「…っし!」
柱をつたってジュノンのエアポートに辿り着き、ここでの一連の流れを頭の中で整理する。気合を入れ直してから、エアポートの通路をまるでこそ泥のように進んで行く。なんにも悪い事はしていないのに、何故か身体が勝手にそうさせていた。
そうして少し開けた場所に着いたのだが、どこをどうとってもその場所には神羅兵がうろうろしていた。…これは流石に面倒くさい。下手に動かないほうが良さそうだ。と思ってシンバは大人しくクラウド達の到着を待つ事にした。…のだが。
「――こら!」
「ふぇ!?」
突如後ろからかかった声に驚き振り返れば、そこには赤い軍服を着た男性が不審な目―というより怒りの目で自分を見下ろしていて。
「ま〜だそんな格好をしているのか!こっちゃこい!!」
「は!?――ってどこいくのぉぉぉぉ!!!」
シンバはその男に強引に引きずられるようにしてどこかへ連れていかれた。
「今日は新社長ルーファウス様をお迎えする大切な日だって言いうのに!ほらっ着替えろ!!」
そうして渡された青い軍服。…いや、まてまてまて。これはクラウドがするプチイベントではないか。自分がやってどうするのだ。とオロオロしていると。
「な〜にボサッとしとる!!早くせんか!!」
「えぇ!?」
男は早くしろといわんばかりの目でシンバを睨みつけてくる。何で自分がこうなるハメに。これはクラウドの役目で、クラウドのシナリオなのに。…あぁ、どうしよう。
というより神羅兵に女の人はいただろうか。いないのならどうして自分が声をかけられたのかさっぱりわからない。どっからどう見ても自分は女ではないのか。もう何がなんだかわからない。
しかし何をどう言い訳しようがこの男にはきかない気がして、ブツブツ文句を心の中でたらしながらシンバは今着ている服の上からそれを着た。やはり女のシンバには大きかった。下のほうがダボダボしてしまっている。…こんな兵士、おる?
「…お前は小柄な男じゃな!まあいい、似合っているからよしとしよう!」
やっぱり男だと勘違いされていた。…なぜだ。この人の目は節穴か。シンバは聞こえないように小さく溜息をついた。
「お前、お迎えの仕方は覚えているだろうな!?」
「え?」
「…忘れたって顔だな!しょうがない教えちゃる!」
そこへ飛び込んできた2人の神羅兵。
「隊長!自分たちが手伝うであります!」
「見本であります!」
そうして2人はその場で足踏みを始め、ルーファウスの歌を歌い始める。
「…おおー!」
見たことあるその光景に、シンバは嬉しそうに手拍子を始める始末。
「隣の兵士と歩調を合わせ厳かに勇ましく歩くであります!」
「みんなの歩調が合ったら銃を掲げるであります!」
「わかったか?」
「わかったであります!」
シンバはビシッと音がなるくらいに敬礼をして見せた。すでにノリノリのようだ。
「よろしい!本番でも頑張るのだぞ!」
「はいであります――!!」
*
そうして隊長一行とパレードに参加したシンバ。
パレードは難なく無事に終了したのだが、はたまた隊長に控え室に呼び戻された。
「まだ何かあるでありますか!」
「次の指令は港でルーファウス様のお見送りだ!時間までミ〜ッチリ指導しちゃる!!」
すると先ほどの兵士2人がまたやってきた。
「手伝うであります!」
「同じくであります!」
「おお!よろしくであります!!」
何だか意気投合してしまった。そして楽しい。今が一番楽しいかもしれない。今度一緒に飲みにでもいきたいもんだ。とシンバはすでにその場の空気に飲み込まれていた。
しかしそんな事したらクラウドに殺されるのは目に見えている。あぁ、何故神羅とアバランチは対立してしまったのか。悲しいかな。もっと平和にいきたい。…しかしそんなシンバの願いが叶う事は、ない。
「隊長!本日のスペシャルポーズは?」
「ん?…決めてない」
「隊長!これはどうでありますか?」
シンバがクラウドの決めポーズをパクってやってみせると、その場から賞賛の拍手の嵐が巻き起こった。
「おお〜!」
「かっこいいであります!」
「よし!本日のスペシャルはこれで行こう!」
「はいであります!」
「では港に集合!遅れるなー!!」
そうして一行は、一時解散した。
*
「――あーー楽しかった!!」
楽しい時間を過ごしたシンバは、その余韻に浸るようにスキップをしていた。…周りの神羅兵が痛い目で自分を見る視線に気づかずに。
