビクビクだった。


「――よかった!無事だったんだね!」

「すまなかったね。ワシはプリシラを休ませてくるよ」


クラウド達も戦闘を終え、事態がひと段落したところで老人はプリシラを抱えて町へ戻っていく。シンバもホッと一息ついたが、そこでようやく自分の事態に気付いた。


「あー、ずぶ濡れになってしもた」

「…シンバ。これからは勝手な行動はするな」

「っ、…ごめんなさい」


いつになく真剣なクラウドの声。突っ込んでいったプリシラもプリシラだが、それを助けようと何の対策もなく突っ込んで行った自分も大馬鹿ではある。クラウドが来ていなかったら、もしかしたら一瞬であの世行きだったかもしれないのだ。
…しょんぼり。音に出せばそんな感じ。クラウドにそんな風に注意をされたことなど無くて、今までの自分を反省する。

そうして考え込んで俯いていると、頭の上にバサリと乗っかってきた何か。…それは、どこから持ってきたのかクラウドが持っていたものかはわからないが、真っ青な少し大きめのタオルだった。
シンバはそれとクラウドを交互に見やった。既に彼は村の方へ戻ろうとしている。


「…はぁ〜」


すると、上からユフィの溜息が聞こえてきて。


「クラウドって、ツンデレだね〜」

「、…知ってる」


なんだかんだで、結局優しい。シンバはそのタオルを―彼の優しさを頭の上から被った。





 ***





次の日――


パーパーパッパラパッパー――♪


「……?」


やけに周りが騒がしい気がして、目が覚めた。やかましいというよりは賑やかな感じの音楽がどこからともなく聞こえてきていて、祭りでもあるのかと思いながらシンバはその身体を起こした。


「シンバ、おはよう」

「はよー、エアリス!」


そこに、エアリスがやってきた。音楽の事はさておいて、昨日助けた女の子―プリシラが元気になり皆にお礼を言いたいということらしいので、起きて早々だがそこへ向かう事となった。


「昨日はありがとう、おねいちゃん!」


照れくさそうに、しかし満面の笑みで言うプリシラ。いい事したな、とシンバも何だか嬉しくなって照れくさそうに笑っていたが、そんな和やかなムードを盛りたてるように鳴り止まない賑やかな音楽。…そして堪らず一番に開口したのは、バレッド。


「…さっきからこの音楽は何なんだ?ずいぶん賑やかじゃないか」

「これは神羅の新しい社長の歓迎式のリハーサルだと思う!」

「ルーファウスか!?…これは挨拶に行かなくちゃな」

「げ、ルーファウス…」


ルーファウスがここに居るという事は船を使おうと考えているのだろうが、そうなるとセフィロスも海を渡ったという事になる。ルーファウスも彼を追っていた。少なくともルーファウスがいる先にセフィロスがいるということは間違いないだろう。

ジュノンの上の街と下の町はエレベーターで繋がっているが、それを使用出来るのはほぼ神羅の関係者のみだと老人は言う。ましてや敵である自分たちに素直にそれを譲ってくれるとは思えない。しかし、海を渡るには上の街に行く事は必須。


「…なんとかして上の街に行きてえな。柱でもよじ登るか?」

「ダメダメ!柱の下は高圧電流が流れてるの!むやみに近づいたらキケンよ!」

「神羅兵やってしまおうか」

「…いや、無茶はやめよう」

「イルカさんの力を借りればなんとかなるかな?…ちょっと来て!」


そう言ってプリシラが部屋を駆け出していく。
クラウド達もその後を追えば、既にイルカさんが波打ち際にスタンバイしていた。


「見てて!」


そう言ってプリシラが首にかけていた笛を吹くと、イルカさんがそれに答えるように高くジャンプした。…まさにそれは、イルカショーの光景。それを見たシンバの目が忽ち感動に溢れていく。


「すごい!!」

「すごいでしょ!このホイッスルを吹くとイルカさんがジャンプしてくれるの!!」

「はいはい!やるやるやる!!ウチがやるー!!」


シンバは右手をこれでもかというくらい高々とあげた。既にやる気満々である。


「はい!じゃあお姉ちゃんにこのホイッスルをプレゼント!」

「見てて!ウチはイルカに乗った少年になるで!!」


何だそれという皆のツッコミを気にせずに、シンバは海の中へ入っていった。
すると、イルカさんがすぐに自分の元に寄って来てくれた。か、可愛い。子供の頃からイルカショーを見るたびにそのお姉さんになりたいと何度思ったことか。その夢がまさかこんなところで叶うなんて。

イルカと戯れる。できればいつまでもこうしてイルカさんと遊んでいたかったが、…クラウド達の痛い視線を感じ始めたのでシンバはしぶしぶ笛を構えた。


ピッ


合図を確認して、助走をつけたイルカさんがシンバの身体を下から思い切り持ち上げた。イルカさんと共に高々と空を舞っていく。夢にまで見た瞬間は、シンバの目にスローモーションのように映っていた。…飛んでいる。自分は今イルカさんと共に空を飛んでいる。イルカに乗った少年になった。私はイルカに乗った少年だ。感無量です――


「――っよいしょ!」


シンバはイルカさんの後押しによって、柱に可憐に着地することに成功。


「っ高い!怖い!!」


だがしかし、登ってみるとそれは以外と細くて、その上は強烈に怖い事を知る羽目になった。
ハイハイしながら安全な場所まで移動したシンバは、下にいる仲間達を振り返りホイッスルを投げる。


「ほな!お先〜!」


そのホイッスルを受け取ったのは、クラウド。


「…シンバ!」

「ん?」

「あんまり目立つ行動はするなよ!」

「おけーい!」


笑って手を振り、柱の奥へと姿を消すシンバ。


「…アイツ意味わかってんのか?」

「シンバは危機感薄いからね」

「ふふっ。クラウド…シンバと間接チュー!」

「…は!?」


驚いたようにエアリスを振り返れば、満面の笑みのエアリスがそこにいた。そしてその意味を悟ったクラウドの顔が赤みを増していく。


「間接ちゅー!?」


なぜかユフィまでもが顔を赤くし始めた。…なんて初心な集団だ。

…その場が暫く間接チューの話題で盛り上がっていたこと、シンバは知る由もない。



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