「よぉ〜し!時間だ!整列!」
隊長の指示で神羅兵がその場に整列した。…少し遅れて、小柄な神羅兵が端っこに並ぶ。乱れた息を周りに聞かせまいとするように平然を装い、凛と前を向いた。
「……」
あの後――
ロッドをレノに返そう。そう決めて、見えないように茶色の包み紙に包んだのはいいが、どのようにレノに渡すかシンバは思いつかず途方に暮れていた。声を発すればおそらくバレるだろうし、かといって無言で渡せばそれまた怪しまれるに決まっている。
そうして行き詰まってBARのすぐ近くでウロウロしていると、そこに一台のトラックが止まった。運転席から降りて来た男が荷台を開け、荷物を下ろしBARの方へ向かっていく。…これは使える。ナイス配達ナイスタイミング。シンバは配達員を呼び止めると、茶色の包み紙をその人に託した。
「……、」
そしてドアを少し開けて配達員とタークス達を盗み見る。直接レノには渡らなかったが、イリーナなら興味本位で開けてくれるだろう。そうすればおのずとレノの目にも入るはず。…これでいいのだ。これでよかったのだと思いつつ、シンバはその場を後にした。
――さよなら、レノ。
「――…シンバ!?」
「!?」
隣の兵が自分の名を呼んだことに驚き、何も考えずにその方を凝視してしまった。…が、そのヘルメットの奥の瞳の色がよく知った色であることに気付く。
「…クラウドっ!?」
「…お前なんでここにいる?」
「クラウドこそ!クラウドが受ける役目はウチが全部果たしたはずやで!?」
「役目…?」
「あ、いや…その――」
「そこ!ごちゃごちゃうるさい!!」
隊長に叱られてしまった二人は、仕方なく前へ向き直った。
まあシナリオ通りになっているのならそれはそれでよかろう。青い制服もなんだかんだで似合っている。流石クラウド、なんて悠長に考えているそこへ、ルーファウスとハイデッカーが現れた。隊長はそれを確認すると、整列した兵達に向かって号令を出す。
「いざ本番!ジュノン軍隊式お見送りー!」
隊長の号令に合わせてキビキビとフォーメーションを決めるシンバとクラウド。周りに比べて一段とキレのいい動きを見せる二人に、ルーファウスの目が向いた。…いや、若干シンバを見る率のが高い。
「…シンバ」
「うん、めっちゃ視線感じる」
「…ばれているんじゃないか?」
「…まさか」
そして最後にスペシャルポーズを決め、ルーファウスとハイデッカーから有難くも大きな拍手を頂く。
「いい動きだった。…特にそこのお前」
指をさされたのは、紛れもなくシンバ。
「気に入った。君には特別ボーナスを与えよう。…一緒に来たまえ」
間違いなくバレているような気がする。もう一度クラウドを見れば、クラウドは仕方ないといった呆れた顔をしていた。
「…はい!ありがたき幸せ!」
心にもない事を口走って後、ルーファウスに腰に手を当てがわれながら船に乗り込む事となった。おい仮にも男の恰好をしているというのに他の兵の前でそんなことしたら良からぬ噂が広まるのでは。なんてどうでもいいことを考えていると、背後に感じた殺気。
…あぁ、クラウドそんなあからさまに殺気を放ったらバレるぞと心の中で溜息をつく。その殺気の意味も、知らぬまま。
***
ルーファウスに連れられ、シンバが通されたのは船の中の結構豪華な一室。
「さて。なぜその様な格好をしているのかね?…シンバ」
やっぱりばれていた。シンバは暑苦しかったヘルメットを脱いだ。
「…なんでバレるかなあ、」
「ふっ、私にはわかるのだよ…。お前は本当に私を楽しませてくれるな。神羅ビルといい今といい、仮装して私を楽しませてくれるとは…サービス精神旺盛だな」
どこをどういう風に持っていけばそんな解釈に辿り着くのだろうか。なんともめでたい人である。シンバは少し引き気味の眼差しでルーファウスを見た。
「さて、シンバ…」
――げ
シンバは一歩―いや数歩引き下がった。
何でだろう、ルーファウスの眼差し弱い。いやそういう意味の弱いではなくて、なんとなく身の毛がよだつというか、なんというか。女だったらイチコロであろうその眼差しは今や浴びたくない視線の一つとなっていることは言わずもがなである。