そうしてジュノンの街並みを一通り堪能していると、目に飛び込んできたのはBARとただそれだけ書かれた看板。そこから漏れる蒼い光にスッと思い浮かぶはゲーム内の一コマ。…そこに誰がいるのか容易に想像できて、シンバは今迄浸っていた気分を一蹴し、そっとその扉を開けた。
「……」
薄暗い―しかしどことなく大人の雰囲気を醸し出している蒼いライトの下に、そこに溶け込むかのような色のスーツを着こなす三人の人物。スーツの上には黒・赤・金と見事な三色が揃っている。
――タークス
シンバはゴクリと喉を鳴らし、そして気づかれないように静かにドアを閉め、緊張から解き放たれるように溜息を吐きドアにもたれ掛かった。そして腰にさしてあったものを手に取り、まじまじと見つめる。…レノから貰ったロッドだ。
「……、」
いつまでもこれを持っていてはいけない。これを持っているといつまでもクラウドは自分がタークスに未練があると勘違いしてしまう。だからあの時クラウドの顔が曇ったのだ、と今更ながら理解していた。
…しかし、それでは困る。疑われたままで旅は続けたくない。最初にバレットが言っていた。アバランチと神羅は馴れ合ってはいけない、と。…これは一種のけじめだ。レノ達は敵。仲間じゃない。
「っ、」
何かを決意したように、シンバはその場を後にした。
***
BARの中ではツォンとレノ、イリーナの三人が酒を酌み交わしていた。
昼間から呑むとは何事かと思うが、既に三人は本日のメインの仕事は終えている。今日の主な任務はルーファスを無事にジュノンまで送り届ける事で、ジュノンにつけば後はハイデッカーや兵士達に任せておけばよい。気を抜いてはいけないが、久しぶりの簡易な仕事に三人は午後の有意義なひと時を過ごしていたというわけである。
「…俺達が来たからには社長の警備は万全だぞーっと」
レノはそう言って持っていたグラスの中のお酒を飲み干す。
「先輩!飲み過ぎです!…全く、つまらない仕事だとすぐサボるんだから――」
「シンバがいねえとつまんねえんだぞ、と」
「…先輩そればっかり!ほんっとシンバさん大好きなんだから」
カラン。とレノの持つグラスの中の氷が揺れた。
「…そうかもな」
遠い目でグラスの中の氷を見つめるレノ。イリーナは言ってはいけない事を言った気がして、黙ってしまった。
「――お届けものでーす」
丁度その時。そこへ、大きなダンボールを抱えた男が入って来た。配達員であろうその男は、マスターの受け取りサインを貰った後で何故かレノに近づいて来て、
「アンタ、レノって人かい?」
「…何の用ですか?」
イリーナがその男をレノに近づけまいと立ちはだかる。神羅は恨みを購う事が多い。それはタークスも例外ではない。…いや、タークスそのものがそうと言った方が正しいのかもしれない。その為、怪しい人物はまずは下っ端の者が対応する事になっている。
「ちっちゃな神羅兵からBARにいる赤毛の男…レノって奴にコレを渡してくれって頼まれたんだ」
そう言って配達員はしわくちゃの茶色い包を差し出し、それをイリーナが受け取る。「じゃ、確かに渡したよ」そうとだけ言って配達員はそそくさとBARを出て行った。
「…なんだって?」
「神羅兵が先輩にですって。…先輩モテモテですねぇ〜」
ニヤリと笑ながらイリーナはレノに許可もなくそれを開けた。神羅兵って男じゃねえかなんて思いつつ、レノは大した興味も持たずにその手元の動きをただ眺めていたのだが、
「…っ!」
茶色の包が解かれ露わになった中身を見るや否や、レノはそれをイリーナから奪い取った。
「っどうしたんですかせんぱ――っ先輩!?」
いきなり中の物を取り上げられたかと思ったら、それを持ったまま勢いよくBARを飛び出していってしまったレノ。イリーナとツォンは何事かと慌ててレノの後を追った。
「っ…?」
BARを出ると、直ぐそこでレノが先ほどの配達員を捕まえて何やら必死で話しているのが二人の目に飛び込んできて、
「顔は見てねえんだ。声はそういや女っぽかったが…」
「何処いった!?そいつは何処に…!?」
「っ知らねえよ!俺に荷物を預けて逃げるように去ってしまったから――」
「――っレノ!どうした!」
レノに追いついたツォンは、その手に握られている物―ロッドに目を落とす。
「…それは?」
「先輩愛用の!」
「――シンバが、いる」
「…なんだと?」
「シンバさんが!?」
「シンバが、またいたんだ…」
あの時だって、今だって。彼女は自分に姿すら見せてくれない。自分に、何も語ってはくれない。
なあ、どうして。なんでだよ。
「なんだよ…。卑怯だぞ…シンバ――」
レノの嘆きは、壮大な海の波音にかき消されていった。