ひと騒動を終えてシンバ達が辿り着いたその街は、この世界でもっとも有名なリゾート地―コスタデル・ソル。そこで彼らはひと時の休息をとる事にした。羽休めには絶好の土地に来ていることだし、いろいろあって皆疲れていることを考慮してだ。
しかしレッドはこの暑さにやられ日陰でバテており、ユフィはマテリア屋でバイトをし始めていた。確かに彼のモフモフはこの暑さには邪魔であろうが、彼女はどこまで金の亡者―いや、マテリアの亡者なんだろうか。
そんな二人はさておいてエアリスとティファはさっそくビーチに直行している。シンバも誘われたが、後で行くといいクラウドと一緒に宿屋で休んでいた。
「――本当に小さかったな、あのバハムート」
「やろ!?…けどこれでわかったわ。このマテリアからあの子出てきた…これがウチの力なんやな」
手の中で光る赤を目の前に持って来ては、まじまじと見つめる。何故バハムートが小さいのかは置いといて、自分がこの段階でバハムートを使いこなせている(いや実際使いこなせていないのだが)事が驚きだった。
しかしピンチの時にしか呼び出せないようじゃ意味がない。それをはやくなんとかしなければ。
「…どうしたら普段でも呼び出せるかな?」
「それは…シンバ次第だろ?」
ですよね。聞いた私がバカでした。とりあえず今は出て来てくれた事に感謝して、考えるのはここを出てからにしよう。せっかくリゾート地に来ているんだからリゾート気分を満喫しなくてはもったいない。
「…クラウド!海いこ!海!!」
シンバはマテリアをポケットにしまってクラウドの手を強引に引いた。
…ビーチにある人物がいる事を、すっかり忘れて。
*
ビーチに行くと、エアリスとティファが大きなパラソルの下に立ち誰かと話しているのが見えた。
最初はナンパされてその相手を懲らしめているところだろうと思ったが、近づくにつれその相手の男の格好が見た事ある服装だということに気づき、シンバはそこでようやくそこにいる人物を思い出す羽目になった。
「げ!宝条…」
ルーファウスの名前を聞いた時同様、シンバはあからさまにいやそうな顔をした。すっかり忘れてしまっていた。この男がここで呑気に女に囲まれ、ハーレムを楽しんでいるという事を。
「…君は確か……素晴らしい実験サンプルだったな」
「せめて人を現す形容詞くらい使え」
「…実に残念だ。君の事はもう少し丹念に調べ上げ――」
「黙れゲス野郎。日に当たりすぎて干からびてしまえ!!!」
この上ない暴言を吐いたシンバを宝条の周りの水着ギャルが怯えた目で見つめ、怖ーいと言って宝条に駆け寄っている。…ウザい。どっかいけ。シンバはキャピキャピした女子が一番嫌いだった。
…しかしそんな怒りを露わにしていたのは、シンバだけではなく。
「…何をしている」
あからさまに不機嫌さを醸し出している二人目、クラウド。
「見ての通りだ。日光浴」
「まじめに答えろ!」
「日光に弱そうな身体をしとるクセに!」
シンバの発言はどちらかというと嫌味である。そんなシンバの暴言にひるむ事なく、宝条は薄気味悪い笑みを浮かべた。
「ふん…私の目的は君たちと同じだと思うが?」
「…セフィロスか?」
「君たちは会えたのか?…そうか、ふむふむ…」
「何だ?」
「いや、ちょっとした仮想を思いついたのだが…。君は、何かに呼ばれているという感じがした事はないかな?…またはどうしてもある場所へ行かなくてはならないという気持ちになるとか…」
「…俺はセフィロスがいる場所ならどこへでも行く――」
クラウドと宝条が言い合う中で、シンバは先ほどの宝条の言葉に引っかかっていた。
何かに―誰かに呼ばれている感覚。シンバ自身がそれを感じた事があったのだ。今までに、二回。…この世界に来た時と、神羅ビルにいる時――
「……、」
クラウドの次にエアリスが宝条に"古代種"とセフィロスの関係を問いただすも、彼は何も答えてはくれず、一つ口を開いたかと思えばただ方角を告げるのみで、そしてまた口を閉ざしてしまう始末。
拉致があかなかった。このまま詰問してもこの男は絶対に口を割らないだろう。時間の無駄だと結局諦め、皆は宝条の元を後にした。
宿屋に戻ったエアリスは、自身の疑問に答えが出なかった事をまた深く考え込んでしまっていた。
