バギーに乗り、ひたすら砂漠の道をゴンガガ方面へ向けて進む。砂漠にこれといった道はないので、砂にタイヤを取られて大きくバギーが揺れる事が多々あり、…それにダウンしている者が若干名。
「…お三人さん、大丈夫かいな?」
ケット・シーが目の前で酔いと格闘している三人を見ると、クラウド・シンバ・ユフィの三人はもうダメだといった顔をしている。
「無理。もー無理」
「バレット、もう少しお淑やかに運転してくれません?」
「バレットにお淑やかさを求めたって無理よ」
「俺だって頑張ってんだよ!ちょっとは我慢しろ!!」
「や、もう我慢の限界かも――」
そうして限界に達したクラウドが、自身が運転していた方が気が楽だと言うのでバレットと運転を変わる事になった。
「砂漠はてしねー」
「早く抜けないかな…もうヤダ」
普段はうるさいこの二人も乗り物の上ではおとなしい。この中ではユフィが最年少だが、今やシンバはユフィと同年代―同じ類のモノとして設定されてしまっていた。
「この先の森の中にゴンガガいう小さな村があります。そこで休憩したらどないでしょ?」
「ディオの手紙にもセフィロスがゴンガガ方面へ向かったと書いてあった。…少し寄ってみよう――」
そうして一行は、ゴンガガへと向かう事にした。
ゴンガガの中まではバギーでは通れないので、バギーでお留守番をする班とゴンガガへ向かう班に別れる事になったのだが。
「あー…ウチもゴンガガ行きたかったなぁ…」
バギーの上で項垂れるシンバ&ユフィ。乗り物酔いに潰れる二人は有無を言わさず待機組となったのであった。
そうしてポツリとつぶやいた願望。シンバよりもユフィの方が重傷のようで、シンバの呼びかけにいつもテンション高く答えてくれるユフィが今は返事すらしてくれない。
「今回は大人しくしてるんだな」
バレットが横で笑う。今回はってどういう事だ。自分はいつも大人しいじゃないか。普段みんなの目に自分はそんな風に映っているのか。…少し自重しよう。シンバは少し反省した。
しかし、ゴンガガといえばザックスの故郷である。この物語のある意味キーパーソンともいえる人物。エアリスの反応が気になって仕方ない。そしてなによりシンバは、ゴンガガで会いたい人物―いや動物―いや両生類がいた。
「…なあ、ウチもう元気やで行ってもええ?」
どうしてもゴンガガへ行きたい。どうしても会いたい人がいるんです。シンバは訴えるような目でバレットを見た。
「…そんなに行きたいのか?ゴンガガにはこれといって何にもねえぞ?」
「ええねん!ウチはいろいろ見たいお年頃やねん!」
「かといってシンバはん一人やと迷子になりそうやしなぁ〜」
「おいケット!それはウチを馬鹿にしとんのか!?」
「そうだな。見るからにシンバは方向音痴そうだ」
ちょっと待て。何で自分はいつもそういうキャラに回されるんだ。いや実際方向音痴なのは確かなのだが。
「ほなレッド!一緒に行こうや!」
こんな自分のわがままに付き合ってくれるのはユフィかレッドくらいである。しかし未だユフィは酔いつぶれているので(意味違)、レッド―君に決めた。ご指名を受けたレッドは犬のように尻尾を振って喜んでいる。THE、単純である。
「まぁレッドは鼻が聞くから大丈夫だろう」
…もはや犬扱い。そもそもレッドって何科の動物なんだろうか。何で誰もそこには首を突っ込まないのだろう。そういう自分も突っ込まないのだが。
そうしてシンバは愛犬レッドを連れてゴンガガへ続く森へと入って行った。
*
「――…シンバ、何してるの?」
森に入るや否やキョロキョロと辺りを見回しまるで何かを探すように歩き出したシンバを、不思議に思ったレッドが問う。
「レッドも探して!」
「何を?」
「カエルさん!!」
「…カエル?」
そう。シンバはあるカエルを探していた。それは列記としたモンスターの一種なのだが、人をカエルの姿に変えてしまうという必殺技を持っている。名をタッチミーという。シンバはどうしてもそのカエルに会いたかった。人がカエルの姿になる瞬間を一回見てみたかったのだ。ただそれだけの理由だが、そんな魔法みたいな瞬間現実世界では見られない。これは貴重な体験なのである。こんなチャンス逃してたまるものか。