「恥ずかしがらなくてもいいぞ、シンバ」
…こいつもコルネオと同類なのか。シンバは体に虫唾が走るのを感じた。
「…別に照れてません」
「私に反抗するのか?」
「…しちゃアカンのですか?」
するとルーファウスが片手で顔を覆った。怒らせてしまったのだろうかと若干不安になったが、次のルーファウスの言葉でそれを後悔するハメになる。
「…私に反抗するのはお前くらいだ、シンバ。君は本当に面白い」
ルーファウスは笑っていた。こいつ本当は頭悪いんじゃないかと思う。
「――さて、本題に戻ろうか」
是非そうしてください。シンバは深く溜息を吐いたが、…それより本題ってなんの事だ。心当たりがなさすぎるので少し身構える。
「ジュノンに君がいるという事は、クラウド達もいるということだろう?…一緒にこの船に乗っているのかね?」
さっき隣にいたのがクラウドなのに。とシンバはうっかり口走りそうになった。あの殺気にも気づいてなかったのか。…どんだけなんだ。
「…知らん。アンタが勝手にウチを乗せたんやないか!」
「君が変装していたという事は他の連中も神羅兵に成りすましているという事か?」
「知らん!ジュノンではウチずっと一人やったし!」
「そう怒るな。…怒った顔も美しいな」
「……」
まったくこの男はいらん話が多すぎると思う。あぁ一刻も早くこの空間から逃げ出したい。一緒にいるとこちらまで頭がおかしくなりそうである。
「まあどちらにしろこれからは私と共に行動するのだがな」
「は!?」
「悪い話ではないだろう?秘書だぞ、秘書」
「いやエエ話でもまったくないですけど?」
「とにかく君に拒否権はない。観念するんだな」
「いやいやいや!職権乱用!っつかウチ神羅の人間じゃねえし!!」
「コスタデルソルに着いたらスキッフで移動だ」
「シカトか!!」
「この部屋は自由に使っていいぞ。…しばらくの船旅を満喫してくれたまえ」
それだけ言い、部屋を出ていくルーファウス。
一人部屋に取り残されたシンバは、ルーファウスが去った後の扉をポカンと見つめることしか出来なかった。
*
一方クラウド達はというと、それぞれが神羅兵や水兵に成りすまし、シンバと同じ船に乗り込んでいた。
ユフィは船乗りの格好をしているくせに船酔いでダウン中。ティファとエアリスはそれなりに変装を楽しんでおり、レッドはおぼつかない二足歩行でなんとか神羅兵に成りすましていた。…しかしどっからどうみたって怪しい。尻尾出てますけど。手、オレンジなんですけど。
それよりも不恰好なのがバレットだ。そのドデカイ体に不釣り合いな水兵服ははち切れんばかりに膨張されていた。帽子も帽子で似合わない。きっとシンバが見たら大爆笑間違いない。
…そんな可笑しいバレットが覗き見る部屋。そこには、ルーファウスとハイデッカーの姿があった。
「――見ろよクラウド。ルーファウスとハイデッカーだぜ。みんな近くにいるってのに手が出せねえなんて…」
バレットは怒りに溢れるその拳を握りしめる。
「アイツらのせいでビッグスは…ウェッジは…ジェシーは…!!」
その怒りの篭った拳で今にも窓ガラスを叩き割りそうなバレットをなだめるクラウド。
そして一通り部屋の中の人物を見やったクラウドは、ある事に気づく。
「…シンバがいない」
「シンバ?…なんだアイツまた捕まったのか!?」
「ああ。てっきりルーファウスの側に置かれていると思ったんだが――」
本当はバレてなくて褒美だけもらって解放されたのではないのか。…いや、そんなはずはない。あの時のあのルーファウスの目は神羅ビルでシンバを見ていた時と同じ目をしていた。あのなんともいやらしそうな目。思い出しただけで毛が逆立つ感じがする。って俺は猫か。…って何で俺がこんなに苛立っているんだ。違う。これは違う。ルーファウスが生理的にあわないだけだ。うん、そうだ――
「くそ!アイツらシンバまでも…っガーーッ!!我慢できねえぜ!いっその事ここで一気にかたをつけ――!?」
バレットが暴れまわる決意をしたちょうどその時。それを止めるかのように、鳴り響いたのは警報アナウンス。