「私ね、わからないの。…自分の事」
自分のどこが"古代種"なのか。そもそも"古代種"とは、何なのか。
シンバ自身、ゲームを通してもそれはイマイチ把握していなかった。ただ自分が知っているのは、これから彼女に起こる事実だけ。
「…エアリス、」
エアリスが自分に向けたその顔は、どこか悲しげだった。
「…一人で解決しようとせんとって。一人で悩むんは、やめよ?ウチいつでも話聞く。何でも聞く。…一緒に考えるから」
励まされているのに、どうしてかシンバの方が悲しい顔をしている。逆に彼女を不安にさせてしまったのかもしれない。エアリスは一つ謝って、シンバを抱きしめた。
「…うん、ありがとう。約束する。シンバも何かあったら言ってね?」
エアリスは笑った。その明るい表情を見てシンバは安堵し、自身も笑って見せた。
――…
エアリスと離れ離れになるなんて絶対嫌だと思った。ここまで来たら何としてでもエアリスを、セフィロスを止めてみせる。
シンバは静かに、心に誓った。
***
しっかりリゾートを満喫した一行は、宝条が言った方角―西を目指し、コスタデルソルを後にした。
そうして辿り着いたのはコレル山。
山への入り口付近に登山家が一人佇んでいたので、シンバは挨拶程度に声をかけた。すると登山家は声を掛けられた事がよほど嬉しかったのか握手を求めて来、反射的にシンバも手を出して二人は握手を交わす。…何だこの光景。そんなに感動するところだろうかと苦笑いをしていると、登山家が口を開いた。
「アンタ達はちゃんと話しかけてくれるんだな!」
「何の事だ?」
「少し前にすれ違った黒マントの奴がよ、人が親切にこの先は危険だって教えてやってんのに無視しやがってよう」
まったく最近の若者は。と登山家はブツブツ文句をたれている。いやしかし自分達の方がその黒マントの奴より若いのではないだろうか。…まあどっちでもいいか。
「セフィロス…」
「先を急ごう――」
しばらく長い山道を登ったところで、その先に見えてきたのは長い長い吊り橋。それを見た途端、シンバの顔が引きつっていく。
「え!?やばない!?長くね!?高くね!?無理無理無理!落ちる!絶対落ちる!!」
そんなに高いところまで登ってきていたのかと改めて思わされる。つうか高すぎる。それに橋も何だかすごく年月が経ってるって感じの古ぶるしい感じがプンプンして。
「大丈夫よシンバ!バレットが渡れているんだからそう簡単に崩れないわよ」
確かにそれはそうだけれども。しかしこれは理屈じゃ通らない。ビルなどの高いところは大丈夫だが、こういう危ない感じはどうしても無理である。
チラリ、とドシドシと歩いていく巨体に目を向ける。おいおいそんなに揺らしたらロープが切れてしまわないか。もっとお淑やかにゆっくり歩いてくれないか。
「ほら行くぞ」
そんなシンバを尻目にティファとクラウドはずかずかと先に進んでしまう。ひどいじゃないか。一人怖がる自分を他所にそんなにアッサリ渡って行かなくてもいいじゃないか。このパーティにはS気質な人多くないか。
シンバはロープをこれでもかというくらいの力で握りしめながら、それはもう亀な勢いのスピードで進んだ。一歩一歩踏み出す度に軋む木の床―というより板。ロープはボロボロでいつ切れてもおかしくないように見える。…そして前のお二人さんよ、頼むから揺らさないでくれ。ああ無理。怖い。もう泣きそうである。
「待ってぇなぁ…!クラウドぉ…!!」
前を進むクラウドを必死に呼び止める。クラウドは振り返り、へっピリ腰で泣きそうになっているシンバを見た。コイツは変なところで気が弱くなる。まったく可笑しなやつだ。
クラウドは一つ溜息をつくと逆戻りし、
「…ほら、おいで」
キュン。シンバは自分の心がそう言ったのを聞いた。「おいで」なんてこんなところで言われたらクラウドの事好きになってしまうではないか。これが吊り橋効果ってやつか。…コイツ、狙ったな。絶対狙って言った。このツンデレツンツンチョコボ頭め。でも嬉しい。あぁ、自分はやっぱりM気質かも。なんてどうでもいい事を考えながら、シンバはクラウドの手をとった。
しかしそれだけでは恐怖は拭えない。クラウドの右腕にこれでもかというくらいしがみついてやった。