「絶対捕まえるんやで!わかった!?」
いつになくシンバは本気だった。こんなにシンバが本気になるなんてそのカエルは凄いカエルに違いない。レッドは鼻をクンクンと動かして、目的のカエルを一生懸命探した。
…自分がその犠牲となる可能性も知らずに。
*
一方。ゴンガガへ続く森の中にはクラウド達とシンバ達以外にも…人影があった。
「なぁ、ルード。あんた誰がいいんだ?」
「…」
「な〜に赤くなってるのかな、と。ん?誰がいいのかなぁ〜?」
「……ティファ」
「な、なるほどな、と。…辛いところだなアンタも。…しかしイリーナも可哀想にな、あいつアンタの事――」
「いや、あいつはツォンさんだ」
「そりゃ初耳だな、と。しかしツォンさんはあの古代種――」
ゴンガガへと入る別れ道の手前で、なんとも場違いな会話―そしてその二人にはなんとも似合わない話をしているのはレノとルード。一行に現れないターゲットに暇を持て余していたのだろう。…タークスって結構暇な仕事なのかもしれない。
そして二人の気配に気づき、草陰からその恋バナを聞いていたクラウド一行。
「アイツらなんの話を…――」
クラウドが呆れ顔でその二人を見やる中、エアリスとティファは興味津々で耳を傾けていた。今にも自分もちょっと混ざってくるわと言いそうな雰囲気である。
「…そういうレノはどうなんだ?」
攻められまくっていたルードがレノに聞き返す。
「…あぁ、俺はなぁ〜」
レノが天を仰いだ。そして受付の姉ちゃんだの研究員のあの子だのと次々に女の名前をあげていく。流石レノ様。…と言いたいところだが、ルードがそれを一言で否定した。
「嘘をつくな。…シンバ、だろう?」
「「!!」」
それを聞いていた全員が激しく反応を示す。
「…何でそうなるんだ、と。俺は別にアイツの事――」
「何年お前の相棒をやってると思っているんだ。…俺にはわかる」
レノは何かを紛らわすかのように自身の頭を掻き毟る。そしてそれを聞いて焦っている人物がもう一人――
「…クラウド、ライバル増えちゃったね」
「…は!?」
いきなりエアリスにそう言われクラウドは過激に反応した。
「…何で俺が――」
「やだ、もうバレバレよ?クラウド。隠したって無〜駄!!」
クラウドは顔にでる。そう言われてクラウドは片手で自分の顔を覆った。そんなに自分は顔に出てしまっているのだろうか。ポーカーフェースで有名だったのに。これじゃ自分のイメージが崩れてしまうではないか。…って何の話だ。
「しかしレノがねぇ〜、シンバの事好きだったなんて…」
「本当ですよ!先輩変なところで素直じゃないんですよね!!」
エアリスの声に反応したのはティファでもなくましてやクラウドでもないなんとも甲高い黄色い声。驚いてその声の方へ振り返ると、そこにいたのはあの金髪の女。
「って何でこっちの会話に入ってるんだ自分!!」
イリーナは自分でノリツッコミをいれてレノ達の方へ走って行ってしまった。なんて面白い女だろう。コイツもシンバとウマが合いそうだな。…いや、そんな事に感心している場合ではない。盗み聞きしていたのがバレてしまったではないか。
「先輩達!あの人たち"本当に"来ました!私ツォンさんに報告に行ってきます!」
「出番だな、と。…ルード、あの子がいても手を抜くなよ、と」
「…仕事はちゃんとやる」
なんて真面目なんだルード。公私混同は厳禁。これぞタークス。
「お前もな、レノ」
「…シンバは一応こっち側の人間だぞ、と――」
「――何度言えばわかる。シンバは神羅には戻らない」
クラウドが早速バスターソードを抜いた。それを見てエアリスが「さっきの話で余計イラついているんだわ」と後ろで呟いたのを、クラウドは聞かなかった事にした。
「…シンバはどこだ?久しぶりに会いたいんだけどよ」
「ここにはいない。…いても貴様になど会わせるものか」
「ジュノンでもアイツ卑怯な手使いやがってよー。話せなかったんだぞ、と」
「ジュノン?…何の事だ?」
