「――シンバ!大丈夫か!?」
「ん…ダイジョブ」
クラウドに差し伸べられた手を取り、シンバはよっこいしょと立ち上がった。
そして辺りを見回す。そこに広がっていたのは、見渡す限りの砂漠。…ここはアフリカですかといわんばかりなその光景に、シンバは多少ゲンナリした。
「…つうか暑い!!何この気温差!やばない…!?」
「砂漠の監獄…コレルプリズンですわ」
「砂漠の監獄?」
「砂漠の流砂に囲まれた自然の監獄や。一度入ったら出る事はかなわんって聞いてます」
「まじで!?」
「けど、確かなんか特例があったような…」
「そこ一番肝心やないかい!」
まあ知ってるんですけどね。と心のなかでツッコミながら人気のある方へ移動をする。
すると、目の前に現れたのはあの時皆が探し回っていた張本人。しかし、それが立っている場所はなんと人の死体の前。その光景を目の当たりにした一行の脳裏に思い出されるは、闘技場での一コマ――
「バレット…。アンタまさか本当に――?!」
あの場で満場一致してしまった犯人の構想。それは本当にバレットなのだろうか。誰もそんな事信じたくはなかった。だからこの様にして今本人に確認をとっているのに、その本人の顔は何かに焦っているような顔つきだった。
「来るな!これは俺の、…俺がカタをつけなくちゃならねえ事なんだ!ほっといてくれ!!」
それだけ言い残して、バレットはまた何処かへ行ってしまった。…やれやれ、とシンバは不満気な溜息をもらす。暑さのせいもあってか、シンバは多少―いや大分イライラし始めていた。
シンバはバレットがいるであろう民家に向かっていち早く動いていた。とにかくここのイベントを早く終わらせてしまいたい。なにしろ暑い。っていうか暑い。早く上に帰りたい――
民家に着くや否やシンバは躊躇なくその民家のドアを勢いよく開けた。そこには案の定バレットの姿があって、
「来るなと言ったじゃねえか!」
「うるせえこのデカブツ!一人でかっこつけてんじゃねえぞハゲ!!何もかも背負ったつもりでよ!バッカじゃねえの!?」
「なっ、なんだと!?」
そこにいる全員がシンバの暴言に驚いていた。…いや、バレットが一番驚いていた。シンバはそのままの勢いでその場にあったソファに腰をドシッとおろす。
「「…、」」
皆がシンバを凝視していた。何故シンバはそんなにイライラしているのか。この子ってこんな子だったっけ。ってゆうかバレットは別にハゲてないぞ。もしかして女の子DAYか。…それぞれがいろんな思考を繰り広げる中、バレットがいきなりその腕―銃を構える。
「やめてバレット!!」
「ちょ、ちょっとタンマ!話せばわかるって!!」
仲間になった途端仲間割れなんてとんでもない。ケット・シーが必死に仲介に入るもそれは意味をなさず次の瞬間、その部屋に銃声が大きく響き渡った。
「――……?」
しかし、バレットが乱射したその銃弾で、傷ついた者は誰一人としていない。…ソファの後ろに忍び込んでいた輩を除いては――
「…盗賊!?」
自分たちの身ぐるみを全部剥がすつもりだったのだろうか。いつから後を付けていたのかは知らないが、バレットお手柄…と、いうより撃つ前にそれを言って欲しい。
「お前達を、巻き込みたくなかった…」
「それクラウドのセリフ!『危険だ、巻き込むわけにはいかない』とかなんとか!」
エアリスはクラウドの真似をしながらそう言った。…全く似てなかったが。
「そうそう!それに私達もう思いっきり巻き込まれちゃってるんだから!」
「ホンマによ!特にウチなんかオモクソ巻き込まれとるっちゅーねん!!」
「…闘技場の事件は片腕が銃の男の仕業だと聞いたが…まさかアンタか?」
「違う!!…もう一人いるんだ。片腕に銃を持つ男――」
過去のあの日。バレットとダインが少しだけ村を離れてしまった日――
ダインとバレットが帰宅途中で出くわしたのは、血相変えてこちらへ向かってくる村長だった。村長から村が神羅軍に襲われたというのを聞いた二人は、丘の上から村が焼け払われている光景を見て絶句した。
急いで村に戻ろうとした時、そこへ神羅兵がやってきていきなり銃を乱射し始めた。何もしていない無抵抗の村長が目の目で射殺されてしまい、…このままでは自分たちも殺られてしまう。必死に逃げ惑うも、神羅兵が数を増し比例してその銃弾の数も増していく一方だった。
そうして避けきれなくなった銃弾にダインが捉えられ、そのまま崖から転落しそうになったのを間一髪でバレットが掴む。…しかしそれも束の間。容赦ない銃弾の群れが、バレットとダインの繋ぎ目を、撃ち抜いてしまって――
