セフィロスが去った後に現れたモンスターをなんとか倒したクラウド達は、セフィロスが本当に生きていたという事実を目の当たりにし、今までの状況を整理する為暫くその場に留まっていた。
セフィロス、ジェノバ、約束の地――
神羅もセフィロスも目的は"約束の地"である事はハッキリしているが、どこにあるのか定かではない。誰もが必死に求めている筈なのに、確信がない。その場所は本当にあるのだろうかと、クラウド達の疑問は大きくなるばかりだった。
『まもなく、コスタデル――』
*
「…――」
一方。シンバはビクともしない扉との戦いに負け、ソファの上で体育座りをして固まっていた。
今頃クラウド達はセフィロスに会い、ボスと戦っている最中だろう。自分もセフィロスとご対面したかった。初セフィロスを逃してしまった。ルーファウスのアホめ。アイツのせいで自分のシナリオが台無しではないか。
ブツブツ文句をたれていると、いくら頑張っても開かなかった扉がいとも簡単に開かれ…そこに入って来たのはシンバのシナリオをぶち壊したその元凶。
「――もうすぐコスタデルソルだ。…なんだ、なんだかやさぐれているな」
誰のせいだ誰の。シンバはルーファウスにこれでもかというくらい不機嫌な眼差しを向けた。
「何を怒っているのだ?…怒った顔も美しいぞ」
全然嬉しくない。ってゆうかそのセリフ前も聞いたぞ。この男といるとなんだか自分のペースまで崩されてしまう。もう嫌だ。帰りたい。早くクラウド達のところに帰りたい。アイアムホームシック。
「何を悲しんでいる?私と一緒に来るのが嫌なのか?」
「うん嫌や。とっても嫌や。このうえなく嫌や」
「…相当嫌われてしまったようだ」
悲しんでいるのか喜んでいるのかわからないが、ルーファウスはお得意のいつものポーズをとっている。
「…しかし易安と君を手放すわけにはいかない」
どうせまた可愛いだの美しいだのなんだの変な事を言うのだこの男はと、…そう、確信していた。
「…私が知らないとでも思ったか?君の本当の正体を――」
「…っ!」
あからさまな反応を彼に寄越してしまった。
宝条は何も、誰にも言っていなかったんじゃない。彼は何も企んでなどいなかった。しっかり報告していたのだ。あの時起こった事、そして自分の全てを。
…どこまで、誰が知っている。ルーファウスだけか。はたまた上層部だけか。タークスは、知っているのか。
聞きたいが、声は出ない。
「君は大いに利用価値がある。…違うか?」
ゾクリ。と身体に寒気が走る。あの時と同じ感覚がフラッシュバックしシンバの表情が固まったと同時、…船が動きを止めた。
「…着いたようだな。さて、行こうか」
ルーファウスの手が差し伸べられる。
その手を取る気はサラサラない。この手を取ってしまえば、それは肯定と見なされるだろう。
「…連れてこい。長い船旅に酔って動けなくなってしまったようだ」
動く気のないシンバを見兼ねたルーファウスは外に立っているであろう兵に笑ってそう言った。この大嘘付きめ。…この男は宝条より手強いかもしれない。
シンバは警備兵に引きずられるようにして、その部屋を後にした。
*
アナウンスの後。クラウド達は船が着くと同時、いち早く船から降りていた。
そして物陰に身を潜め、ある人が降りて来るのをひたすら待つ。
「シンバ、無事かしら」
「…いろんな意味でね」
「大丈夫さ。アイツ気は強えからな」
「でも、ルーファウスと一緒だと厄介だね」
「…あの時のケリをつけてやるさ」
するとそこへようやく現れたルーファウスとハイデッカー。二人が船を降りたと同時、スキッフという社長専用ヘリが姿を現した。どうやら今度はヘリで移動するらしい。あれにシンバまで乗せられてしまえば終わりだ。向こうは空、こっちは陸。…どう足掻いたって追いつけやしないだろう。
そうして少し遅れて、警備兵二人に挟まれるようにしてシンバが姿を現した。
「っシンバ!!」
クラウド達が一斉に物陰から姿を現す。その声にその場にいた全員が振り返った。
「クラウドっ!」
気づくと同時シンバは叫びクラウド達の元へ駆け寄ろうとしたが、両隣にいる警備兵がそれを許さない。
「…やはり同じ船に乗っていたようだな」