聞いていない。聞いてないぞ。いや私も聞いてない。エアリスとティファは後でシンバをとっちめる事を胸に誓った。それにしても二人のやり取りが面白くて仕方がない。シンバってばモテモテね、などと二人はいささか呑気である。
「俺とシンバの秘密だぞ、と!」
カチン。クラウドの頭の中で音がした。いちいち言い方が腹が立つ。この男早いとこ締めておかないと厄介そうだ。これにルーファウスが加わるとなると手に負えなくなる。まったく変な奴らに好かれてしまったなシンバは。いやそうすれば自分も変な奴になってしまうではないか。それに自分は入っていない事にしよう。いやいや根本的に違うぞ。俺は別にシンバの事なんて――
「――クラウド!何ボーッとしてるの!!」
ティファのお叱りを受けクラウドはハッと我に帰った。それをエアリスがクスクスと笑っている。この状況を楽しむなエアリス。…いろんな意味でエアリスも厄介だった。
「それはともかく…七番街での借りは返すぞ、と!」
「七番街…忘れたな」
クラウドとレノが睨み合い、そして一気にその場の空気が変わる――
…しかしそれを打ち破ったのは、誰もがここに来る事を予想だにしていなかった人物だった。
「――あ!クラウド!見てみてー!!タッチミー捕まえ――げっ…」
小学生が獲物を自分の手でとれた喜びを表すのと同じように、シンバは両手でタッチミーというそのカエルを抱え胸の前で高々と掲げて見せていたが、クラウド一行が対峙している人物たちを見てあからさまに焦った顔をした。
いきなり現れたシンバにその場にいた全員が驚いてはいるものの、それ以上にその胸に抱えられている生き物に視線は注がれる。
注目を集めたそのカエルが小さくケロ〜っと鳴く。あまりにも場違いなそれを聞いて全員が張り詰めていた緊張感から開放されたようにガクリと肩を落とした。
「シンバ、お前な…――」
「シンバ、ちょっとは空気を読みなさい」
「…ごめん。なかった事にしてケロ」
じゃ。と言ってレッドと共に再び森の中に消えようとするシンバ。それをスーツを着ている男たちが易々と許してくれるわけもなく、シンバはその赤毛に呼び止められた。
「おいおいそりゃねえぞシンバ!」
ギクリと振り返れば満面の笑みのレノと、サングラスで表情があまり読み取れないルードがこちらを見ている。シンバはその笑顔に恐怖を感じてそそくさとクラウド達の背後に隠れてしまった。
「…シンバ虫嫌いじゃなかったっけ?」
「うん。けどそれとこれとは別や!知っとる?このカエル凄いんやで!!」
クラウドの後ろでティファとエアリスにカエルについて熱く語り出したシンバ。それにレノ達はまたガックリ肩を落とした。
「…おーいシンバちゃーん。無視しないでくれるかなー?」
せっかくこのカエルさんの凄さをみんなに教えていたのに。レノの声で中断させられてしまった事にシンバはあからさまに不機嫌な表情を出す。
「そんなに怒るなよ。俺とお前の仲だろ?」
「変な言い方をすな!アンタ相変わらずやな!!」
カエルさん投げるぞ!とシンバが言う。いやそんなもの何も怖くない。ただのカエルじゃん。皆はまだこのカエルの恐ろしさを知らない為か呆れた顔をシンバに向けるばかり。
「とにかく、ここは通してもらおうか」
「…一つ提案があるんだけどな、と」
「何?」
「ここは通してやる。…その代わり、シンバと話をさせてくれ」
「「!!」」
先ほどまでのヘラヘラしたレノはどこへやら。至って彼は真剣な顔をしていた。
…あぁ、気まずい。何でそっちにいるんだのまた戻って来いだの言われるのは確実だ。面倒くさい。嫌だ、何も話したくはない。捕まるのも引き止められるのもごめんである。
「話すことなんかない…!!」
シンバはいたたまれなくなってその場から逃げ出してしまった。それを瞬時にレノが追う。クラウドがそれを止めようとしたが、それはルードによって妨げられてしまって。
「貴様…!」
「…少しだけでいいんだ。話をさせてやってくれないか?」
「「――!?」」
*
「――っシンバ待てよ!!」
「待たへん!ついてくんなっ!!」
「待てってば!!」
「っ!!」
