真っ赤な夕日が空を染めあげ、海も砂浜も建物もコスタデルソルの全てがその赤に包まれる頃。
ビーチには昼間の賑やかさとは打って変わって人影もほとんどなかった。静まり返ったビーチは、波の音を一層大きく響かせていて。
「…、」
そんな場所で一人、波打ち際に座り込んで一人黄昏ているのはシンバ。何か物思いにふけるように、シンバは沈みゆく夕日をずっと眺めていた。
「…何をしているんだ?」
そんなシンバの背中に話しかけてきたのはクラウド。シンバの姿が何処にも見当たらないので探しにきたようだ。…クラウドは保護者か。
「んー?…ちょっと考え事」
考え事と言われ深刻な事だろうかと思ったが、シンバが笑顔を向けてきたのでたいした事ではないのだと悟る。
そうしてクラウドはシンバの隣に腰掛けた。
「…ウチのな、家の側に大きい湖があったんよ」
…昔話か。そういえばシンバの過去の話―世界の話はあまり聞いた事がなかった。なんだか聞いたら悪い気もしていたし、今となってはシンバが他世界からきた事などすっかり忘れてしまっていると言った方が正しい。
「向こう岸が見えへんくらい大っきい湖でな、そっから見る夕日が凄い神秘的でなぁ〜…。これ見てたらそれ思い出してしもて」
シンバが思い出している場所―それはシンバの故郷。クラウドは知らないし絶対わからない。知りたくても、知る術のない場所。…クラウドはそこで自分とシンバとの隔たりを感じた。
自分たちは同じ人間でも、違う人間なのだと。
「こっちに来てから久しぶりに考えたなぁ。…自分の世界の事」
シンバは笑ってたが、どこか切なげだった。
「……、」
クラウドにはシンバの世界の事を聞かなかった分、もう一つ聞けなかった事があった。
「シンバは、帰りたいと思った事はないのか…?」
「……帰りたい、かぁ…」
それだけ言って黙ってしまった彼女に、やはり聞かない方がよかっただろうかと後悔が募る。これを機にまたいろいろ考え出して余計に帰りたくなってしまったらどうしよう、なんて。
「う〜ん…そう思った事はないかなぁ?」
逆に聞くな。しかしその返事を聞いてクラウドはホッとしたように小さく息をつく。
「別に帰ったってこれといって何もないしなぁ。…こっちの世界でみんなと一緒におって今ウチすごい幸せやし。みんながおるからこうやって今頑張れてるし!」
ありがとう。シンバはにっこり笑ってそう言った。
それを見たクラウドは恥ずかしそうに視線をずらす。
「…何でお前が礼を言うんだ」
「ん?おかしいかな?一応仲間に入れてもらった側やし?」
「…礼を言うのはこっちのほうだ」
「へ?」
次の言葉を待つも、クラウドはそれを一向に口にしようとはしない。
「何で?」
「…秘密だ」
なんだそれ。気になって今日眠れないじゃないか。…とかいいつつ結局爆睡するんだけれども。
「クラウドはホンマにツンデレやなぁ」
「ツンデレ?…って何だ?」
「へへっ!」
シンバは笑って立ち上がり、服に付いた砂を払い落とす。
「ひみつー!」
ベーッと舌を出して悪戯に笑い、シンバは夕日と反対方向へ歩き出した。
クラウドも立ち上がり、少し後からシンバを追う。
「…言えるわけ、ないだろ」
スキップしながら宿屋へ戻るシンバの背中を見つめながら、クラウドは小さく呟いた。
『この世界に来てくれて、ありがとう』
なんて。