ルーファウスは意外にも冷静だったが、その横で驚き顔を引きつらせているのはハイデッカー。セフィロスがいたという失態をかました直後、クラウド達もいたという事実も間違いなく自分の失態とされるであろう事が目に見えている。…ハイデッカーにとって今何とかしなければならないのは、ルーファウスの機嫌取りであろう。
「シンバを離せ!」
「…それはいたしかねない。彼女は今日から私の秘書だ。……それに彼女の力は君たちでは持て余してしまうだろうからな。我々が利用してやらねばシンバも可哀想であろう?」
「…一体何の話だ」
「人をモノみたいに言うんじゃねえよ!」
「シンバを返せ!この金髪!!」
「…君たちの相手をしている暇は無いのだよ」
そう言ってルーファウスは英国紳士がするように指を鳴らす。すると船の中から複数の神羅兵が現れ、クラウド達とルーファウス達との間に立ちはだかる。
「くそっ…!」
「クラウド!!みんな…っ!!」
シンバは泣きそうになっていた。こんなにもみんなが自分の事を守ろうとしてくれている。他世界から来た自分を仲間だと言ってくれる。もうみんな最高だ。みんな大好きだ。やっぱりみんなと一緒にいたい。
しかし、そんな願いも虚しくルーファウス達と共にスキッフの方へと連れていかれてしまって。
「――くそ!離せよ!!」
最後まで抵抗して見せたが、両端の神羅兵の男の力には敵わなかった。神羅兵の方も容赦ない力で自分をスキッフに押しやろうとしている。女の子なんだからもうちょっと丁寧に扱ってくれたっていいじゃないか。研究員といい神羅兵といいデリカシーがない。彼女いたことがないんだろう。そうなんだな。だから女の子の扱い方も知らないんだ。シンバはイライラしながら神羅兵を睨みつけていた。
しかし、このままでは本当にマズイ。本当にどこかへ連れていかれてしまう。なんとかしなくては。…だが、シンバの気持ちとは裏腹にスキッフは離陸を始めてしまっていて。
「観念するんだな。君は私と共にいく運命なのだ」
そんな運命いらない。シンバはルーファウスを睨みつけた後、スキッフから外の景色に目を向けた。…もう既に結構な高さまで飛んでしまっている。マズイ。これは非常にマズイ。
シンバはもう、何も考えられなくなっていた。
「「!?」」
そして次のシンバの行動に、その場にいた全員が驚愕する――
*
「――しまった…!!」
クラウド達が神羅兵を倒し終えた時、既にスキッフは地上を飛び立ってしまっていた。シンバが連れていかれてしまった。一番最悪のシナリオをたどる事となってしまったと皆が焦りと落胆の表情を浮かべる。ユフィに至っては涙を浮かべており、レッドもユフィに寄り添って同じように悲しみを浮かべていた。
「チクショウ!!神羅…許さねえ!!」
唸り声をあげながら、バレットは届かない銃弾を何度も何度もスキッフへ向け打ち続けた。
*
「――…何をしようというのだ」
お決まりのポーズをとって呆れたように笑うルーファウス。その視線の先にいるシンバは、スキッフの扉を開け放ち今にも飛び降りようとしていた。
「…ウチは、あんたのものじゃない」
唇が震えているのが自分でもわかる。それに気づいたルーファウスはあからさまにこう言い放つ。
「ほう…だからここから飛び降りて逃げるとでも?」
この女にできるはずが無い。そう彼は確信している。ルーファウスの声色からしてシンバはそう思った。…ぶっちゃけ自分だってそう思っている。飛び降りるなんて覚悟して今ここに立っているわけではない。咄嗟の行動でこんな事になってしまっているなんて死んでも言えない。
しかし、このまま捕まっているよりは飛び降りたほうがマシだと思った。それは事実である。
「…馬鹿な事はよせ。この高さから飛んで無事でいられると思うか?」
正論だ。もちろんそんな事わからないし、恐らく無事でない確立の方が高い。
しかし、シンバには微かな希望があった。一か八かの大きな賭けだが、シンバはそっとポケットからその希望を取り出した。
「それは…?」
ルーファウスと周りの神羅兵は、シンバが取り出した真っ赤なそれに視線を集中させた。
そう、それはいつもシンバを助けてくれた、あのマテリア――
「…ウチは、飛べる」