「しまった!見つかったか!?」
「……いや、俺たちじゃないみたいだ」
「となると…ティファ達か!?こうしちゃいられねな。行こうぜクラウド――!」
てっきり仲間内の誰かがうっかりヘマをして警報が鳴ったのだと思っていたが、甲板には全員が揃っていた。…ただ一人を、除いては。
「…まさかシンバ?!」
「いや…アイツはルーファウスに捕まっているはずだ。それを不審人物と放送されるはずはない」
「それもそうか。…ってことは」
「「セフィロス!?」」
満場一致で全員がその名を口にした。
「本当なの!?」
「俺だってわからねえよ!」
確信のない事に皆の間に動揺が走る。もし本当にセフィロスだったら一戦を交える事となる。…逃げ場のない、海の上で。
「…確かめよう。それにアイツも心配だ」
「…クラウドったらシンバの事となると焦っちゃって〜」
エアリスがニヤニヤしながらクラウドを見た。
「え!?そうなの!?」
それに大きく反応したのはユフィ。
「…なんでそうなる。別に普通だろ」
仲間を心配して何が悪い。とクラウドが言うも、エアリスにはそれが言い訳にしか聞こえない。
エアリスはまだ何か言いたげだったが、先ほどの自身の考えを見透かされた気がして、クラウドはそれを避けるように甲板を後にし船の中へ足を進めた。
…エアリスはエスパーか。などと思いながら。
*
「――やられた!!閉じ込められた!!!!」
その頃シンバは、開かない扉と格闘していた。
あの後ルーファウスが呆気なく部屋を後にした事がシンバの中でずっと引っかかっていた。おかしい、絶対におかしい、絶対にこれは何かある、と。
まさにビンゴ。警報アナウンスが鳴り響きクラウド達がボス戦に入る事を思い出したシンバは、部屋を出ようと扉に手をかけたのだがそれが開く事は無かった。…外から鍵をかけられていたのだ。
なんてこった。まさに鳥籠の中の鳥状態。
「くそ!このままやとマジで秘書いきやんか!!」
シンバは開かない扉を何度も何度も押したり引いたりして足掻いたが、嘲笑うかの如くビクともしない扉。
「クラウドー!ティファー!嫌やー!ルーファウスのオトモなんか嫌やーー!!!」
シンバの中では既に様々な妄想ワールドが広がっていた。こんな事なら宝条に捕まっていた方がマシだ。…いや、それもどうかと思う。とにかく災厄な事は間違いない。
「くそ〜!!開けろ変態ナルシス!!ふざけんなボケーー!!!」
シンバの暴言は、その人に届く事なく部屋の中に響くだけだった――
*
一方。クラウド達は一通り船を周り、機関室にたどり着いていた。シンと静まりかえる船内にただただ不審感が募っていたが、その原因がわかったのは倒れている神羅兵の死体を見た後だった。
機関室の扉を開ければ、そこにいたのはこちらに背を向けて立つ一人の神羅兵。生きていたのかと思う傍らで、どこかまた不穏な雰囲気は消えずに漂う。
「セフィロス、なのか…?」
セフィロスの姿かたちは鮮明に覚えている。確かにそれはセフィロスではない。しかしこの船に乗っていたとしたらセフィロスであろうと変装しているはずだと、確認するようにクラウドはその兵に問うた。
しかし、次にその男がとった行動はクラウド達の想像を超えていた。
「違う…セフィロスじゃない!」
男はユックリと、膝をついてその場に倒れた。…この男はセフィロスの犠牲者だったのだ。
…そこへ、静かに上から舞い降りて来た、銀髪の男――
『長き眠りを経て、時は、時は満ちた』
長い髪、それに見合った高さの背丈。そして背丈より長いであろう刀。全てが物語っていた。――それは、セフィロスだと。
「セフィロス!生きていたんだな!」
「……誰だ」
「俺を忘れたっていうのか!?クラウドだ!」
「クラウド…」
セフィロスは確認するかのようにその名を繰り返した。
「セフィロス!何を考えている!何をするつもりだ!!」
「…時は、…満ちた…」
会話は成立しなかった。クラウドの言葉はセフィロスに届く事なく、セフィロスはそのまま姿を消した。
…大きなモンスターを、お土産に残して。