レノとの鬼ごっこにシンバが敵うはずもなく、あっけなく右手を掴まれ走る行為を強引に止められてしまった。離せと言ってその男がそれをすんなり受け入れてくれる筈もなく。一定の距離を保ったまま、それでもシンバはそれを振りほどこうと必死になっていた。
「レノっ…!」
「……何でだよ」
「っ…?」
「何で、だよ…――」
レノの顔が曇っていく。その意味がわかってシンバは気まずくなって視線をずらした。レノの言わんとしている事が嫌でもわかる。けれど理由は聞かれたくない。言いたくない。…否。言えない。何故ならこれといって相手を納得させられるほどのハッキリとした理由が見当たらないからだ。
「お前がいねえと俺、…ダメなんだよ」
吃驚して、レノの顔を見てしまった。そんな事言われるなんて思ってもいなかったから。
彼の顔にある、一つの想い。その目が訴えること。ドクリ、と一つ心臓が反応する。
「シンバ、俺は、」
「…やめて、」
――でも、ダメだ。
こんなの、いけない。
「俺はお前のこと――」
「っ!やめてや!!」
それ以上聞きたくなかった。…違う。聞いてはいけない。その声を遮るようにシンバは、手に持っていたものを思いっきりレノに向けて投げつけていた。
…シンバが投げつけたもの。それはあんなに大事に抱えて持っていたカエルさんだった。
まさかカエルさんもいきなり投げつけられるとは思っていなかったのか、ケローっと高々と鳴きながらレノに突っ込んで行った。カエルさんの防衛本能が瞬時に働いて、カエルさんは体からある物質を噴出していて、
「!」
シンバから投げつけられたものだし別にただのカエルだと思っていたレノは、反射的にカエルをキャッチしてしまっていた。
…自身がどうなってしまうのかも知らずに――
ボンっ――
カエルさんがレノに渡ったと同時。白い煙がレノを包んだ。
*
「――!?」
後を追いかけてきたクラウド達とルードは、目の前で起こっている事にしばし思考が停止していた。
「な、なんだ…!?」
やがて白い煙がはれるも、そこにレノの姿はない。いたのは先ほどシンバが抱えていたカエルと、新たに出現した赤いカエル――
「れ、レノ…?!」
クラウド達とルードは目の前の状況に驚きを隠せなかった。一体何がどうなってこんな事になっているのかがわからない。赤いカエル自身も何故自分がここにいるのだろうといったようにキョロキョロしている。
…しかしそんな状況で、ただ爆笑している人物が一人。
「っぎゃはははは!!レノ!レノがカエルになった!!あははははは――!!」
いや、カエルにしたのはお前ではないのか。さっきまでのシリアスな雰囲気はどこへやらだ。ツボにハマったのかシンバは笑う事をやめない。
そんなシンバの笑が辺りに響きわたり、そしてそれは周りに多大な影響を与え始めていた。それつられ、暫くして皆も笑だしてしまっているのである。ルードはかろうじて笑ってなかったが、顔が若干にやけてきていた。
「くっ…ここはいったん引かせてもらおう…っ」
少し声が震えている。…笑いたいなら笑えばいいのに。
ルードはカエルになったレノを大事そうに抱えると、森の中に姿を消してしまった。その一連の流れを見てさらにシンバは笑っている。
「あははははっ!!ホンマにカエルになった…!!」
ひーひー言って未だ笑っているシンバ。なんて恐ろしい女だ。人がカエルになったのを見て喜んでいる。
…というか本当に何があったのだろうか。あのレノが素直に自分がカエルになってやると言ったとは思えない。言ったとしてもなんだかMっぽくて引く。まったく状況が掴めないクラウド達は、ただただ笑うシンバを見つめるしかなかった。
「――…そもそも何であの人たちここにいたのかしら?」
「確かにそうね。…偶然っていうより、待ち構えていたって感じがしなくもなかったわ」
「尾行されたか…。しかしそんな気配はなかったからな。という事は――」
スパイがこの中にいる。皆の頭にその言葉が過ぎったが。
「…そんなわけないか、」
「そうね…私は皆を信じるわ」
一行はシンバの笑い声を聞きながら、ゴンガガ村へと足を踏み入れた。