そのマテリアを自身の胸へ押し当てる。ドクリ、ドクリと心臓が煩い。
「…何をバカな事を。お前にそのマテリアが使いこなせるのか?」
…そこまでお見通しだったのか。確かに確信はない。普段このマテリアがシンバの力になった試しなどなく、今やただのお守りのようなものへと化している。…だから一か八かの賭けなのである。
「…ウチは、飛べる」
もう一度、言い聞かせるように、言葉を放つ。高いところから落ちるのは慣れている(この世界にきてから幾度となく落ちてきた)。けれども今回は異例だ。助っ人のクラウドはいない。それに落ちどころが悪ければ待っているのは、死。
しかし確信のない事でもシンバはどこか自信を持っていた。どっからくるのかわからないその自信がシンバを強くしている。…それは、あの時と同じ。――ドラゴンと戦った時と、同じだった。
「…――」
シンバは瞳を閉じ、マテリアを両手で包んでそのまま後ろへ重心を傾けた。
重力に従ってシンバの身体は、スキッフから真っ逆さまに落ちていく――
「っ捕らえろ!!」
ルーファウスの声は一歩遅かった。飛び出した神羅兵が伸ばした手は空気を掴む事となり、ルーファウスは慌ててスキッフから身を乗り出しシンバの姿を探した。
――お願い
出てきて
力を貸して
バハムート――
…マテリアが、光に包まれていく――
*
「――あれ見て!!」
ずっとスキッフを見つめていたエアリスが勢いよく指差した方向。そこには、スキッフから落ちてくる何か。
「「シンバ!!!」」
人だ。シンバだ。ユフィとティファが同時に叫ぶ。その瞬間、シンバの身体が大きな光に包まれた。
そして直後、大きな魔法陣が空に描かれていく――
「あれは…!?」
そこから飛び出すように現れたそれに、見上げていた全員の目が釘付けになった。
「…っバハムート!?」
それは、スキッフから見下げていたルーファウス達も同じであった。
*
シンバは両手を広げ、おいでと言うようにバハムートを見つめた。自分の意思が通じた。もう恐怖なんてない。
バハムートは大きく翼を広げ、急降下。一旦自分の横を通り過ぎ、すぐさま仰向けになってそのお腹でシンバを受け止めてくれた。
「来てくれたんやな!よかったぁ〜…死ぬかと思ったんやで!?」
正直、内心ひどくドキドキだった。バハムートは返事をするように一声鳴き声を上げる。…しかし相変わらず小さい。なんだか可愛い。シンバはその頭をヨシヨシと撫でた。
「…クラウド達んとこ、連れてって?」
キュウ。とバハムートは鳴いてゆっくりと身体を地上へ下ろしていった。…あぁ可愛い。バハムートのイメージがカッコイイから可愛いへと転換された瞬間だった。
*
「――…やられたな」
ルーファウスは一連の光景を見やった後で、そうポツリと呟いた。
「いかがいたします?このままでは…!」
「計画に支障はない。…このまま進め」
ルーファウスは笑っていた。そしてバハムートにのるシンバを熱い眼差しで見下ろす。
「…素晴らしいショーを見せてもらったよ」
やはり彼女はサービス精神旺盛な、素晴らしいエンターテイナー。最高に自分を楽しませてくれる。…さすが、自分が見込んだ女。
「シンバ、またいづれ会おう――」
ルーファウスの最後の言葉は、大きな空へと吸い込まれるように消えていった。
*
「「――シンバ!!」」
バハムートがゆっくりと地上に足を付けると同時。シンバも地上へと足を降ろした。
「みんな!!」
「シンバ〜〜!!!」
一番に飛びついて来たのはユフィ。シンバも全力でそれを受け止める。
「ユフィ!なんか久しぶり!!」
「馬鹿シンバ〜〜!!よかった!本当によかった…!!」
その光景に皆が安堵の表情を浮かべ、それぞれがシンバの無事を喜んだ。
そして、その横にいるそれに目を向ける。
「…本当にバハムートなのか!?」
いわばバレットとそんなに変わらないんじゃないかと思うくらい小さな龍に、皆の目が点になる。バハムートはそんな視線を諸共せず、毛繕いをし始めていた。…自由だ。なんか誰かに似ている。誰もがそう思ったが、あえて口にはしなかった。
「…ありがとうな。またよろしくっ!!」
シンバを見やって一声鳴くと、バハムートは翼を広げ大空へと舞いその姿を消した。