なんとか生き残ったバレットだったが、その右手は使い物にならなくなってしまった。しばらく悩んだ挙句バレットは右手を銃に変える選択をとったのだが、…その時彼は知ったのだった。自分と同じように自身の手を銃にした男がいる、と。
「――…そいつは左手が銃になっている」
「でも、…それならダインもあなたと同じでしょ?」
「そうよね。神羅に騙されたんだもの。…きっと一緒に神羅と戦ってくれるわ!」
「…わからねえ。わからねえが、俺はダインに謝らなくちゃ気が済まねえ。…だからよ、」
「一人で行く。ってか?」
「好きにしろ。…と言いたいところだがダメだ。ここでアンタに死なれると夢見が悪そうだ」
「バレットの怨念は強そうやしなぁ〜?」
「バレット、ここで終わりじゃないでしょ?…星を救うんでしょ?!」
「…星を救うなんてカッコつけてるが俺は神羅に復讐したいだけなんだ。自分の気が済むようにしたいだけなんだよ!」
「…ええんちゃう?別に。理由なんてどうでもええねん」
「わかりやすいよそのほうが。バレットらしいもん!」
「というわけだバレット。…さて、誰が行く――?」
*
そうしてダインの元へクラウド・シンバ・バレットの三人が行く事になった。
ダインを一目見てみたいというだけの単純な理由で立候補してしまったシンバは、砂漠を歩く中でそれを既に後悔し始めていた。…暑い。忘れていた。ここが砂漠のど真ん中である事――
「あっっつい!!も〜〜どこにおんねんボスとやらは!!早う出てこいや!!」
シンバのイライラがまた増してきた。どうやらこの女暑さに比例してイライラ度が増すらしい。…だったら何でついてきたんだ。クラウドとバレットは同じ事を思ったが口を出さない事にしていた。そんな事言えばきっとシンバからこれでもかというくらいの暴言を浴びせられるに決まっている。…クラウドもとい、バレットは実は尻に敷かれるタイプなのかもしれない。
「――おい、あそこ…」
しばらく歩くと、古ぼけた小屋にたどり着いた。
そこから聞こえてくるのは、リズムよく撃たれる銃声――
「ダイン…なのか?」
バレットと同じぐらいの背丈、身体はバレットほどガッチリしていないが、それでも筋肉質の男がそこにはいた。
「懐かしい声だな。…忘れようにも忘れられない声だ――」
しばらくダインとバレットの対話が続いていたが、ダインの言動はどこかおかしさを増していった。この世界には何もなく、この街の人間をこの街の全てを―この世界の全てを自分は壊してしまいたい、だなんて。
…一体彼はどうしてしまったのだろう。シンバは、ただただ黙ってその話を聞く事しか出来なくて、
「――コレル村…エレノア…マリン…」
失ってしまったモノの名をあげていくダイン。しかし次のバレットの言葉に、ダインは酷く反応を示した。
「マリンは、…マリンは生きている」
「…なんだと――?」
バレットとダインが銃弾によって引き裂かれてしまった後――
バレットは村に戻っていた。せめて最後は女房のそばにいてやりたいと思ってのことで、自分もそこで息絶えるのだと覚悟をしていた。…しかし、そこでバレットは小さな女の子を見つけた。それはダインの子―マリンだった。
…マリンは、バレットの子ではなかったのだ。
「――マリンはミッドガルにいるんだ。…一緒に会いに行こう、な?」
「そうか…生きてたのか」
ダインはうっすらと笑うと、バレットに銃口を向ける。
「わかったよバレット。…やはりお前とは戦わなくてはならない」
「…なんだと?」
「エレノアが一人で淋しがっている。マリンも連れて行ってやらないとな」
狂ってる。それが父親が言う言葉か。…シンバは自身の拳を握りしめる。
「ダイン、正気か…!?」
「マリンだって母さんに会いたがっているだろう?」
躊躇なく引き金が引かれ、銃弾がバレットを掠める。咄嗟にクラウドはシンバを庇う体制をとり、岩陰に身体を押しやった。
「やめろダイン!俺はここで死ぬわけにはいかねえんだ!」
「…そうかい。俺はあの日から命は捨ててるぜ?」
その間も顔色を変える事なくダインはバレットに銃を向け続け、どんどん距離を詰めていって、
「やめてくれ!俺はお前とは殺りあいたくねえ!!」
「…!!」
しびれを切らしたシンバがバレットに駆け寄ろうとしたが、クラウドの手が―バレットの声がそれを制す。
「手を出すなシンバ!!これは俺の問題だ――!」
…バレットとダインの一騎打ちが続く中、シンバはそれをいたたまれない気持ちで見ていた。