「シンバ…そんなにくっつくな。歩きにくい」
照れ隠しの為かクラウドはシンバに嫌味をぶつける。まさかそんなに必死で自分に抱き付かれるなんて思いもよらない。コイツに軽はずみな言動は今後控えよう。自身にも負担がかかるし、現に自分も気がきではない状態である。寧ろここから落ちてしまいたい。いっそ楽になりたい。クラウドはそう思った。
「…クラウドの歩きにくさより自分の命の方が大事やもん!」
逞しいクラウドの腕にしがみつきながら、一歩一歩着実に足を進める。
しかしなんだかドキドキが止まらない。やだやだ、まんまと吊り橋効果にハマっているぞ自分。…それにティファ、ごめんなさい。ティファのクラウドとってごめんなさい。
「お前な…」
そんな二人の様子をティファは何故かニヤニヤしながら見つめている。そのティファの表情をシンバは勘違いしてしまっていた。ティファ、これは違うんだ。正当防衛だ。今だけは勘弁して下さい。と訴えるようにティファを見た。ティファはそれに気づいてニッコリと笑う。しかし今のシンバにはその笑顔が逆に怖い。あぁ、ティファも敵に回すと厄介そうだ。後でしっかり弁明しておこう。シンバはそう心の中で呟いた。
*
シンバのせいで大分バレット一行から遅れをとってしまったが、クラウド達もようやくコレルへと辿り着いた。
コレルに入るとそこには村人が群がっており、その中心には何故かバレットの姿。何事かと駆け寄ると、バレットと村人が言い争っているではないか。またバレットが何か無鉄砲な事をしでかしたのだろうかと誰もが思っていたが、…しかしよくよく話を聞いてみると大分バレットが罵倒されている。いつものバレットなら暴れだして銃を乱射しているはずなのに、おとなしくションボリしているバレットがそこにいたのである。…これは一体どうした事か。この村人達とバレットの間に一体何があったのか。
「…どうしたの?」
言いたい事を言いまくって気が済んだ村人達がバレットの元を去って行った後で、ただ一人残されたその元へ駆け寄った。バレットはそれに気づき、バツが悪そうに口を開いた。
「聞こえただろ?俺のせいでこの村は…壊れてしまったのさ――」
村を避けるようにロープウェイ乗り場に集った一行は、バレットから詳しい話を聞いた。
昔。この辺り一帯にはバレットの故郷があり、そこは古くから炭鉱の町として知られていた。その炭鉱が彼らの唯一の収入源だったが、魔晄がエネルギー源の大半を占めていったため炭鉱はどんどん必要とされなくなってしまった。そして彼らの生活も貧さをたどる一方となってしまったが、それを苦とすることなく誰もがそこで長閑で穏やかな時をすごしていた。
そんなある日、コレル山に魔晄炉建設の話が神羅から持ちかけられた。村人たちは町が裕福になると信じ込んでその計画に大賛成だった。…ただ一人バレットの親友―ダインを除いては。
ダインは最後まで魔晄炉建設に反対していた。大昔から続いてきたコレル炭鉱の歴史を失いたくなかったのだ。自分は炭鉱とともに育ってきた。だからその炭鉱を捨てることは出来ないと。…けれども反対派はダインだけだった為、魔晄炉建設は着々と進められていってしまった。
しかし、バレットとダインが町をほんの少し離れていた間に、事件は起こった。
「――コレル村は神羅の軍に焼き払われてしまったんだ。…大勢の村人も、俺の家族も、一緒に…」
「神羅の軍?一体なんの為に…!?」
「魔晄炉で爆破事件が起こったんだ。神羅はその事故の責任をコレル村の俺たちに押し付けたんだ。反対派の仕業だと言ってな」
「ひどい…」
「あぁ、確かにな。…でもよ、俺は神羅以上に自分を許せなかった。俺さえ魔晄炉に賛成しなければ――」
「自分を責めちゃだめよ。その頃はみんな神羅の甘い言葉に踊らされていたんだから …」
「だからよ、だからこそ俺は自分に腹が立つんだ!甘い言葉に乗せられたあげく女房を…ミーナを…」
バレットが拳を握りしめる。バレットの気持ちは皆が痛いほどわかっていた。
シンバはバレットに何も声をかけれなかった。ただ、その強く握り締められた拳を見つめることしか出来なくて。
「…時間だ、行こうぜ」
ロープウェイの係員が出発の合図を知らせ、一行はしぶしぶロープウェイに乗り込んだ。