この後のダインの行動は知っている。何としてでも止めなければならない。…もう、目の前で人が死ぬのは見たくないから。
「……」
先ほどまでと雰囲気が違うシンバの様子を、クラウドはしっかり感じ取っていた。今にも泣き出しそうな顔をしている隣の女。平和主義な彼女にこの状況は刺激的すぎるのかもしれない。…そう思えばクラウドはなんだか見ていられなくて、シンバの肩を抱きしめ自身の方へ寄せた。
「っ…!」
クラウドの突然の行動にシンバは驚きその本人に顔を向けたが、本人はそれを避けるようにバレットとダインの方へ視線を送っている。
しかしそれによって自身のソワソワした気持ちが落ち着けられたような気がして、シンバは何も言わずにそのままクラウドに身を預けていた。
*
一騎打ちは、バレットの勝利で終わった。
フラついて地面に膝をついたダインにバレットが駆け寄ろうとするが、ダインは無言のまま前へ手をかざし「来るな」と制した。
そして一人ゆっくりと立ち上がり、足を引きずりながら壁際へと寄って行く。
「俺はあの時、片腕と一緒に…かけがえのないモノを失った……どこで、食い違っちまったのかな…」
「ダイン…わからねえよ。…俺たちこういうやり方でしか決着をつけられなかったのか…?」
「言ったはずだ…俺は、壊してしまいたかったんだよ…何もかも……この狂った世界も、俺自身も…」
「マリンは、…マリンはどうなるんだ!!」
「考えてみろバレット…あの時マリンはいくつだった?……今更、今さら俺が出て行ったところで…あの子にはわかるはずもない。…それにな、」
マリンを抱いてやるには、俺の手は汚れ過ぎた。…そう言ってダインは壁際から崖へと移動し始める。
「っ、」
シンバはそのダインの言葉を聞いたと同時、クラウドの元から駆け出していて、
「っシンバ!?」
尚も崖へと向かうダインの服を思いきり引っ張ったシンバは、ダインを自身の方へ強引に振り向かせた。
パンッ―
銃声ではない、乾いた音が辺りに響いた。
クラウドもバレットもその光景に唖然とする事しか出来なかった。…シンバがダインの頬を引っ叩いたのだ。
「そんなん、ただの言い訳やわ…」
「…、」
「汚れ過ぎたって?…汚したんは自分やろ!?そんなん言い訳や!…アンタ父親やろ!?自分の娘が大きなった姿ちょっとでも見たいと思わへんの!?別に会って自分が父親ですなんて言わんでもええねん。知らへんオッサンの振りでもええねん!!……生きてたら、なんとかなるやん。今からでも、何も遅ないやんか…!!」
その場にへたり込んだシンバの目から、溜まっていた涙がこぼれ落ちた。
頼むから死なないで欲しい。現実世界では自分の周りに"死"は溢れていなかったのに、この世界に来てからというもの毎日がそれと隣り合わせだ。モンスターも然り、次々と死んでいくモノ、人、街――
「…嬢ちゃん、名前は?」
「……シンバ」
「そうか。…シンバ、」
シンバはダインを見上げた。
「…ありがとう」
ダインは、笑っていた。
そしてダインは胸ポケットから何かを取り出すと、バレットに向かってそれを投げる。
「そのペンダントをマリンに…。エレノアの、女房の形見だ…」
バレットはそれを受け取ると、わかったと一つ返事をした。
それを確認したダインはポツリと愛しいわが子の名を呟きながら、歩き出す。
…シンバの意思とは、反対方向に――
「っアカン…!!」
シンバは立ち上がり再びダインを止めようとしたが、…しかし。
パァンッー!!
「「っシンバ!!」」
一つの銃声。一瞬何が起こったのか分からなかったが、自身の左太ももに鋭い痛みを感じ、足が自然と止まった。見れば太ももから、出血している。撃ったのは、
「っ、待っ――」
…ハッと我に返り、前を向いたが遅かった。
ダインは両手を広げ、背中からそのまま崖の下へ落ちていった。
「っ、ダイーーーーーン!!!!!」
バレットがすぐさま駆け寄り、膝をついてダインが消えた方を見やる。シンバもその場に倒れるように膝をつき、それを支えるようにクラウドが横に寄り添った。
「大丈夫か、シンバ…――」
小さく一つ頷いたシンバだが、しかし次の瞬間泣きじゃくっていた。シンバの気持ちを抑えるようにクラウドは彼女を優しく抱きしめる。
「っ…――」
また人が死んだ。…目の前で。
結局何も出来なかった。
…何も変わらない。
自分は、何も変える事が出来ない――
「ダイン…俺だって…俺の手だって、…汚れちまってる――」
バレットの泣き叫ぶような声が、辺り一帯に響き渡っていた。